EPISODEⅩⅤ δ星の消滅

穴の開いた胴体が少しずつ蠢いて身体を修復していく。

ワサトは自身の腕を自己治癒させながら、また呻き声をあげる。

『πονάει!』

傷病転移ビオス・ユンクティオっ!」

蒼月あるながそう唱えると、蓄積されたすいの傷や或空あるくの苦しみがワサトに移る。

「はぁ…!あとは頼んだよ?!」

『πονάει.πονάει!πονάει!!』

ワサトにはすいと同じように胴体に大きな穴が開いて、苦しみ藻掻いている。

「おい、紅輝こうき!なんか武器作れ!!」

「あ、あぁ、血液分離ハイマ・アフェレシス!!」

「うわ、綺麗な刀…、サンキュ。」

幽体空間メタ・アイオーン!!」

刀を受け取った或空あるくの幽体はワサトの目の前へと飛んでいった。

暴れるワサトの攻撃は幽体の或空あるくに当たることは無く、刀はワサトを切り裂いた。

『Γιατί;Γιατί;Γιατί;!』

真っ二つになったワサトは、それでもなお叫び声をあげ続ける。

「…、死ね。」

或空あるくは横に刀を引き抜いた。

『Δεν θέλω να πεθάνω…』

「Αδύνατο.Γίνε έννοια και βυθίσου μέσα μου.」

苦しみの声をあげながらワサトは消滅し、緑のアレセイアとなってQUASARクエイサーに吸収された。

「う ゙ぁ…。」

或空あるくの瞳が少し緑色に発光した。

「か、勝ったの…っ?」

「へへ、俺らには余裕だったか?!」

架恋かれんが瞳を輝かせながらそう聞くと、紅輝こうきが照れ臭そうに答える。

「げほっ、ごほっ。ほぼ、或空あるくのおかげでしょ?」

咳込んだすいは涙目で呆れた声を出す。

すい、怪我の具合はどうだ?」

「もう閉じたから平気、それよりびっくりしたよ…。突然庇うんだもん。」

「だって…あ、あんな…、ずるいよ…っ」

すいは泣き続けながら、文句を口にする。

柘榴ざくろ、それはすいの弟だった。

ワサトが世界に出現してから連絡が取れなかった弟。

柘榴ざくろに擬態してたって、ことは…!」

「お前の弟はもうこの世に居ない。」

脳を喰らわれ、首無しとなった人々が道路に転がる死体のひとつになった。

守れなかった。そんな後悔が頭の中をぐるぐると回る。

「そ、んな、柘榴ざくろ…!ごめ、ん。ごめんねぇ…っ!」

その後、すいの弟への弔いを行った。

ワサトへの勝利を喜ぶ時間もなく、今日が終わっていく。


「δ星、ワサトの消滅を確認しました。」

「ほぅ”ニンゲン”とやらも中々やるようね。」

「うふふ、私たちの出番は明日…。楽しみですわね、お姉さま!」

メタはメグに頬擦りしながら嬉々とした声を上げた。

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