第14話 VS アーマード・ドラゴン

西の町から馬車で北東に数時間かけて進んだ先の岩石地帯にその谷はあった。

崖の上を通る道から下を見下ろせば、そこに岩と見間違うばかりに動かずジッとしているドラゴンの姿がある。


「ムギ様、ここいらが馬で近づける限界です」


馬車の御者をしてくれていた冒険者の男が静かにそう耳打ちをしてくる。


「ヤツはこの先の街道の合流地点をずっと見張っていて、そこを通りがかる馬車の馬を襲うんですよ」


「なるほどな、了解した。運んできてくれてありがとう。じゃあ事前に話した通り、"事が済む"まで隠れて待っていてほしい」


馬車は全部で2台。

ひとつは俺とウサチを運んで来てくれたもので、もうひとつは……言うまでもない。


「さすがにドラゴンを崖上まで運んでくるのは手間だからさ。合図したら崖下に馬車を降ろしに来てくれよな」


「……あの、ソレ本気で言ってらっしゃるんですよね?」


御者は苦笑して訊いてくる。


「僕も冒険者をかれこれ5年やってますけど、ドラゴンを討伐した冒険者なんて片手で数えるほどしか聞きませんし、ましてやその肉を食べるなんて人は……」


「まあドラゴンなんて戦わないに越したことないからみんなやりたがらないんだろうよ。肉を喰わないのはもったいないがな」


ここらでドラゴン肉の美味さを広めておこう。

そうすれば『我こそは』とこぞってドラゴン討伐に乗り出す者が増えるはずだ。


「ムギ、どうやってたたかう?」


馬車の荷台から華麗に音もなく俺の隣に飛び降りてきたのはウサチ。

うずうずピョコピョコと、ウサ耳を忙しなく動かしてドラゴンを見ている。

ちなみに非戦闘員のオウエルは当然のごとく町で留守番だ。


「まずはしっかり短時間で仕留めるところからだ。生きて動いたままのモンスターを血抜きをしようとすると、モンスターのストレス値が高くなって肉が不味くなってしまう」


「ピスッ、じゃあ頭を狙って仕留める?」


「そうだな。だが、アーマード・ドラゴンの頭部から首にかけては見ての通り硬く分厚い岩石のようなウロコで覆われている。一撃で仕留めるのは難しい」


「なら、どうしよ……?」


「頭を狙う。それに変わりはない」


「……???」


ウサチは訳が分からないと言いたげに首を傾げた。

まあ、ちゃんと説明しないとそうなるよな。


「ウサチ、俺たちはまずあのアーマード・ドラゴンの頭を思い切りブン殴って気絶させるところから始めるんだ」


「気絶?」


「そう。そうして昏倒している間に、肉の柔らかい腹側から心臓に穴を開けて放血させる手順で討伐するのさ」


「……! なるほど!」


ウサチは納得げにコクコクと頷いた。


「それじゃあ私、殴るのやってきていい?」


「え? いいけど……できるのか?」


「ピスっ!」


ウサチはその場で地面を強く蹴りつけ、重力などまるで感じないかのようにフワリと何度も跳んでみせる。

……そうか。

兎人種は脚力が人間の何倍、個体によっては何十倍も高い。

だとすればウサチ一番の武器は剣技でもなければ速さでもなく、凄まじい威力の"足蹴キック"。


「じゃ、行ってくるね」


ウサチはひと際大きく崖側に向かって飛び跳ねると、そのままアーマード・ドラゴンがジッと佇んでいるその頭上めがけて落ちていく。

ググッと体を丸めるように足を屈めたウサチはアーマード・ドラゴンとの衝突の瞬間、


「フンナァァァ──ッ!!!」


両足を思い切り蹴伸びさせ、アーマード・ドラゴンの頭頂部を蹴り抜いた。

ズドン、と。

隕石が落ちてきたのではと錯覚するほどの音と衝撃波が辺りにそびえる巌を打つ。

恐らく普通のモンスターが喰らっていたら頭が吹き飛ぶほどの威力だろう。

しかし、


「エッ……!」


ウサチの驚愕の声が続いて響いた。

アーマード・ドラゴンの頭部にはヒビひとつ入っていない。

そして気絶するどころか、その赤い眼をギロリとウサチへ向ける。


「惜しかったな、ウサチ」


アーマード・ドラゴンがウサチの体に噛みつこうと首を伸ばしてきたところを、しかし先に俺の腕が掠め取った。

俺はウサチを小脇に抱えてそのまま地面へと着地する。


「……ムギ、いつの間に」


「1人で行かせるわけないだろ。ウサチが跳んでいった瞬間に俺も側まで走って行ってたんだよ」


俺だって元冒険者の端くれだ。

そろそろ中年と呼ばれてしまう歳ではあるが、これくらいなら体は動く。

ウサチを地面に降ろすと、そのウサ耳はしょぼんとしていた。


「ムギ、どうしよ……私のキック効かなかった……」


「ウサチ、あれは蹴る場所が悪かったんだよ」


「??? 頭蹴ったよ?」


「そうなんだけどな、あれじゃあ脳は揺れないんだ」


アーマード・ドラゴンの頭部から首にかけては硬く厚いウロコに覆われているのはさっきもウサチに言った通りだ。

そのままでは上下左右からの頭への打撃の衝撃が頑強な首に支えられて脳まで届かない。


「じゃあ、どうしたら……」


「そうだな、じゃあ俺が今から手本を見せよう」




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