第16話 碧の評価
拍手と歓声の中、蹲っていたグリムが起き上がる。
「まさか負けるとは思わなかったぜ!久々に熱い勝負が出来た」
タリムは覚束無い足取りで俺の前まで来て、こちらに手を伸ばした。
「あぁ、俺も良い試合が出来た」
俺はその手を握る。
「試験は合格で良いのか?」
俺は、観客席の最後列端を見ながら言う。
「驚きました、気付いていたのですね」
観客席で座っていた、眼鏡をかけた黒い短髪の
女性が、驚いた顔をして立ち上がる。
俺が試験場に入った時から、こちらを探るように
ちらちら見ていたからな。魔眼で直ぐに分かった。
冒険者ギルドの査定員的な人か?
「はい、試験は合格...ですが...」
「何か問題でも?」
「いえ、問題では無いんですが、まさか倒してしまうとは....」
(?何をそんな不思議がって...あーそういや冒険者登録の時に、村育ちの旅人って書いたから、ギルドの試験官に勝てるとは誰も思わないか)
「貴方のランクについては後日通達しますので、
またギルドへいらしてください。それでは」
「そういう事だからじゃあな。」
査定員らしき人が試験場を後にすると、タリムも追いかける様に出て行った。
それと入れ替えでサリナさんが走ってきた。
「めっちゃ凄い試合でした!まさか試験官に
勝つなんて、凄いです!」
興奮冷めない様子でブンブンと両手を上下に振りながらサリナさんが褒めてくれた。
「ありがとう、勝てて良かったよ。明日
もう一度来ればいいか?」
「そうですね...ギルド本部次第ですが、明日の内には連絡が来るはずです!」
「そうか。この後特に何も無いなら俺は帰るが...」
「はい、大丈夫ですよ!」
「なら、今日はここで失礼する」
「はい、また明日です!」
(...冒険者ギルドって結構ブラックなのか?少し心配になってきたぞ?)
俺はサリナさんを少し心配しながらも、ギルドを後にした。
◇◇
「実際やってみて、彼の強さはどうだった?」
街の路地を歩いていると、連れが話しかけてくる。
「碧 悠太...あれはかなりのもんだな。村人上がりの旅人とはとても思えねぇ」
俺は先程まで戦っていた男を思い出す。
碧悠太...ギルド職員から聞いた時は自分の力量を
把握出来てねぇ馬鹿かと思ったが、実際に戦って、特待試験は本来ああいう奴の為にあるもんなんだと感じた。
「えぇ、私から見ても彼は逸材ね」
「へぇー、あんたが人を褒めるなんて珍しいな、
カリナさん?」
「あんな物を見せられたらね。それに彼、多分
本気を出していなかったわ。私に気付いてたしね」
「まぁ何かしら隠してるだろうな。あいつのランクはどうするつもりなんだ?」
「そうね...本当はBにしたいけど、流石に厳しいでしょうね」
「初手からBは無理だろうな。一先ずD辺りが
妥当じゃねぇか?」
「んー....一応Cランクで本部に提案してみるわ」
碧がカリナと呼ばれ女性に気づいたのは魔眼の
お陰で、先程の試験もかなりギリギリの
勝利だったが、そんな事知る訳の無い2人の間で
どんどんと評価を上げているのだった。
「...いつかお互い本気でやってみてぇな」
「私も彼の本気は少し気になるわね」
――こうして碧は、Bランク冒険者とギルド幹部に目を付けられるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数ある作品の中から、この小説を読んで頂き、ありがとうございます!
もし、面白いと感じて頂けたら、
ブックマークや、星、感想等して
頂けると、凄く励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます