第13話 ダメなやつだと思う度

 「えっ、それ本当!?茜が私のこと好きって?」


 放課後の教室、寂しそうな色をした空の光が差し込む、寂しそうな色の教室に前田の明るい声が投下される。


 「本当本当。嬉しそうに教えてくれたよ」


 「まじかぁ〜何か嬉しいな〜てか、照れる!」


 前田が足を伸ばして空中でブラブラさせて、体をくねくね揺らす。嬉しそうな声に聞こえたし、表情もにこやかだ。


 「嫌じゃないんだね」


 自分が声に出した言葉の音は落ち着いて聞こえる。喜ぶ人がいるとは思わなかった。気持ち悪いって思う人がいても良いと思う。何とも思わない人もいると思う。


 「え?何で?」


 前田は拍子抜けした声で聞いてくる。まるで当然だと言わんばかりに。


 「茜ちゃんは気持ち悪がられるかもって心配してたし、実際に同姓から恋愛的な感情向けられてたら嫌がる人もいるでしょ」


 「えーそうかな?私は茜のこと好きだから一緒にいるから別に。多分、恋愛的な好きではないと思うけどね。でも好きなのはお互い様だから嬉しいよ。実は嫌われてましたより全然いい!」


 「そっか。そういうもんなのか」


 感情を選択せずに言葉だけを吐き出す。僕は前田に気持ち悪がって欲しかったのかな?茜ちゃんの気持ちを否定して欲しかったのかな?茜ちゃんが聞いたら喜ぶのかな?


 「てか私にそんなこと話しちゃっていいの?」


 「どうせ、お前に隠し事できないからいいかなって」


 「まあ確かにそうか。でも、急にそんなこと言ってくるからフラれたんかと思ったよ。良かったね、私のついでに好かれてて!」


 ついでじゃねえよ、と反論しようとして口が閉じる。茜ちゃんが先に好きになったのは多分、前田だろう。僕はついでなのか...


 僕が黙っているので、前田が気にしたのか少し焦ったような顔で話す。


 「え、冗談だってー冗談!」


 「どっちも好きだって」


 「茜が羨ましいな~男の子と女の子、どっちも好きな人を見つけて」


 羨ましい?僕には理解できないと思う。どっちの性別にも好きな人がいるなんて。僕には異性だけで精一杯だ。そんな器の男です。それでも否定するのは面倒なので軽く返事をする。

 

 「確かに」

          

 「とにかく!私と茜は死ぬまで一生仲良しな友達だよ!」


 この言葉を茜ちゃんが聞いたらどう思うのだろう。恋人にはなることが出来ないという悲しみの声に聞こえるだろうか。それとも、死ぬまでそばに居られる喜びの声に聞こえるだろうか。


 「茜は幸せだね。私たちみたいな素晴らしい2人を恋人と親友にしたんだから」


 お手本のような笑顔で素晴らしいセリフを吐く前田。


 みんな好きな人の恋人になりたがる。好きな人を自分の恋人にしたがる。それは何故か?死ぬまでそばに居たいから?誰にも渡したくないから?恋人になることを1番の幸せだと思い込んで勘違いしている。親友になることが出来ても幸せなのに。でも僕も前者と同じ。茜ちゃんに告白して、恋人になることが出来て喜んだ。めっちゃ喜んだし嬉しかった。


 でもやっぱり何かモヤモヤする。僕だけを好きでいて欲しかったな。聞かなきゃよかったよ。前田のことが好きだなんて。前田も良いやつだから、こんなことを気にしている自分に嫌気がさす。

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