第7話 錬金術師と鍛冶師

 地上へ戻った2人は傭兵ギルドに赴いた。ギルドで魔石と薬草の買取りと錬金術師を紹介してもらう必要がある。ギルド裏手の買取りカウンターへ2人が姿を現した。

「いらっしゃい。グレイハルトさん、お久しぶりです」

「おう!暫く。買取りを頼む」

 グレイハルトは馴染の受付に気軽に声を掛け、鞄から袋を2つ取り出した。1つには魔石、もう1つには薬草が入っていた。カウンターにある箱に魔石を出していく。

「結構な量がありますね。えっと、1、2、3・・・25、こっちは、1、2、3・・・13と。小が25個、中が13個ですね。金貨6枚と銀貨8枚です」

「うん。それでいい」

 グレイハルトは別の箱に薬草をだした。ギルド職員は驚いた。

「うぉ!?これは貴重な薬草じゃないですか。1、2・・・8、こっちは、1、2・・・15、えっと・・・回復の方が金貨4枚、魔力の方が金貨10枚です」

「そんな高けえの?この草が?」

「はい。貴重な薬草ですからポーションにするともっと高くなります」

 1度迷宮に入っただけで金貨20枚、銀貨8枚の稼ぎであった。グレイハルトは命をかけて戦争に行くのをバカらしく思うのであった。


「あっそうだ。この町に熟練の錬金術師って居るか?居たら紹介してくれ」

「グレイハルトさんなので構いませんが・・・そうですね・・・熟練だとトマスさんでしょうかね。ただ頑固で自身が気に入った相手じゃないと依頼は受けませんよ」

 グレイハルトはバニラの方を見た。バニラは頷いた。

「その錬金術師を紹介してくれ。ダメだったらまた来る」

 2人はギルドから『紹介・推薦』の札をもらいトマスの工房へと向かって行った。この札には、札を持っている者をギルドが保証しますというような意味合いがあり信用の証でもあった。


 ギルド前の通りを東へ進むと工房町に出る。何店も工房が並ぶ1角にトマスの工房はあった。扉を開け中に入るとポーションの並んだ店舗になっていた。奥のカウンターには若い男が店番をしていた。グレイハルトは札を見せながら声を掛けた。

「ギルドでこれを貰ったんだが、トマスさんは居るかい」

「親方ですか・・・少々お待ちください」

 若い男は札を持ち、奥の工房へ姿を消した。暫くしてズングリした老齢の男性が出てきた。

「何か用かい。うん?甘い匂いがするな」

 グレイハルトが目配せするとバニラが前へ出た。

「少々、加工して欲しい素材があってな」

 グレイハルトは鞄から根を取り出した。

「この甘い匂い・・・そして、その根。ま、ま、まさか・・・毒カヅラか!」

「ほう!これを見ただけで分かるとはな・・・根から液を抽出して欲しいのじゃが。どうじゃ?出来上がった液の3分1と搾りかすを報酬としてやろう。機材とお主の手間賃じゃ」

「・・・よ、よ、良かろう。これほどの根があるとはな。明日の夕方に来てくれ、それまでに搾っておく」

 頑固と言われる老錬金術師トマスはバニラの言葉にやる気をみなぎらせていた。


 グレイハルトとバニラは錬金術師の工房を後にしてバニラの剣を購入するために武器を扱う鍛冶屋へと向かった。鍛冶屋の店には所狭しと剣や槍が飾られていた。値段もピンキリで駆け出しの傭兵から熟練者の使うものまであった。

「邪魔するよ」

 グレイハルトの馴染の鍛冶屋らしく気軽に入っていった。

「あ、グレイハルトさんお久しぶりです。今日はメンテナンスですか」

 店番の少年と言っても良いぐらいの若い男が話掛けてきた。

「メンテンナンスも頼みたいんだが、飾って置くような見た目の良い短剣を1本欲しいんだが」

 飾ってある剣を吟味しているバニラを見ながらグレイハルトは応えた。

「おう!グレイ。飾っておくっちゃあどういうこった?剣は使ってなんぼだろ」

 グレイハルトの応えに奥から髭を蓄えた厳つい男が出てきた。この鍛冶屋の店主ボリアスである。

「ボリアス悪りいな。俺が使うじゃねぇよ。おう、バニラ。どんなのが良いか教えてくれ」

 グレイハルトに呼ばれバニラは見ていた剣を置きカウンターへと寄っていった。ボリアスはバニラを見て首を傾げた。

「おい!グレイ!どこから攫ってきた?こんな嬢ちゃん、この辺にゃ居ねえだろ」

「バニラ。帰えんぞ。他の店にいく!」

「おいおい、まぁ、そう怒んな。ほんの冗談だ。しかし珍しいな嬢ちゃんが使うのか?」

「妾は嬢ちゃんではない、バニラだ。妾は、これぐらいの剣で肉厚の両刃で見た目のキレイなのがよい。さやも見た目の凝ったものが良いのう」

「おっと、済まねぇな。この辺の短剣でどうだ」

 ボリアスはバニラに謝り、壁に掛けてあった装飾された短剣を2本持ってきた。2本とも鞘は美しい彫り物があり彩色された奇麗なものであった。剣は刃がついていないので切れないが中心に彫り物が施してあり優美なものであった。バニラは2本を見比べ手に持ち重さを確かめていた。

「ほう。どちらも良い意匠じゃ。では、こちらを貰おう」

「金額は金貨2枚。刃付けはサービスしよう」

「刃は要らぬ。このままで十分じゃ」

 ボリアスはグレイハルトに『刃が無くて良いのか?』と目配せする。グレイハルトは頷き金貨2枚をカウンターへ出し、ボリアスに聞いた。

「奥で剣を振らしてもらっていいか?」

「そりゃぁ構わねえが、刃が無えぇぞ」

「バニラ。奥に剣を振るところがある。この前みたいに魔法で振ってみてくれ」

 ボリアス、グレイハルト、バニラの3人は奥の裏庭にでた。裏庭には相手に見立てたワラ束が1本あるだけであった。バニラは短剣を抜き構える。そして一閃。刃の無い短剣でワラ束を切り裂いた。

「こりゃ、どういうこった?」

 刃の無い剣で切り裂いたのだからボリアスは驚いた。

「そういうこったから刃は要らね。逆に刃があったら危ねえからな」

 バニラは腰に短剣を吊るし、気持ちスキップしながらグレイハルトと宿へと帰っていった。残されたボリアスは首を捻るばかりであった。

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