第7話
翌朝、リンチを受けた。
ラキがとっておいたビニール袋が見つかったのだ。それは雑魚寝部屋で一番えらそうにしてる女に奪われ、そいつはそれを、鞭打ち女に渡してラキのことをチクった。これはなんだと言われたから僕は横からゴミだと答えた。ラキは何も言わずに女を睨んだ。
僕は鞭で打たれて、……容赦なく打たれたから、服に血が滲んだけど、それでも顔は打たれないんだよなぁ……。腹は沢山蹴られた。幸いというかなんというか、昨夜の夕飯は菓子パン1個で綺麗さっぱり消化した後だったから、出てくるのは胃液だけだった。
ラキのこと庇いたかったけど、出来なかった。こっちも同じくらい蹴られてたから、情けないけどそれどころじゃなかった。ラキは僕と違って顔を殴られないなんてことさえなくて、ボロボロにされていた。
ラキは無言で、うめき声1つ漏らさなかった。……すごく、強かった。
「……ごぇぇん……ラキ……僕のせぇで……」
「……無理してしゃべンなヨ」
反省部屋とかいう所にぶち込まれて、後はそのまま放置だ。死ねって言うのかな。
人目がなくなってからこっそりパソコンを出して、ペットボトルの水を買った。はい、とラキに渡して半分飲ませて、僕も残りの半分を飲んだ。ゴミはゴミ箱へ入れて証拠隠滅。
「ワタシこそごめんナ。それ、やってもらったら良かったんだナ」
上手く回らない口で「いいよ、気にしないで」と言おうとして失敗した。なんか「いーひょぉぉ」みたいになったから、途中で止めた。
しかしこれからどうしようか。これ、出して貰えるんだろうか。
……本当なら、レスタのとこに行かないとなんだよな。テスラに頼まれたんだから。でも現状物理的に行けない。……レスタの方からも何もないけど、あっちはあっちでどうなってるんだろう。
その時、妙にガヤガヤと騒ぐ声が聞こえてきた。一部はまるで悲鳴の様だし、「お止め下さい!」って聞こえて――
「田中さん、もといテスラ!!! どこにいるの!?!?」
「!?!? ここれす!!!」
回らない舌でとにかくも叫んだ! たたたと軽い足音が聞こえて、同時に、ラキが吹き飛ばされて壁に押しつけられた。
「ラキ!? らいじょうぶ!?!?」
「えっ、ちょっと待ってテスラの声――誰か他にそこにいるの!?」
「ともらち! ともらち居ます! 壁に押しつえられちゃぁぁぁ!」
「わー! 解除! 解除しまーす! それでもって一方方向にだけバリヤ!!! 結界!!!」
そしてレスタが顔を出した。
「やっぱりいた! あいつらやっぱり嘘吐いてた!!!」
しかもひどい怪我! と怒った顔のままでレスタの手が頬に触れた。不思議なことに痛みが引いた。
吃驚してたら、今度はラキにも触れていた。レスタの手はほんの少しだけ光を発して、それが傷を癒しているようだった。魔法!? と驚いてみていたら、それも結界の一種なんだそうだ。結界内の時間を少しだけ早めて治癒を促進させるのだとかなんとか。……割と何でもありなんだろうか、結界。
「良かったぁ、レスタ……元気そうで……」
「テスラが全然元気そうじゃないからダメです! 田中さん何やってるの!」
「ええと、……下働き?」
「侍女って言ったじゃない! 私のとこに来なきゃダメじゃない!」
「いやぁ……行かせて貰えなくて……」
「無理にでも来るの! すっごい、心配したんだから……!」
涙ぐんだレスタに怒られた。ごめんなさい。
いやもう、レスタの涙はダメだね、テスラの身体に効く。釣られて泣きそうになっちゃう。
どうやらレスタにはテスラが勝手に城を出たと伝えられていたらしい。そんなわけなくない? と思っても全員に口を揃えて言われるし、あの女に与えた部屋です、っておざなりに荷物を詰めたのだろうテスラの私物が残る空っぽの部屋を見せられて、途方に暮れていたのだそうだ。
そこに、ビニールゴミを髪に飾った侍女がやって来た。目が点になったそうだ。なんでゴミ――いやちょっと待てそのゴミどう考えてもあんパンの包装ビニール! これ絶対田中さんが絡むヤツ! となり、その出所を追ってやって来た、と。
……わぁ。鞭打ち女がMVPだった。ってか髪飾り。……髪飾りかぁ……。色とりどりに染色されててキラキラしてたからかな……?
