第9話 再会

西の町は俺が昔来ていた時と変わらない町並みが広がっていた。

都会というほどに建物が密集しているわけではないが、決して人通りが少ないわけでもない。

むしろ行き交う馬車の数は通行人の数よりも多かった。



「ここは南の商業都市への経由地でもありますから、立ち寄る行商人が多いんでしょうね」



オウエルがそう分析する。

その通りだ。

この町はそういった行商人を対象にした商いが栄えている。


ゆえに、行商人を護衛する冒険者の需要も多い。

そういった点に着眼してこの町で冒険者ギルド"アラキス"を運営しているのが俺の知り合いだった。



「──ムギ・ウォークマンが訪ねてきた、とここのギルド長に取り次いでくれませんか?」



冒険者ギルド"アラキス"に着いて早々、俺は受付嬢へとそう告げた。

受付嬢は訝しげに俺、オウエル、そしてウサチを見る。



「ええと、どちらのウォークマン様でいらっしゃいますか?」


「今は新興料理ギルド"メシウマ"のギルド長をやってるんですけど、たぶんそう言っても分からないので……ひとまずは名前だけ伝えてくれれば分かってもらえるハズです」


「料理ギルド……? はあ……」



不承不承、といった感じではあったが受付嬢はギルドの奥へと入っていった。

オッサンと美人秘書、ウサ耳少女なんて取り合わせに怪しさを感じる気持ちも分かる。

でもまあ取り次いでくれさえすればこちらのものだ。



「高いなぁ」



ウサチが4階まで吹き抜けの天井を見て呟いた。



「そうだな。俺が知ってる頃よりもアラキスは大きくなってるよ」



1フロアの広さはダンスパーティーが開けるほどで、そのうえ4階建て。

マグリニカのような大手ギルドほどの規模ではないけれど、それでも個人で開いているギルドであることを考えれば相当な成果を積み重ねているのに間違いはない。


……なんて思っていると、



「よう、オッサン。町の外の人間のクセしてずいぶんとイキってんなぁ?」



カシッと。

唐突に俺の肩に太い腕が回された。

20代前半くらいのガタイの良いコワモテの男だ。


さらに後ろにはもう1人いる。

その風貌を見るに、このギルドに所属している冒険者らしい。



「オッサン。"ジイさん"を呼びつけて何のようだ」


「"ジイさん"……って」



もしかしてこのアラキスのギルド長のことか?

所属メンバーからジイさんと呼ばれているとは……だいぶ老け込んだらしいな。



「どうせテメェも例の"ドラゴン"の件でイチャモンをつけにきた輩だろ?」


「イチャモン?」


「とぼけんなよ。連日のクレーマーにオレらも辟易してんだ」



冒険者の男たちは敵意の込められた目で俺を見てくる。

なんだ?

完全に話の流れが理解できないんだが?



「ムギ……その人たち友達?」


「いや明らかに違うだろ」



他人にまるで関心のないウサチの問いにツッコんでいると、



「ちょっと何なんですか、あなたたちは! 失礼ですよっ!」



オウエルが目を吊り上げて俺の肩の上に載せられた男の腕をどけようとする。

が、しかし。



「女は黙ってな!」



オウエルの伸ばした手は勢いよく男に跳ねのけられ──

ようとしていたため、危なかったから先に俺がその男を地面に転がした。



「オイ、女の子に乱暴なマネはよせよ」


「……っ!?」



俺の肩に手を回していた男は、いつの間にか自分が床に横たわって俺に見下ろされている状況に目を白黒とさせていた。



「テ、テメッ!」



後ろで立っていたもうひとりが掴みかかってこようとする。

俺はケンカしに来たわけじゃないんだけどな……

仕方ない。

見せてやろう。

料理拳がひとつ、"オタマ拳"を。



「よっと」



中腰でタックルをしかけてくる冒険者の男の腰へ、俺は"くの字"に曲げた手首を差し込む。

そして魔力の勢いを載せ、スナップを効かせて手首を返した。



「はい、"掬い上げるスクーピング"」



フワリ。

冒険者の男の体はまるで羽のように宙へと飛んだ。



「う、うおおおっ!?」



男は空中で手足をバタつかせながら、背中から地面へと落ちて咳き込む。



「チ、チクショウがっ!」



最初に俺に転ばされた方の冒険者が懲りずに俺へと殴りかかってこようとして、



「──やめんかっ、騒々しいッ!」



迫力のある怒号がギルド内へ大きく響いた。

冒険者の男は、雷に撃たれたようにその場でピタリと止まる。

声が聞こえた方を見れば、そこで腕組みをして立っていたのは初老の男。



「ジ、ジイさんッ! チッス!」


「チッスじゃないわこのド阿呆がッ!」



ズガンと。

ジイさんと呼ばれた男は一瞬で俺たちの側まで跳んできたかと思うと、俺に殴りかかろうとしていた態勢で止まっていた男にゲンコツを落とした。



「俺の客になに手ェ出してやがるんだ、お前は!」


「サ、サーセンッ! コ、コイツらも"例のヤツら"と同じ類かと……!」


「……フン。コイツは違うさ。んなしょぼくれたことするタマじゃねぇよ」



そう言って俺を見やるその目は10年前と何の変りもない。



「ご無沙汰してます、ミルガルド先輩」


「おう、ムギ。鈍ってないみてェだな」



アラキスギルドのギルド長、"ミルガルド"。

彼は俺が10代の頃に俺に冒険者のイロハを叩き込んでくれた先輩だ。

十数年前に独立し、この町でアラキスを創設した。



「オメーらな、勝てる相手と勝てない相手くらい見分けられるようになれ」



先輩は俺に絡んできた男たちへと向けて、



「コイツはかつて"臓喰いハラグイ"と恐れられたバケモノ冒険者だぞ?」


「……えぇぇぇッ!?」



その言葉に男たちと、それに加えてオウエルもまた驚き叫んでいた。



……"臓喰いハラグイ"、ねぇ。



懐かしい二つ名だけどその呼ばれ方嫌いなんだよな。

字面的にエグそうだし、その呼び名のせいで冒険者ギルドに所属できなかった過去もあったりしたし。


俺自身がやってることは今と変わらず、討伐したモンスターを喰ってただけなんだがな。




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ここまでお読みいただき、またたくさんの応援や☆評価もありがとうございます!


もしここまでのお話で少しでも


「おもしろそう」

「次回も楽しみ」


と感じていただけましたら、

☆評価やレビューをいただけると嬉しいです!


それでは次回のお話もよろしくお願いいたします。

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