第12話 真っ暗闇LOVE
初告白で付き合うことになった初彼女に初デートでカミングアウトをされた。クラスメイトの前田が好きだと。前田は女性だ。僕はどんな返事をすればいいんだ。手に持つスマートフォンをポケットにしまい込む。手もしまい込む勢いで、手汗で地面に落としてしまう前に。
「ご、ごめんね、急にこんなこと話して。訳分からないよね。」
申し訳なさそうに、俯いたまま話す茜ちゃん。訳が分からないわけじゃない。訳が分からないことを理解したうえで、訳が分からないんだ。分からないことだけ分かるんだ。早く何か返答しないと。でもやっぱり何を返せばいいのか分からない。何て返すのが正しいんだろう。頭を必死に回す。回している頭は大したもんじゃないけど。そうして絞り出した思考を声に出す。
「...大丈夫だよ。別に謝る必要なんて全くないよ。その、失礼な質問だけど、女の子が好きなの?」
少々の沈黙。俯いたままの茜ちゃん。
「あっ、ほんとごめん!忘れて!めっちゃ失礼だった。すみません!」
静寂に耐えられず、自分の言葉で沈黙を終わらせる。すると、茜ちゃんが顔を上げて声を出す。いつも通りの表情で。
「ちゃんと話すよ。彰人君は私の大切な彼氏だから」
立ったまま話すのは疲れるので、少し移動して、近くのベンチに腰を掛ける。茜ちゃんは顔をほのかに赤く染めて、口をもごもごさせている。やはり話しにくいのだろう。
「無理しなくてもいいんだよ」
「いや、違うの!その〜...私って可愛いのかな?」
急な質問にひどく驚き、口が閉まる。いつも心の中で言いまくってたけど、本人に伝えたことはなかったはずだ。でもこんなに可愛い彼女が聞いてきたんだ。答えるべき言葉は決まっている。
「そりゃ!もちろん!か、可愛いよ」
いつも心の中では元気いっぱいに可愛い!とか言ってるけど、本人に直接伝えるのはやはり恥ずかしい。可愛い、くらい軽く言えるようにならないと、彼氏なんだから。でも軽く言われても嬉しいもんじゃないか。
「ありがと。それでね昔から、男の子達が私のこと可愛いってチヤホヤされてたの。それでね、嫉妬したのか何か分かんないんだけど、一部の女の子達に嫌われちゃったの」
彼女は、僕のぎこちない可愛い宣言を聞いて頬を赤く染めた。だが、話が進むと同時に頬はいつも通りの色に染まる。言葉だけ見れば自慢のようにも聞こえるが、彼女の声を聞いて、顔を見ればそれが自慢ではないことは一目瞭然だった。
「女の子達はいじめみたいなことはしてこなかったけど、軽く無視されてて、男の子達は相変わらず、私を見て可愛いって言ってるだけ。何も私のこと知らないくせにさ~」
それ完全に僕じゃん。何にも知らないけど、だって可愛いから。本人に伝えるどころが声にも出してないけど。彼女のことを見るたびに、何も考えずに可愛いと思うことしか出来てなかった僕じゃん。
「...それで男の子嫌いになっちゃった的な?」
「う~ん嫌いになったというか、私の中身も知らずに可愛いって言ってくるのに嫌になっちゃった。でも仲良くしてくれる女の子もいてさ。その子は私の顔なんかどうでも良さそうで、いつもニコニコしててね、気付いたらその子のこと好きになってたの。一緒にいるとドキドキしてた。それから、女の子にそういうドキドキを感じるようになっちゃったの」
”なっちゃった”彼女のこの言葉を聞いて悲しくなってしまった。彼女が好きになったのは男でも女でもなく、優しく接してくれたその子だ。それがたまたま女の子だったから、自分が女の子を好きだと錯覚してしまったのかな?彼女に選択肢なんてなかったんだ。頭で考えて次に声に出す言葉を慎重に考える。慎重に考えているだけで、正解を出せてるかどうかは分からないが。
「茜ちゃんは内面を見て欲しかったってこと?」
「えーどうなんだろう?でも同性に顔の良さなんて求めないでしょ?」
