第3話 生死を賭ける
耳をつんざく銃声と、目の前で飛び散る血しぶき。破裂するおぢの頭。
それはどこか映画のようで、現実感がなかった。
この街にいる以上、いつもどこかに死の匂いを感じながら過ごしてきたが、実物を見るのは初めてだった。ひとつだけ分かったのは、繰り返される私の退屈な夜は、たった今破壊されたということだった。
覗き込んだ私に向けられたのは、銃口と、それよりも鋭い眼光。
殺されるならこの子がいいな。私の心は撃ち抜かれていた。
永遠に思える一瞬が、思ったよりも長く続いた。体温が上がっていく。初めての感覚だった。
「あ、あの!」思わず声をかける。
「何。うるさくしたら撃つよ。」彼女の声に、少しだけ迷いが見えた気がした。
彼女のペースを乱してみたい。そう思ったのは、生き残るための機転か、目の前のいい女への興味からか。死に際の戯れかもしれなかった。
「服、すごく、カッコいいですね。」
相手の褒めて欲しそうなところを褒める。対おぢの鉄則だ。ただ今回に関しては、本心から似合ってると思っている。本音をより本音らしく見せる表情管理も、おぢからのプレゼントに有効な技だ。
「こんな状況で言うことかよ?」ちょっと嬉しそうだ。
「この人のこと、殺してくれてありがとうございます。スカッとしました。」
「そっか。」
想像しやすい本音風の言葉。見えやすい手の内を明かすことで、同情と親近感をもたらす。平凡な私が指名を取る常套手段。
「なんで撃ったんですか?あなたも何か恨みがあったとか?」
バカのふりをして聞いてみる。間髪を入れないことが大切だ。
「いや、ただの任務。」
「任務?」決定的な単語が出た。彼女に明らかな動揺の色が見られる。かわいい。
「私、殺されちゃう?」
少しだけ上目遣いで問いかける。本当なら私はもう撃たれていておかしくない状況だ。何か撃てない事情があるに違いない。
「ねえ、私のこと守ってよ。」私は手をゆっくりと上げ、無防備だとアピールする。
「は?ふざけてんの?」虚勢を張り続ける目の前の女に、私はさらに言葉を紡ぐ。
「これはあなたにも得のある取引よ。この街で生きるには、お互いに助け合うのが一番だと思うの。あなたの任務、私も手伝えるかもしれない。」
「手伝う?どうやって?」
「情報よ。私は、コイツのことを知っている。彼の経済状況、家族、仕事、誰に恨まれているか。」私は真剣な目で彼女を見つめた。
「それに、そもそもあなたは私を殺せない。この男を殺したい依頼主のターゲットに私は入らない。そうでしょう?」
一か八かの賭けに出た。まさしく生死を賭けていた。
彼女はしばらく考え込んだ後、ため息をついた。「分かった。協力してもらおう。ただし、裏切ったら容赦しない。」
彼女はしばらく沈黙し、私の目を見つめ続けた後、ついに右手を下ろした。
「りょーかい!」
私はわざとらしく敬礼する。
「信じて。私、女の子には嘘つかないから。」
笑みを浮かべて、私は彼女の左手を握った。
彼女は目を逸らし、ああ、ともおう、とも取れる曖昧な返事をして銃をポケットに仕舞った。
賭けに勝った景品は、クールな彼女の照れた伏し目だった。
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