第2話 バニラとグレイハルト
古城の1室、ファンシーなグッズがある部屋で1人の少女が眠っていた。歳は15であるが、見た目は10、11歳と少し幼く見える少女ベアトリス・バニラ・ヴァニールは吸血鬼の祖ヴァネッサ・クララ・ヴァニールの長女であった。バニラには2人の妹、クラウディアとアレッシアが居るが、どちも祖の座を狙い、バニラとは仲が良くなかった。
そんなある日、クラウディアとアレッシアはバニラを排除するために手を組んだ。バニラはある種の天才で2人の妹は、剣術、魔法、そして料理も敵わなかった。2人の妹が勝ったのは見た目がバニラよりも大人びて見える程度であった。
バニラを亡き者にしようと手を組んだが暗殺は難しい。そこで迷宮にある転移の魔法と同じ魔道具をバニラの寝室に仕掛けた。バニラは知らずに眠っていた。深夜、魔道具が稼働する。バニラは異変に目を覚ましたが、転移が発動してバニラの姿は寝室から消えていった。
バニラが転移させられた場所は砂漠であった。尤も転移魔道具の転移先は指定できないので、近場に転移することもあるが、バニラは涼しい気候であった城から灼熱と極寒の砂漠へと転移してきた。
「暑い・・・」
灼熱の日差しを受けバニラは廃墟の壁際の日陰へと身を寄せた。妹たちは今までも何度かバニラを排除しようとしてきたが、ここまで大胆に実力行使に出ることは無かった。城に帰ったら1度、キッチリとお灸をすえる必要があるなとバニラは思った。
「ふぅーーー」
暑さと砂埃に溜息しか出ないバニラであったが、日が陰ってくると少しは動きやすくなってきていた。何処に向かえば良いのか思案していると近場で爆炎が上がった。そして何かがゴロゴロと転がって来てバニラの目の前で止まった。
「痛ってぇぇぇぇ」
転がってきたのは戦士風の男。男は起きる上がると周りを見渡しバニラと目が合った。
「何してんだ!こんな所で・・・」
「・・・」
一瞬の事でバニラは言葉に詰まった。
「逃げるぞ!」
戦士風の男は立ち上がった。縦も横もデカい大男であった。バニラは咄嗟に大男の背中にしがみ付いた。バニラがしがみ付いている事を知っているのか、知らないのか大男は走しった。しかしスケルトンの群れは大男の逃げ道を塞いでいた。
「チッ!ウゼー!」
大男は剣を振るい盾で殴り、道を切り開く。
「難儀しているようだな。妾も手伝おう」
大男は背中からの声に振り向くが、鞄の上に座っているバニラは見えなかった。
「燃え尽きよ。豪炎!」
バニラは大男の顔の横に右手を突き出し魔法を行使した。手から炎の玉が飛び出しスケルトンの群れに着弾して轟音とともに炎がスケルトンを蹂躙していった。
「・・・」
「ホレ。早く逃げよ」
大男は走り出した。バニラは鞄に座り、落ちないようにしがみ付いていた。
宵闇の中、大男は走った。
「ふぅーーー。いい加減に降りろや!」
大男は足を止め、背中に声を掛けた。
「嫌じゃ。ここは快適じゃ」
「何言ってやがる!」
大男は背中から鞄を降ろした。バニラは鞄と一緒に砂の上に滑り落ちた。
「こんな可愛い少女になんてことを」
バニラは文句を言いながら立ち上がり、服についた砂を払った。
「で。お前はあんな所で何してたんだ」
大男はバニラに問いかけた。
「妾は、お前ではない、ベアトリス・バニラ・ヴァニールだ。妾は吸血鬼じゃ。あそこに飛ばされて来たんじゃ。お主は何をしておった?」
「吸血鬼だぁ?何だそれ?まぁ良い。俺はグレイハルト、傭兵だ。町に帰る近道で通っただけだ」
「ほう!?傭兵か。では妾の下僕にしてやろう」
バニラの上から目線の言葉に大男は剣に手を掛けた。
「吸血鬼だか何だか知らねえが、でかい口聞いてると叩っ斬るぞ!」
「出来るならやってみるが良い」
バニラの魔力が高まりグレイハルトは後に飛ばされる。魔力に押し潰されたように砂に縫い付けられ、身動きが取れなくなった。バニラは傭兵に近づき声を掛ける。
「どうした?斬らぬのか?」
「てめぇ!!!」
「妾も鬼ではない。妾を城まで送る下僕であれば良い。城についたら報酬も渡そう・・・良く斬れる剣や不壊の盾とかいう物も倉庫にあったな」
グレイハルトは身動きが取れないのでは斬りようがないと諦めた。
「・・・分かった・・・城まで送ろう」
「ふむ。良かろう」
バニラの魔力が収まりグレイハルトは起き上がり砂を払った。
「城は何処にある?」
「知らん。ここが何処かも分からん」
「お前なぁ・・・しゃねぇな、ギルドで聞くか・・・」
こうしてバニラとグレイハルトは町に向かって歩き出した。バニラはグレイハルトの背中の鞄の上に乗ってだが。
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