第2話

 呆然としている間に服が剥ぎ取られ、別の服を身につけさせられた。パンツじゃなくて、ドロワーズ、それに腰を絞った古風なドレスだ。コルセットをはめられて思い切り左右から引き絞られて思わずひぎぃと悲鳴がこぼれた。そうしたらなんかもう毛虫でも見るような眼で見られながら「なんとはしたない」「そのようなお声を上げるとは何をお考えですかテスラ様」って、だから僕はテスラじゃない!

 されるがままに化粧まで施されて、出来上がった面相は正直……うううん……なんだこれ……おしろい塗りすぎだし顔ももうちょっとこう……折角素が美人なのに勿体ないな! と思える仕上がりになっていた。


 着替えさせられている最中にも「ここはどこですか?」「どこへ連れて行くんですか?」と尋ねたが、「王城です」「……そのような事、おもんばかられずとも結構です」と言われ、「王城って?」「そもそもこの国はなんて国?」などと突っ込んで質問すれば、やっぱり虫かドブネズミかでも見るような眼で見られながら「静かになさいませ!」と頭ごなしに叱られて、言葉そのものを封じられた。


 なんだろう、なんだか……すごく、嫌な感じだ。

 ここはどこか、ということもだけれど、僕が誰か、ということも、なんだかふわふわしてよく分からないのだ。


 あの白い空間より前の事が思い出せない。

 自分の名前は分かる。田中始だ。でもそれ以外がよく分からない。家族のことも、友達のことも、ぼんやりとして思い出せない。

 なんとなく覚えているのは自分の部屋だ。カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、パソコンのディスプレイの灯りばかりが煌々こうこうと、昼も夜もなく部屋を照らしていた。

 ……そう言えば、ネットでは小説も良く読んでいた、よな? なんだか今の状況、それに似てないだろうか。異世界転生、とか。でもそういうのって大抵はトラックにひかれたり過労だったりで死んだ後に、っていうのが定番だよな。

 ……僕、死んだ覚え、ないんだけど。


 着替えが終わると、そのまま部屋の外で待っていたらしいじいちゃんたちに引き渡された。そのまま周りを囲われ、こちらへと案内されて歩かされる。……とても、歩き難い。靴が悪いんだよ靴が。かかとが少し高くなった靴はすごく固くて足に食い込む。中敷きもうすべったい。絶対靴擦れ出来まくる。

 痛みに耐えながら歩いていると、ふと周囲には意外に人がいることに気がついた。じいちゃんばあちゃんたちの向こう側、廊下の端々に今の自分と同じようなドレスを着た女やら、きらびやかな飾りのついた上着を着た男やらが集まって、こちらをちらちらと見ては何やらささやき、笑い合っている。

 僕はどうやらそういうものに敏感な質だ。絶対、悪口言ってるだろ、って直感が言っていた。

 人々の目の端に浮かぶのは侮蔑の光で、多分それを隠そうともしていない。ものすごく、感じが悪かった。


 大きな扉の前まで来ると何やらじいちゃんの1人と扉を守っているのか、兵士みたいな格好の人とやりとりがあり、やがて扉が開かれた。それをくぐると、そこは割と豪華な部屋だった。

 正面の一段高くなった場所に王冠を頭にのせた人がやたらときらびやかな椅子に座っている。床も豪華で真っ赤な絨毯が敷かれていた。ちょっとすり切れた感はあるものの、それなりに分厚い。

 王冠を被った人の前まで連れてこられると、そこにはもう一人、同じような格好をした娘がいた。

 柔らかそうな薄いブロンドの髪の娘だ。年齢は、多分『テスラ』と同じくらい。頭を下げたままじっとしているから顔は見えない。けれどどうしてか、直感的に、あの子テスラが言っていた妹はこの子だ、と思った。

 彼女の周りは、中年層のおっちゃんおばちゃんが囲っていた。


 頭を下げろとじいちゃんたちから言われて、彼女を真似して頭を下げた。


「このたびは聖女召喚の儀、ご苦労であった。それで、どちらが聖女を降ろせたのだ?」

「はい、テスラ様でございます」

「はい、レスタ様でございます」


 答える声はほぼ同時に聞こえてきた。名前の所だけ食い違って、それ以外はシンクロしてた。

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