第11話 敵対的買収

突然現れた軽薄で粗暴そうな冒険者の男たちはミルガルドを見つけると、



「おっ、居るじゃん、ミルガルドさーん」


「……」



ミルガルドが眉間にシワを寄せた。

だがそんなことを気にした様子もなく、男たちはギルドへと足を踏み入れてくる。



「なぁミルガルドさんよぉ、例の"アーマード・ドラゴン討伐"の進捗はどうなってるわけ? 一向に討伐されたって話を聞かないんだがねぇ」



ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべて近づいてきた。

サッと、俺の背中にオウエルと、オウエルに抱え込まれるようにしたウサチが隠れてくる。



「ムギ様……ヤツら、マグリニカの冒険者ですよ」


「……えっ?」



うーん、確かにどこかで見覚えがあるような気がしなくもない気が……

いや、分からんな?

俺、最近は特に厨房から外に出てなかったし。



「何見てんだコラ、オッサン。見世物じゃねーぞ」



その冒険者の1人が俺に絡んでくる。

まるでチンピラだな……。

余計なトラブルを起こさないよう、いったん引っ込んでおくか。



「ったく。アンタらは何度押しかけてくりゃあ気が済むんだ」



ミルガルドがため息混じりにチンピラ冒険者たちに応じた。



「対応を検討中だと言ってるだろうが。他のギルドの冒険者を借りられないかあたっているところだ」


「まだ検討中かよ? 困るねぇ……お前らの担当区域だろ? マグリニカは"勝手に"は手出しできない以上、そっちで早く対応してくれないと安心して街道も使えやしない」


「……」


「そうだ、ウチが貸そうか? 今なら格安でここらの地理に詳しいベテラン冒険者を派遣してやれるぜ?」


「……白々しいことを言いやがって」



ミルガルドは憤るように鼻を鳴らした。



「誰のせいで対応が滞っていると思ってやがる。ドラゴンの情報を掴むやいなやその"ベテラン冒険者"たちをウチから引き抜いていったのはお前らマグリニカだろうが」


「……さて、何のことやら。俺みたいな下っ端には分からん話だなぁ」



マグリニカの冒険者たちは互いに顔を見合わせて笑うと背を向けて、



「ダボゼ様から伝言だ。『あと1週間で対応できないようならマグリニカが強制介入する。同時に国にも、あんたらのギルドじゃこの区域の担当は分不相応だと報告を上げる』ってな」



そう言い残すと去って行った。

嵐が通り過ぎた後のように、ギルド内は静まり返っていた。

なんとも不穏なやりとりだったな?



「先輩、今のって」


「ああ……みっともねぇところを見せちまったな」



ミルガルドは疲れたようにため息を吐く。



「ムギ、お前の古巣を悪く言いたくはないが……俺たちはマグリニカに脅されてる」


「!」


「ダボゼの野郎がギルド長に就いてからマグリニカは変わっちまったな。他のギルドに対して"敵対的スカウト"を仕掛けるようになりやがった」


「敵対的スカウト……?」


「相手のギルド長の了解を得ずに、そのギルドの主要冒険者を引き抜くことです」



俺が首を傾げているとオウエルが説明してくれる。



「スカウトによる退職や転職は自由意志が原則ではあるのでそれ自体は罪ではありません。しかし、そのギルドの"主要冒険者"を引き抜く際には相手ギルド長の了解を得るのが冒険者界隈の暗黙のルールとされています」


「まあそうだろうな……突然ギルドの仕事が回らなくなれば、そのギルドに仕事の依頼をしている人々の生活にも影響が出るわけだし。とすると、ダボゼはその了解を一切取らなかったってことか」


「はい。私が数カ月秘書を務めていた間にも、ダボゼは10を超える中小ギルドの主要冒険者を敵対的スカウトしていました。破格の金額を提示して、です」



大手冒険者ギルドであり、資産の潤沢なマグリニカであれば大量のゴールドを冒険者の前に積むことは容易いだろう。


しかし、どうしてそこまでするんだ?

他のギルドにケンカを売るようなマネまでして……

悪評が広まるだけじゃないか?



「ダボゼはな、俺ら他のギルドを全て潰して吸収しちまえば悪評なんて関係ねーと思ってるのさ」



ミルガルドはそう言って舌打ちする。



「ダボゼの狙いはここら一帯の冒険者事業の実質的な独占支配だろう。国内最大手ギルドを作り上げようとしてるんだ」


「……! じゃあドラゴン討伐依頼の件は……」


「あえて俺たちが動けないように仕組んでるんだろうさ。俺がアチコチ駆け巡っても冒険者が一向に集まらないのは、ダボゼの根回しが行っているからかもしれんな」



ダボゼのやつ、徹底させてやがる。

罪として問われない範囲で、他のギルドにハラスメントを仕掛けているわけだ。



「……気に喰わないな」



ダボゼのやっていることは経営戦略で、それ自体は悪どいが違法性は無い。

直接関係のない俺が責める筋合いが無いのは分かっているが……だけどマグリニカを使ってそれをやっているところに腹が立つ。


マグリニカは俺の友人が大きくしてきたギルドだ。

それを他のギルドを苦しめるために使っているのをむざむざ見過ごす道理はない。



「先輩、討伐対象は"アーマード・ドラゴン"なんですよね?」


「ん? ああ、そうだが……」



アーマード・ドラゴン、硬い鎧上の鱗を持っているドラゴンで討伐難易度はかなり高い。

様々な職種のベテラン冒険者たちで組んだパーティーが必要になってくる。

だけど、俺なら。



「先輩、俺はそのドラゴンを"喰った"ことがあります。その討伐依頼を俺に投げてもらうことってできませんかね?」

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