第8話 2人目の仲間

「私、ウサチ。マグリニカは……辞めてきた」



ホットサンドを食べ終えた後、翌朝のこと。


ウサチ自身からようやく自己紹介が聞けたのは、朝ごはんのレモンソルト・ホットサンドをこれまたペロリと完食した後だった。

昨晩のウサチは食べ終わるなり、また気絶するようにして寝落ちてしまっていたからな。


しかし……ギルドを辞めたときたか。



「どうしてだ? 君は四天王なんだろ? 超優遇を受けているハズなんじゃないのか?」


「……超優遇?」



キョトンとウサチは首を傾げた。

え、知らない?

そんなことあるか?



「ウサチさんは豪邸や馬車が買い与えられた後も生活スタイルをまったく変えていなかった方なんですよ」



オウエルが俺に耳打ちしてくる。



「若すぎる年齢のせいもあるかもしれませんが、彼女は世間や他人への関心が極端に低いんです。破格の給料も、豪邸の鍵を貰ってることも忘れているでしょうね」


「マジで……?」



ウサチを見るとボーっとして空を飛ぶ蝶々を眺めていた。

確かに何ものにも囚われていないマイペースな雰囲気はある。

でもそれでどうやってこれまで生活してきたんだ……。



「でもそんなウサチさんでも1つだけ関心の対象になっていたものがあるんですよ。それがムギ様のお料理です」


「俺の……」


「ウサチさんは毎日のように食堂へ通って美味しそうに頬を膨らませていたんですよ。このところずっと厨房で作業されていたムギ様がご存知ないのは仕方ありませんが」


「……」



そうだったのか。

10年経って俺の料理を本当に必要としてくれるヤツなんてもう居なくなったと思っていたら……まだ居たのか。

いや、新しくできていたんだ。



「なあウサチ」


「ん」


「俺たちのギルドに入らないか?」


「……入ったら、ムギの料理食べれる?」


「ああ、もちろん。なんていったって料理ギルドだからな。ギルメンは食べ放題だ」


「……! ピスピスッ!」



ウサ耳を立てて、ウサチが鼻を鳴らした。

喜んでいるみたいだ。

兎人種は嬉しい時やテンションが上がった時にそういった反応をするらしい。



「ウン。私ムギのギルドに入る」



こうしてギルド"メシウマ"のメンバーはまた1人増えることになった。


というか、まだ何ひとつとして仕事は見つかってないのに人ばかり増えていくなぁ……。

せいぜいこれから頑張るとしよう!




* * *




「おっ、ようやくだな……」



左右に草原が広がる街道の先、目的地としていた西の町が見えてくる。

道のりは覚悟していたほど大変なものではなかった。

というよりむしろ過剰戦力過ぎるまであったんだよな……。



「ムギ、新しい肉だ」



ガサガサと俺の胴の位置くらいの背丈の草むらからウサチがヒョコっと顔を出した。

その手に持って引きずってくるのは……巨大カエル"ゲーロッグ"。

草むらから突然飛び出してきて人すら丸飲みにする危険度の高いモンスターだ



「料理作って」



ウサチはこの3日間、その持ち前の野生の勘でモンスターを先回りで発見するだけではなく、その高速の剣捌きでこれを撃滅し、結果として俺たちがモンスターに強襲されることはまるでなかったのだ。


まあその度に倒したモンスターの肉で料理を作れとせがまれるんだがな。



「ウサチ、昼飯もオヤツももう喰ったろ? それにもうすぐ目的地だ。野営食は終わりだよ」


「……! そんな……」



ウサチがショボンと耳を垂らす。

いや、そんなに落ち込むことか?

むしろ町に着いたら風呂にも入れて、柔らかなベッドでも眠れるんだから喜ぶ場面だと思うんだが。

ウサチが俺の服の袖をクイクイと引っ張ってくる。



「ムギ、今来た道もう一往復しよ……」


「なんでっ?」


「もっとムギの料理食べたい……」


「そこまで俺の作る野営食にハマってくれるのは嬉しいんだがなぁ」



やはりウサチの中では美味い料理が第一ということなのだろう。

ならば、



「なあウサチ、町に着けばもっと美味いモノを作ってやれるぞ……?」


「ピスッ!?」



ウサチは驚きにウサ耳を直立させると、



「行こ……! 早く……!」



一転して今度は町へと向けて袖をグイグイ強く引っ張った。

なんという分かりやすさだ。

オウエルはその様子を微笑ましそうに見つつ、



「さすがムギ様です。人心掌握もお手のものですね」


「人聞き悪っ! 爽やかな笑顔とセリフの不穏さがマッチしてないぞっ?」



まあとにかく、俺たちは無事に西の町へと到着した。

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