EPISODEⅩ 黒い者の誕生

或空あるくが目を瞑ったまま小さく呟く。

「απελευθερώστε όλες τις υπερφυσικές δυνάμεις στο σώμα μου.」

それを合図に或空あるくの体内からは黒い液体が溢れてくる。

どろどろと現れた液体がアストラルの白い世界を黒に染める。

黒くて、深い、闇の色。

或空あるくの本来の姿が露呈する。

「あ、或空あるく…。その姿は…!」

赤い棘のある媒体に、黒い液体と、クェイサーの星々を纏って。

「オレの中に、沈まれ…!!」

口が無く、どこから発せられたか分からない言葉。

或空あるくは能力を制御するために必死に変容する。

零れ落ちた黒い液体は氷柱のように塊となってアストラルに落ちて砕け散る。

その氷柱が紅輝こうきを目掛けて飛んでくる。

紅輝こうき、危ないっ!」

蒼月あるな紅輝こうきを突き飛ばして黒い氷柱を避ける。

地面に落ちて砕けた氷柱の破片が蒼月あるなの脚に突き刺さった。

「あ゛ぅっ!いったぁ…っ!!」

じわじわと蒼月あるなの肌を黒い液体が蝕む。

這入って、融けて、壊して、死んでいく。

「やばい、早く治さなきゃ…っ」

傷病転移ビオス・ユンクティオ。どんな怪我でも治して蓄積して、別の者に転移できる能力。

その能力で刺さった破片がぬるりと皮膚から這い出て落ちる。

壊死して変色した肌に血色が戻って治っていく。

蒼月あるなが治療に専念して、再び飛んでくる黒い氷柱。


パキィンッ!!


甲高い音が鳴り響いて、氷柱が弾かれて軌道を変えた。

ふわりと舞い散る桜。

「…蒼月あるな、大丈夫か?!」

「え、その桜…。」

紅輝こうきが操る桜の花弁が氷柱を弾いて蒼月あるなを守った。

その後も、幾度となく飛んでくる氷柱を桜の花弁で弾き続ける紅輝こうき

次第に或空あるくの刺々しい姿は、徐々に人の容へと戻っていった。

「は、ぁ…あぁ…!!」

苦しみの声を発する或空あるく

周りを漂っていたクェイサーの星々が煌めいて、

そして、黒い液体と共に鋭利な棘となって或空あるくの身体を劈いた。

「う゛ぁああッ!!」

液体も星々も或空あるくの体内に収まって、身体はどさりと地面に落ちた。

「はぁ…っ、は、ぁ…っ!上手く、いったか…。」

自我を取り戻した或空あるくは、その場から動けないまま2人に目線を向けた。

蒼月あるな紅輝こうきは、そんな或空あるくに歩み寄る。

「…デュナミスに、なれたの?」

「俺よりやべぇ儀式だったな、死ぬかと思ったぜ…。」

或空あるくは掌を広げた。

クェイサーとリンクした或空あるくはデバイスを使わずにQUASARクエイサーを起動した。

小さな星々が集結して、文字を形成する。


【Καλωσήρθατε στον-η-ο Αρουκου.】

§死好欲動〖デストルドー・フィリ〗

 傷に口づけをすることで、身体能力を一時的に著しく向上させられる能力。

§幽体空間〖メタ・アイオーン〗

 自分の身体から不死の幽体を離脱して行動させることが出来る。

§死体拍動〖カダベル・カルディア〗

 死体を操る能力。死体は自我を持たず、ただ従順に命令だけを遂行する。

§漆黒氷柱〖メラス・クリュスタッロス〗

 黒い水を固形として操る能力。触れた者は少しずつ壊死していく。

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