傭兵と吸血鬼のお話し
森野正
プロローグ
第1話 傭兵グレイハルト
「何とも埃っぽい所だな・・・」
グレイハルトはアクロダの傭兵ギルドで戦士募集の公示を見て応募したのは良かったが、ここまで砂塵が酷いとは思っていなかった。砂漠の国アレクスラードは隣国との戦争で傭兵を必要としていた。戦争は数日から数年と幅が広いので、長引けば傭兵が必要となり、傭兵も生きていれば大金を稼げる場となる。
早朝、ギルドに集まった20数人が幌の掛かった複数の馬車に詰め込まれ、先ほどアレクスラードに着いたばかりである。
「旦那、砂漠だからしょうがねぇよ」
グレイハルトと一緒の馬車に乗った1人が声を掛けた。
「まぁ、そうだな」
話が弾まない。お話し好きの傭兵はここには殆どいない。グレイハルトも聞かれれば答えるが、お話し好きとは言い難い。ここで仲良くなっても帰りには居ないかも知れない。グレイハルトにはそんな思いがあった。
翌朝、各地のギルドから集まってきた傭兵は100人ぐらいだろうか。アレクスラードのまとめ役が何か言っているが、誰も聞いていないようであった。まとめ役を先頭にして街の城門を出て砂漠を歩いて行く。暫く進んで行くと土嚢の壁に囲まれた陣に着いた。
傭兵10人にアレクスラードの隊長が1人付く。傭兵が仕事をするか監視するのだろうとグレイハルトは思った。隊長に連れられ最前線へ行く。傭兵の装備は自前。グレイハルトは丸盾に長剣、腰には手斧。鎧を纏い、兜を被り、膝上までの脛当て、手には手甲、鎧の下にはチェインメイルを着けていた。
開戦してから暫く経つので、あちこちに土嚢を積んだ塹壕があり、黒ずんだ血の染みのような物が土嚢に付着していた。グレイハルトたちは土嚢に身を隠し号令で飛び出すようであった。
『ブォォォォォーーー』
笛の音が聞こえた。隊長が突撃の合図を出し、グレイハルトたちは塹壕飛び出していった。
グレイハルトたちの前には数十人の傭兵が居たが、矢の雨の前に何人も欠けて行った。グレイハルトは盾を頭上に掲げ、腰を低くし掛けて行く。何度も体験した矢の雨。他の戦場と比べれば矢の鋭さも矢の多さも無い。
グレイハルトは前線の敵兵に激突した。盾で殴り、剣を刺す。この繰り返し。突出しすぎて敵兵に囲まれると厄介なのでグレイハルトは味方と思われる傭兵と歩調を合わせて敵兵を刺していく。
『ブォォォォォーーー。ブォォォォォーーー』
笛の音が聞こえた。終了の合図であった。まだ戦っている傭兵もいるがグレイハルトは後ずさりながら自陣へと下がっていった。防具には傷が付いているがグレイハルト自身には傷は無かった。
砂漠の地のオアシスを巡っての争いはグレイハルトが来てから10日程続いた。そして和平交渉へと移っていった。こうなるとグレイハルトたち傭兵は用済みである。
「旦那。アクロダへの馬車は4日後だそうだ」
ここに来た時に話掛けてきた傭兵が薄汚れた包帯を身体のあちこちに巻きながらグレイハルトに話掛けてきた。
「そうか。んじゃ俺は歩いて帰るか・・・」
グレイハルトも腕に包帯を巻いていたが、傷は大したことは無かった。翌日、グレイハルトは砂漠の町を後にした。
アレクスラードからアクロダへの道は遠回りに迂回していた。グレイハルトは真っすぐアクロダへ向かうのに砂漠を横断していた。砂漠の中には何時の時代だか分からない廃墟の町が点在し、元は道があっただろう所も砂に埋もれている。そんな所をグレイハルトは歩き廃墟の町に入った。
砂に侵され半分が埋まった町。風化して壁も所々しかない家が点在していた。グレイハルトは風よけに壁の裏に回り休憩するのに腰かけた。
「酷ぇ所だ。4日待った方が良かったか・・・」
グレイハルトは馬車を待って帰った方が良かったかと思いを巡らせながら水の入った革袋を煽った。
日が傾くまで休憩したグレイハルトは出発するのに腰を上げた。直後、周囲に気配を感じた。
「何だ?」
壁から顔を出したグレイハルトは目を見開いた。そこには無数のスケルトンが蠢いていた。剣と盾を持つもの、槍を持つものと多様なスケルトン。
「やべぇ・・・」
グレイハルト個人がいくら強くとも数の多さには敵わない。グレイハルトは走り出した。前方にもスケルトンがいるが、剣を横なぎ、盾で殴りながら走っていった。
廃墟の終わりに差し掛かろうとしたとき、グレイハルトの近くで爆炎が上がった。スケルトンには魔法使いもいるようであった。グレイハルトは爆風で吹き飛び、ゴロゴロと転がる。
「痛ってぇぇぇぇ」
グレイハルトが飛び起きると、そこには少女が座っていた。そして目が合った。
「何してんだ!こんな所で・・・」
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