第10話

 翌朝、冒険者グループの4人とはここで別れることになった。自分たちだけでなにかが成せるとは思わない、堅実な判断だ。


「元々前金も禄に貰えないケチな仕事だったし、俺達のホームは隣国だ。開戦の噂を聞いて稼げないかと思っていたが、関わらない方が良さそうだしな。情報に感謝するよ」


 胸くそ悪い片棒を担がずに済んで良かった、と笑い飛ばして、男達は去って行った。ついでに王子も彼らと去った。これは王子が1人での道行に不安を持ったことで、彼らに護衛を頼んだ為だ。

 そして別れ際に、レスタは王子から彼の衣装を譲り受けた。代わりに、王子にはテスラの衣装を一式譲った。

 監視の目をレスタ側に集約するためだ。


 なお、ラキはテスラ・レスタと共に行くと彼女から申し出があった。身寄りがなく行き場がないこと、美味しいご飯が食べられることが理由だそうだ。テスラとレスタはラキに抱きついた。嬉しかったので!

 これは男性陣と別れてから聞いたことだが、ラキの年齢は二十代の後半だった。見た目はどう見ても十代前半の少女で、レスタよりもずっと小柄だ。僅かに尖った耳に、人族よりほんの少しだけ尖った犬歯が特徴と言えば特徴だろうか。ハーフだから、あんまり特徴ないんだヨ、とは彼女の談だ。言葉尻のイントネーションが風変わりなのは、彼女の舌が人族よりずっと長いことに由来していた。ペロリと出した舌はアゴの下まで届くほどで、中頃に穴が空いていた。

 出会った当初はボサボサだった赤髪は、今はふわふわと柔らかくて手触りが良い。顔つきも、2人と行動を共にするようになって表情の険が消えた。そうすると目が大きく幼さの目立つようになり、一層可愛らしさが増してきた。

 情報のすりあわせも兼ねて、テスラ・レスタの年齢もラキに共有した。2人は2年前に成人している17歳だ。レスタは年相応の美少女だが、テスラは若干上に見られることが多かった。身長も高い。


「あって良かった異世界通販~」

「髪を染めるのもお手の物! だもんね」


 そんなわけで、変装だ。テスラは王子の衣装をまとい、髪を短く切りそろえ、ラキに手伝って貰いながら髪染めで色を変えて化粧で顔の印象を変え、彼の姿に仮装した。


「いやぁ、久々の男装! スカートも最近は慣れたけど、やっぱりズボンが一番だよ!」

「田中さん嬉しそうだなぁ。いいなぁ、私もズボンが良いな……。それにしても化粧が上手い」

「元レイヤーだからね」

「あ、そうなんだ」

「それで分かる四宮さんもそっちの人?」

「…………ええと、まぁ。一応。腐ってはいないそっちの人です」


 せめて靴はどうにかしたいということで、靴は3人揃ってスニーカーだ。履き心地の違いに涙が出そうだ。


 余計な荷物は全部パソコンの中に収納した。そもそも馬車や主な荷物は冒険者グループに依頼料の一環としてあげてしまった。

 一応偽装的な意味も込めて、食糧は人数頭割りにして振り分けた。

 全部収納してしまえば、3人は手ぶらだ……が、手ぶらは流石に怪しいので、軽いもの(スナック菓子)をつめたリュックを背負った。楽しみでしかないおやつを背負った行軍となれば、足取りも軽い。


「冒険者&王子はこの道を真っ直ぐ行って隣国へ出るって話だから、私達はこっちの道を行くことにしようか。追っ手をこっちに引っ張らないといけないし、そろそろ結界は解除、……っと」


 追いついてくるまではしばらく掛かるだろうか。その間、偽装も兼ねて3人で距離を稼がなくては。

 万が一にも魔物や獣に襲われないように、レスタが極小の結界を発動する。3人だけを覆うそれは、その程度ならばいつまでだって展開していられるそうだ。消費魔力が少ないので、使った端から回復して、魔力が減ることもないらしい。


 キャンプしてるところは流石にあまり見られたくないので、夜は少し大きめ結界を張る予定だ。


 そして、三日が経過した。


「後ろの人達、粘るねぇ」

「でも、そろそろ限界じゃないかな。僕達、ワザと水辺から離れた所を歩いてるし」


 そう。水分の補給が出来ない方へと歩いていた。何しろ、水は通販で出せるので。

 コンパスを頼りに、いくつかの街は迂回して進んでいる。


「ラキは、……大丈夫?」

「うん、ワタシは元気だヨ! なにせ、たっくさん美味しいモノ、食べてるからネ!」


 誰よりも大きな荷物を持っているのに、一番元気だ。

 最近は毎夜テントの中で、明日はどんなおやつを食べるかと、通販選択に余念がない。

 なお荷物が大きいのは、それだけ彼女のおやつが多いからでもある。



   ◇◇◇



 国境近くの街に着いた。あの場所から馬車で行くなら5日ほど。今は10日ほどが経っている。追っ手を引きつけながら、魔族領と王国の国境をふらふらとしながらの行程だった。王子達は無事に隣国に着いているなら、すでに国の中に入り込んでいる頃だろう。

 そこから一気に遠のいての行程だった。なお、ここまで他の街へは立ち寄っていない。

 張り付いていた追っ手の動きが慌ただしくなった。恐らくは、連絡や交代。久しぶりの宿での宿泊で身体を伸ばしていると、彼らの方から接触があった。

 宿へ街の領主からの招待状が届いたのだ。館への呼び出しだった。

 宿の人間は慌てていたが、3人は落ち着いていた。応じる気もなかった。


 何しろ結界があるのだ。攻められる心配がない。王子達のサポートとして引きつけていたが、流石にもう良いだろう。

 これが懇切丁寧な招待で、こちらに恥を欠かせないよう衣装も用意してのものであれば別である。しかし単なる招待。もとい、呼び出し。呼びつけだ。そんなものに応じる義理などないのだ。大体この街の領主は貴族としても下級でしかなく、テスラ・レスタの実家の方が身分的にもまだ上だった。

 お断りします、という返事を託して後は結界を張ってそのまま寝た。


 翌日早朝。3人はさっさと宿を出た。こんなに早く行動を起こすとは思っていなかったのだろう、街の出入り口はノーチェックでそのまま出られた。……宿周りに結界を張ったままにしていたので、まだ宿に居ると思われていたのかもしれない。


 そして街を出てから、3人乗りのトライクを通販で取り出した。いわゆる、三輪バイクだ。レスタからは運転出来るのかと尋ねられたので、「たぶん」と答えた。一応車の免許は持っていたし、一通りの運転方法は分かる。


 レスタの力で周囲には結界を張って貰う。結界のキワは、柔らかく弾力性のある膜にしてもらった。これにより、結界ごと移動しても人や動物をひき殺す心配がなくなるのだ。……弾き飛ばされるのは変わらないだろうが。

 時速は一応、20キロほど。安全運転、とても大事。それでも馬の速歩より大分早い。しかもずっとその速度を維持して走れる。

 ラキから感動されたのでえへんと大きな胸を張った。


 まぁこれで追いつくことは出来ないはずだ。今度は真っ直ぐ、隣国への道を走った。

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