「一緒にいて楽しい奴と一緒にいるだけだもんね。顔なんてどうでもいいかな」
あまり考えずに軽く返答して、ハッとする。クラスにも学校にも、いつも一緒にいるグループはだいたい同じレベルの顔面集団だと。昔からの付き合いならともかく、高校からできる友達はみんな同じようなタイプで同じような顔だ。みんなそうやって無意識に集まる。内面ではなく、外見の似た者同士が。
自分の脳内の声と茜ちゃんの声が同時に聴こえる。
「うん。だよね。だから私は本当の私を見てくれる女の子が好きなのかな?聞いてくれてありがとね」
きっと彼女に優しく接した子も可愛い美人だったんだろうな。可愛いと男子からもてはやされて、それが原因で一部の女子から無視されて、そんな彼女をブサイクが助ける事なんて出来るわけがない。これはブサイクが器量不足だと言っているわけではない。仮にもブサイクが彼女に手を差し伸べようものなら、周囲から投げかけられる言葉を想像することはあまりにも容易かった。そして、性格も顔も良い女の子が助けてくれた。周りは何も言うことは出来ない。特に茜ちゃんを嫌っていた女達は。吐き捨てる言葉は全て嫉妬に変換されるからだ。
一番見た目で判断しているのは茜ちゃんなのかもしれない。彼女は無意識に美人に惹かれていく。自分を救ってくれたのが性格も顔も良い子だったから。前田だって可愛いし性格も良い。でも、それを伝えることは正解なのか考える。そもそも全部、僕の見当違いで意味が分からない指摘になるかもしれない。正しかったとして、それを伝えることが正解なのか。分からないし、そんなことを本人に伝える勇気もないから、僕はこの考えを心に仕舞うことを正解にする。
「いやいや全然、こちらこそ話してくれてありがとう。で、どうするの?茜ちゃんは前田が好きなんでしょ?このまま僕と付き合ってても大丈夫?」
彼女の顔が曇る。
「だって女の子が女の子のこと好きになるなんて、おかしいことだもん。凛ちゃんを困らせたくないし、気持ち悪いとか思われたくないから。ただ、今まで通り仲良くしていられたら...私はそれだけで幸せなの」
「別におかしいことじゃないと思うけどなー茜ちゃんは優しいね。だからモテるんじゃない?みんながみんな顔だけ見てるなんて事はないと思うよ」
「...ありがと...彰人君も優しいよね。でも私モテないよ。彰人君が初めて私に告白してくれた人だよ!」
「え!?ほんと!?」
次に口に出そうとした言葉を飲み込む。”可愛すぎるからみんな緊張して告白できなかっただけだよ”こんなこと言っちゃったら、僕が今までの話何も聞いてなくて理解してないアホになるとこだった。それに実際、茜ちゃんはモテてる。勘違いしてる。告白も初めてされたからドキドキしただけで、これも勘違いだな。人を好きになる時に勘違いしてばかりだな。茜ちゃんは。可愛い。
自分の思考の分の沈黙を破る。
「ね?ハグしない?」
茜ちゃんは耳に入った言葉を理解して顔を赤くした。
「え?ハグ!?」
「誰もいないし、はい。ぎゅー」
戸惑う彼女に有無を言わさず、右手は肩の上から、左手はわきの下に回してハグをする。最初は固まっていた彼女だが、少しすると両腕をわきの下あたりに回しこんで、包み込んでくれた。心臓がドクドク言っている。周りの音は一切聞こえない。しばらくして、回し込んだ腕を離す。顔を真っ赤にする茜ちゃんを、顔に熱を感じる僕が見つめる。
「ドキドキした?」
彼女は赤くなった顔でこくりと頷く。
「僕も。良かった。僕達ちゃんと両想いだね!」
僕は君が大好きです。理由は顔がとっても可愛いから!内側に勝る外側何てないよね。
「帰ろうか」
彼女の手を取り、手を繋いで歩き出す。
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