第11話

 国境に近づいた。流石国境であり、街道には関所がある。


「取りあえず、ここしばらくは何もなかったらしいヨ」


 レスタの結界をまとったラキに偵察に行ってもらった。王子とレスタ、テスラの手配書が回ってきており、国境を通さないようお達しがされているらしい。そして王子の手配書は撤回されていなかった。牢の中は数人が入れられていたものの、その中に王子らしき人はいなかったらしい。なので無事に通ったが正解だろう。

 一緒に行ったのは冒険者たちで、元々が隣国の人達だ。そこはうまくやったのだろう。良かった。


「じゃ、私達も行こうか」

「そうだね」

「行こう行こウ!」


 テスラたちは、そのままバイクを走らせた。ここしばらく結界を張りっぱなしにしていたことで、レスタの結界の能力が上がったらしい。結界の中の存在感を薄めることが出来るという不思議な結界を身につけたのだそうだ。というわけで、その結界を小さくまとっての出発だった。元々チートだったレスタの結界がますますチートになって来た。


 国境は割とあっさり越えられた。これにてひとまずの目標が達成された。

 そのままバイクを走らせて、国境近くの街の近くへ。流石に街に入るのにバイクはまずかろうと、パソコンに収納してそこからは徒歩で街へ。

 門は荷車はおおよその検問を受けるが、それ以外は大きな荷を負うものが呼び止められる程度だった――の、だが。


「そこの3人。止まれ」

「はい?」


 止められた。そして別室に案内された。椅子に腰掛けて待っていると、少しの待ち時間の後やって来たのは帯剣した男だった。


「……3人共座っているのか?」

「えと、なにかおかしな点でも?」

「その声――君は女か。なぜそのような身なりを?」

「女性だけの旅だと物騒かと思って、ちょっと変装を……」

「隣国の王子の姿に?」

「へ?」


 あ、そう言えばそんな変装をしていたっけ。

 うっかり忘れていたことを思いだしていると、目の前に手配書が差し出された。レスタと王子のものだった。

 3人並んで座っていることを驚かれたのは、1人だけ明らかに身分が高そうな格好してたからのようだ。


「そちらの娘は、この手配書の者で相違ないか?」


 良く描けている。本人に寄せつつも可能な限り悪人面にすべく人相が悪くされているけれど、おおよそレスタだ。いやまぁ、レスタはもっと可愛いけどね!?

 生け捕りのみ、という条件付の手配書だが、金額はなかなか破格だった。これは魔王討伐メンバーの準備物資に使われた額よりよほど大きい。王子の方も同じくだった。本当にあの国はクソだな。


「何をやったか問い合わせたところ、盗人だとしか回答がなくてな。国宝を盗んだらしいが、何を盗んだのかは機密の為知らされていないと惚けられた。当国としてはそういう場合、基本的に協力は出来かねるんだが――額が額だし、国内で隣国とのやりとりのあるギルドなどには張り出されてしまっていてな。警告のため呼び止めさせて貰った」


 なんと捕らえるためではなかった。国家間の関係はあまり良くなさげだ。

 詳しく、と思っていたら、レスタが質問をして、彼は割と調子良く返答してくれた。きっとレスタが可愛いからだ。


「隣国は不誠実だからな。そういう国に誠実に返すのは労力の無駄遣いだ。最低限の礼は払うが、それ以上の手間を掛ける必要は感じない。大体、そんな国に対してこちらばかりが誠実に対応していたら足下を見られる」


 帝国とはきちんと条約に照らし合わせた対応がなされているから良いのだそうだ。我等が故国は条約破りの常習犯なんだってさ。……大分ダメな感じでは。

 それでも隣り合った国同士、人の行き来はある。隣国から相応の人間がこの国にやって来て商売したり仕事したりもしている。


「早めに帝国に抜けるのが良いだろう。あちらならばあの国の影響はさほどない。距離も離れるしな」

「情報ありがとうございます。――良いんですか、そんなことを教えてしまって」

「トラブルを起こさず素早く通り抜けて貰えるなら、それが一番の報酬だ」


 なるほど。トラブル起こさずさっさと立ち去れと。しかし確かに合理的。

 下手に何も知らせずそのまま放置して問題行動取られるよりは、予防措置にはなるだろうな。


「分かりました。でしたら僕達はこのまま外に出て、街をぐるりと遠回りして先を急ぎます」

「いや、流石にそこまでは――隣国からなら長旅だっただろう? 大丈夫なのか? 物資の補給くらいなら――」

「その辺りは万事つつがなく。ところで先にここに着いていただろうこの変装の元ネタさんは今どこに?」


 物資補給は正直いらない。割とそこら辺はどうにでもなる。パソコン様々だね!

 王子の行方を聞いたら、彼もまた帝国を目指して旅立ったとのことだった。1人で? いや、この街まで同道した冒険者さんたちが付き合ってくれている。どうやら街の領主からの護衛依頼という体で、金もきちんと出ているらしい。……それなら安心かな。

 隣国の厄介な要人をさっさと帝国に送ってしまいたい思惑が透けて見えてはいるけれど、厄介だからと捉えて送り返したり処刑していないのだから十分温情ある措置だ。


「それでは、お世話になりました。情報ありがとうございました」

「ああ、いや、大したことが出来ず、すまないな。お前達が悪いのではなかろうに」


 こちらがあっさりと身を引いたのが意外だったのだろうか。男は戸惑った様にこちらの礼に礼を返した。


 さて、これからどうしようか。彼の言う様に大人しく帝国に向かうか――それとも。

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