第4話 アクロダの宿

 グレイハルトの報酬は贅沢をしなければ2か月は暮らせる額であった。命あってだが10日ぐらいで2か月分の稼ぎは大きい。しかしバニラを城に送ると約束した手前、旅資金として足りるのか不安があった。

 グレイハルトはギルド受付で吸血鬼の聞き込みを行った。

「なぁ。吸血鬼ってどこにいるんだ?」

「はぁ?吸血鬼?今時、そんは魔人居るわけ無いじゃないですか。グレイハルトさん戦闘で頭とか打ちました?」

「だよなぁ。伝説とか物語りとかないの?」

「ん・・・子供用の物語りではノヴィーラ国の北の山でフレリの森ってなってますけど、実際には居ないですって・・・」

「ふーん。ノヴィーラか・・・遠いな」

「え?行くんですか?」

 グレイハルトは何も言わずに受付を後にした。


 ギルドを後にした2人はグレイハルトがいつも利用している宿に赴いた。

「2人だ。頼む」

「グレイさんが2人なんて珍しいね。2階の部屋だよ」

 個室にしたいのは山々だが金の問題がある。ベッドが2つの2人部屋を借りた。

「ほぉ。これが宿か。初めてだ」

「・・・さいですか。ここは俺がいつも使っている宿だ。金額の割には飯が美味いし量も多い」

 グレイハルトは荷物を壁際に建て掛けた。大男のグレイハルトにはベッドが幾分小さいが、飯が美味いのが大事だった。バニラは何が珍しいのかベッドで跳ねたり、窓の外を眺めたりしていた。グレイハルトはベッドに座り、ギルドで聞いたことを話し始めた。

「ギルドの話じゃ、今は吸血鬼は居ないんだってよ。そもそも吸血鬼って魔人なのか?そんで、物語りじゃノヴァ―ラの奥のフレリの森って所だってよ。本当かよ?」

「妾は吸血鬼じゃ。ホレ」

 バニラは口を開けグレイハルトに見せた。バニラの歯は犬歯と言われる歯が長く尖っていた。そして魔力が高まったかと思うと背中に小さな羽が生えていた。

「・・・マジかよ」

 グレイハルトは一瞬、驚きで固まっていた。バニラは口を閉じ、羽を仕舞い話を続ける。

「フレリの森という名は妾も聞いたことがある。城の前の森がそんな名前だったやも知れん」

「んーーー。取りあえずその森に行くか・・・そこまで金が足りるか・・・」

「金が無ければ稼げば良かろう。ここには迷宮があるんじゃろ」

「迷宮なぁ・・・5層まで行かないとあんまり金になん無いんだよなぁ。3泊ぐらいか」

「妾に任せるが良い。迷宮の1つや2つ、妾が攻略してやろう。安心するが良い」

 バニラの自信がどこから出てくるのかグレイハルトには不思議であったが、バニラがその気なら出来るのかな?と首を捻った。バニラの実力は分かるが安心できる要素が1つも無かった。


「うーん・・・もう食えん・・・美味かった」

「お前は食い意地を張り過ぎだ。食い過ぎだっつうの」

 夕飯となり2人は1階の食堂で食事を堪能した。この辺では一般的なシチュー、パン、それと焼いた肉という食事で、グレイハルトはエール、バニラはワインを飲んだ。バニラはグレイハルトも呆れるほどの量を食べていた。

「明日の朝、ギルドで迷宮の依頼を見てから出発な。つうか、お前の武器は無いのか?剣とか杖とか」

「そんな物は現地調達で十分だ」

「・・・さいですか」

 グレイハルトは『さいですか』が口癖になったようで、バニラに呆れて返答していた。

「迷宮で飯はどうするのだ?」

「保存食に決まってんだろ。干し肉に硬いパンだ」

「んーーー。仕方ない妾が料理してやろう」

「お前に料理ができんのかよ?」

「ふっ。妾の料理を見て驚くが良い。明日は食材も買うんじゃぞ」

 グレイハルトは、強くて料理もできる吸血鬼とは何ぞや?と首を傾げた。


 2人はそれぞれのベッドに潜り込み寝入った。グレイハルトにとっては暫くぶりのベッドで安心していたのもあるが、翌朝、バニラがグレイハルトのベッドに潜り込んで寝ていたのには驚いた。

「何でお前は俺のベッドにいるんだ?」

「夜中に寒くてな・・・」

「・・・たく・・・飯食って出掛けるぞ」

 グレイハルトとバニラは身支度を整え、食堂へ降りていくのであった。

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