第12話 初仕事の受注
「ダメだ」
「えっ?」
アーマード・ドラゴン討伐依頼を受けたいという申し出が……
断られたっ?
「な、なんでだよ? 俺ならヤツを……」
しかし、ミルガルドは頑なに首を横に振った。
「ムギ、お前にはお前のやることがあるだろ? お前のギルドは料理ギルドであって冒険者ギルドじゃない。違うか?」
「それはそうだけど……」
だけど、それじゃあミルガルドのギルドが危ない。
このままジリジリとダボゼたちに良いようにやられて利益も信用も低迷して……最終的には潰されてしまうんじゃないのか?
「ムギ様、恐らくミルガルド様はムギ様をこの問題に巻き込みたくないのかと」
「えっ?」
オウエルが耳元でコソっと呟いてくる。
「この圧倒的不利な状況でドラゴンを討伐を果たしてしまえば、ダボゼの注目がそれを為した冒険者へ……つまりはムギ様へと向かってしまう懸念をされているのだと思われます」
「!」
つまり、この期に及んでミルガルドは俺を守ろうって魂胆なワケかよ……!?
「……はぁ。漢気が過ぎるぜ、先輩」
「オウエル嬢ちゃん、そういうのは本人が居ない前でやってくれねぇか? こっ恥ずかしい」
ミルガルドは肯定も否定もしなかった。
ということはやっぱり、俺のことをおもんばかってのことだったんだろう。
……なら、俺も自分勝手に先輩の役に立つとしようか。
「先輩、実は"メシウマ"で丁度"ドラゴンステーキ"を作ろうと思ってたんだよ。いやぁ、ナイスタイミングだ」
「はぁっ? ドラゴンステーキだぁっ?」
「そうそう。やっぱり最初の活動は派手にいかないとギルドの宣伝にならないからな」
「ムギ……お前ってヤツは、バカヤロウ。取って付けた理由を並べやがって……」
「いやいや、前から決まってたもんなぁ?」
俺がオウエルに目配せをすると、頭の良い彼女はもちろんコクリと頷いて、
「はい。ムギ様の仰る通りです。ドラゴンステーキが楽しみ過ぎて、この数日は1日3食しか喉を通らないほどでした」
「ただの健康的なヤツじゃねぇか……じゃあそっちのウサ耳のチビっ子ちゃんはどうなんだ?」
「……ぇあ?」
これまでのやり取りを全てボーっと眺めていたウサチは急に話を振られたことにびっくりしたのか、ウサ耳をしんなりとさせ、
「わ、私は1日6食だ……ムギの料理、美味しかったから、つい……」
「喰い過ぎだ。それにそういう話じゃねぇ。俺が聞いてるのはな、ドラゴンを倒しに行くなんて大事なことを勝手に決められてんじゃねーかって話だ」
ミルガルドは呆れたように言い直す。
ウサチは戸惑うように俺を見た。
……まあ確かに、話の流れとはいえ勝手に決めたのは悪かったと思う。
「ウサチ、ごめん。ウサチは手出ししなくて大丈夫だ。これは俺がやりたくてやることだから」
「え……」
「でもドラゴンステーキはちゃんと食わしてやるからさ。スマンが俺にやらせてくれないか」
「ドラゴンステーキ……」
ウサチの鼻がピクリと動いた。
「それは美味いのか?」
「めっちゃ美味い。ドラゴンは大型の草食獣や肉食獣ばかりでなく、木の実や葉、魚も大量に食べているから雑味が少なくて香りがいいし、脂肪もたっぷりでジューシーだ」
「ピスピスっ!」
ウサチが耳をピンと立て、興奮したように鼻を鳴らす。
そのままグイグイと強く俺の袖を引っ張って、
「ムギ! ドラゴン……狩ろう! どこにいるっ?」
「お、おうっ……いや、だからドラゴンは俺が討伐してくるから、」
「2人の方が早い。だから、私も行く……!」
「いや、でも危ないし……」
「私ちょっと探してくる」
「ちょいちょい! 待て待て!」
思った以上の喰いつきだった。
さすがに先行させるわけにもいかずウサチの首根っこを掴んで止める。
「わ、分かったから。じゃあいっしょに行こう。とはいえ無理をさせる気はないからな?」
「ピスピスっ」
ようやく落ち着いたのかウサチはコクコクと頷いた。
よかった。
いったんこれで勝手に1人で討伐に行ってしまうようなことはないだろう。
しかしウサチの美味いモノへの執着力をナメていたな……
いや、でも考えてみれば当然か。
なにせマグリニカを辞めた理由が俺の作る料理を喰えないから、なんだもんな。
今後ウサチの前で料理の話をするときは時と場合を考えるようにしなくては。
……まあ、なんにせよだ。
「こういうワケだから、先輩。改めてお願いしたい。俺たちにアーマード・ドラゴンの"討伐依頼"を受けさせてくれないか」
「……お前は本当にお節介な後輩だよ、まったく」
ミルガルドは諦めたようにため息を吐くと、
「分かった。このギルドを代表し、ギルド長ミルガルドからギルド"メシウマ"に対して"アーマード・ドラゴン討伐依頼"を発注する。ムギ……巻き込んでしまいスマン。そして感謝する」
「その討伐依頼、確かに承った。そして巻き込まれた覚えも感謝されるいわれもないよ、先輩。俺たちはただドラゴンステーキを喰いたいだけなんだからな」
「……頼んだぜ、ムギ。ブランクもあるだろう、無茶だけはしてくれるなよ」
「任せてくれ。それで、ドラゴンは今どこに?」
「この町の北東の岩石地帯、その街道沿いの谷に巣を作っている」
「了解した。じゃあ明日、さっそく行ってくるとするよ」
料理ギルドの初仕事がドラゴン討伐になってしまったのは予想外だったけどまあいいだろう。
ドラゴンなんて10年以上喰ってないからな。
腕が鳴る……
いや、腹が鳴るってもんだ!
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