第2話 1人目の仲間
「は……はぁ? なんの冗談だ? コイツの料理が喰えなくなるからギルドを辞めるだって……?」
ダボゼは訳が分からないといったように俺を見る。
いや、俺も分らんが?
こっち見んな。
「何ひとつとして冗談ではないですけど?」
眉ひとつ動かさず、オウエルは淡々と応じた。
「私はずっと昔からムギ様の作るお料理のファンでした。それが高じてギルドに加入してみたら、健常な経営陣はすでに追いやられ汚職がまん延している状況……正直に言って
「なっ……」
「それに加えてムギ様のお料理も食べられなくなるのであれば、もうここに所属することに何のメリットもありませんから。辞めます」
「むっ、ムギの料理が何だと言うんだっ! ウマい料理を出す場所ならこの間の会食で連れて行っただろう!? 他にいくらでも……」
「はぁ……これだから脂身の多い肉なら何でもウマイウマイと食うカロリージャンキーは……」
オウエルは重たいため息混じりに小さく呟くと、
「根本的に味覚が合わないので無理です。あとあなたにいつも性的な視線で見られるのとプライベートで会おうと迫られるのも生理的に無理です」
「きっ……貴様っ!?」
「総じてギルド長がキモいので辞めます」
「カ……ッ!」
鋭い言葉のナイフが降り注ぎ、ダボゼは酸欠のデメキンみたくパクパクと口を開いては閉じを繰り返す。
そのあまりの容赦のなさになんだかこっちの胸まで痛んでくる……
これが決闘ならば『そこまで』と宣言して楽にしてやりたい。
「そ、そんな急に、許されると思ってるのかッ!?」
ダボゼはしかし、我に返ったかと思うと左右の護衛の冒険者たちが驚く勢いでデスクを強く叩き怒鳴る。
「契約違反だ! 辞めるにも2週間以上前に申告が必要だろう! 違反金を請求するぞッ!」
「いえ、契約違反ではありませんので不可能です。2週間以上前にすでに退職については申告済みですので」
オウエルは懐から折りたたまれた紙を取り出した。
広げられたそれは確かに契約書に見える。
「こちら詳細を確認していただければ分かる通り、ムギ様と私の退職と退職金に関わる書類です。ここにギルド長、あなたの承認の署名もございます」
「なっ……!? そんなもの、サインした覚えはないぞッ!?」
「まあ流れ作業で署名させるために通常業務の契約書類に紛れ込ませていましたからね」
「はぁっ!? 何してくれてんだ貴様、無効だろうそんなもの!」
「いいえ。内容確認を怠ったそちらの落ち度です」
「ふざけるな! 退職金など1ゴールドも払わんぞ!」
「問題ありません。そちらはすでに確保済みですので」
ジャラリ。
今までどこへ仕舞っていたのか分からないがオウエルが取り出して手に持った布袋はパンパンに膨らんでおり、そこから多くの貨幣がぶつかる音が鳴る。
「バ、バカな……!? いつの間に……!」
「ギルドの銀行口座も私に任せていただいてましたので、他の業務を行う際いっしょにムギ様と私の分の退職金を引き出しておきました。それでは失礼いたします。今までお世話になりました」
オウエルは一方的に話を切り上げると俺の方を見て、
「さあ、参りましょう。ムギ様」
これまで能面のようにその顔に貼り付けていた無感情さを崩して微笑んできた。
今までにないその無垢な笑顔を見て……
「あっ!」
俺は思い出した。
この秘書に感じていた既視感を。
俺はこの子のことを知っている……!
「君はまさか、数年前までウチの食堂によくメシを食いに来ていた……」
「はいっ。その節は大変お世話になりました」
オウエルは深々と俺に対してお辞儀をしてくる。
年月が過ぎるのは早いとは言うが……
しかしまあ、すっかり綺麗な女性になってしまっていて気付かなかったな。
オウエルは"子供の頃"によく俺の料理を食べにギルド食堂へとやって来ていた女の子だった。
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