「その子は?」
「助けてくれた子。一緒に怒られてここに入れられてたんだ」
「そっか。ここに私物はある? ボロ着てるけど、前の服は?」
「えーっと、着の身着のままで放り込まれたみたいな感じだし、元々着てた服は他の子にとられちゃってないから、何もないかな」
「…………そっか。じゃ、上いこ?」
「うん。あ、あの、ラキも一緒は……ダメ?」
「う、うーん……テスラは、私が王様から直接権利貰い受けてる感あるから大丈夫なんだけど、その子は……」
確かに、ラキは最初からここにいた子だ。僕が勝手に彼女の進退を決めてはいけない気もする。
一緒に行こう? とおずおず誘えば、ラキは「テスラはバカだなァ」と笑った。
「ワタシは魔族の混血で最下層民だヨ。ワタシになんて関わったらダメだヨ」
「そんなの……!」
「あんたが来るまで、ワタシがここの一番下っ端で、一番虐められてたンだヨ。あんたが来たから、ワタシは抜け出せて、だから、あんたを助けなかったンだヨ。鞭打たれてる時も、全部見てただけだったヨ」
それを聞いて、彼女の悲しそうな笑顔を見て、決心した。連れてく。絶対ラキも一緒に連れてく!
「レスタ、ラキも一緒がいい。絶対一緒につれてく!」
「……うん。良いと思う。そうしよう。聖女の強権発動しよう!」
「あのサ、ワタシの言ったこと、聞いてたノ?」
「聞いてた! ラキは自分が虐められてたのに、次の標的になった僕を助けてくれた!」
「……助けてないヨ」
「荷物も持ってくれて、食事も助けてくれようとした。ラキだけは僕を殴らなかったし蹴らなかった。虐めに参加しなかった」
冷静に指折り数える。
虐めに加わらないって言うのが、密かに大きい。やろうとしても、なかなか出来るもんじゃないんだよ。小さな社会であるほどに、それはとっても難しい。僕はそれを、よく知っている。上手くやれないと、また標的に逆戻りになることも、……よく知っている。
「一緒に行こうよ。ね? あんパン美味しかったでしょ? また食べよう?」
「た……ッ、食べたい、は、あル……!!!」
「よし行こう!」
「あ! 田中さん! 私も! 私も食べたいです! どうやって手に入れたの!?」
「そこんとこはあとで詳しく! あと名前の呼び方戻ってるよ!」
というわけでラキは拉致った。レスタの結界でテスラと一緒に囲いこんで、皆揃って上まで真っ直ぐ駆け上った。聖女の部屋に入ると、取りあえず一息つけた。レスタ分のあんパンと自分の分のメロンパンと、ラキの分のクリームパンを購入して3人揃って菓子パンで乾杯した。うまい!!!
「あっま……美味しい……幸せの味……餡子最高……!」
「分かる……メロンパンも美味しい……しっとりふわふわ……!」
「ん、ま……! なにこのとろっとしたノ! すっご……! すっごいヨ、テスラ!」
そして残念なお知らせが。お金が尽きました。
「なるほど、残っていた電子マネーかぁ……。補充は出来ない感じ?」
「うーん、知る限りだとネット上で電子マネーの補充って……出来たっけ? えーと、電子マネーのサイト………………なんか見覚えのない感じになってるな……? 現金、投入口……???」
「現金……現金……金貨ならあるけど」
「うーん、あっちのお金じゃないけど……あ、吸い込まれた…………入金されたね!? え!? 金貨一枚で30万円!?」
「おお~……これはなかなか……いきなり補充出来たね」
もうちょっと補充しとこうよ、と次から次へと手渡される金貨をちゃりちゃり入れていく。いや、ちょ、ちょっと待って! いきなり入れすぎでは!?
残高が見たことない金額になっている。上限額とかありそうなのに、そこはどうやらぶっ壊れらしい。
ついでに、入れ損じてサイトから外れた所に金貨が触れたら、なんと金貨はパソコンの中に沈み込んだ。そしてデスクトップにアイコンが現れる。金貨の絵だった。
……思わず、その絵を指で長押しするとメニューが開いた。「取り出す」「フォルダに移動する」。……取り出す?
選ぶと金貨が取り出せた。えっ、ちょっと待って、このパソコンって収納にもなる!?
試しにフォルダを作ってそこに手近にあった花瓶を入れた。入った。わー……マジかー……入るんだ……。
「その板、すごいナ! 魔道具か?」
「違うと思うけど、これがすごいことは内緒だよ。レスタも、良い?」
「勿論だよ、田中さん! これはすごい!」
興奮したレスタがパソコンに触れようとしたけれど、彼女の手はパソコンを貫通した。どうやら触れられるのも出し入れが出来るのも僕だけの様だ。
「田中さん……おっと、テスラしか触れないのか。つまり、人にその力は奪えない。素晴らしいね!」
「ありがたいね……他の人が触れるんなら奪われ放題だったよ」
何せ誰にも見えるのだ。触れないなら一安心だ。あんまり安心しすぎるのもダメだろうけど。
……僕は触れるんだよな? と、画面以外も触ってみた。ちゃんと触れる。持ち上げ……も、出来た。しかし、軽い。まるで重さを感じない。形こそパソコンだけど、これはパソコンではないんだと分かった。これは『スキル』なんだ。
なんとも良いスキルを貰ったものだ。
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