第10話 ラブラブシチュエーション
ハンカチで手を拭きながら廊下を歩き、教室に戻り席に着く。ちょうど帰りのHRの開始のチャイムがなる。心は踊り、胸は高鳴り、全身の血液が沸騰している。身体がホカホカしている。頭からいろんな感情が訴えかけてきている。僕は放課後に三浦さんに告白するんだ。
掃除が始まる前に三浦さんにHRが終わった後に校舎裏に来てくれとお願いした。そもそも三浦さんとちゃんと会話をしたのは昨日の調理実習が始めてだった。その程度の関係でのお願いにも関わらず、三浦さんは笑顔で快諾してくれた。僕には快諾してくれたように見えた。
でもこんな明らかに告白します!みたいなお願い。そして三浦さんは可愛いから絶対にモテる。慣れたシチュエーションなのだろうか。三浦さんにとってはこのお願いを断るより、告白を断る方が楽なんだろうか。こんな不安になるようなこと考えても仕方ない。前向きに行こう。
「頑張ってね」
横から楽しそうな前田の声が聞こえる。クラスから色とりどりの雑音が聞こえる。色々考えているうちにHRは終わっていた。その一言だけを残して前田は部活に向かった。
そうだ!早く三浦さんに指定した校舎裏に行かないと。こういう告白はお願いした側が先に行って待ってるのが常識ってネットに書いてあったもんな。荷物を急いでまとめて教室を飛び出す。
教室では回が彰人を探している。
「彰人どこ行った?もう帰った?」
諒に聞きに行く回。
「あー何か予定あるって言ってたわー、あと俺も委員会あるから先に帰ってて」
「分かった。今日は退屈だなー」
息を切らすほどダッシュで校舎裏まで来た。
「はぁはぁ疲れたー三浦さんが来るまでにいつも通りの呼吸に戻さないと。ふー」
深呼吸をして心と体を落ち着かせていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえる。音から察するに足取りは軽やか。もしかしてもう三浦さんが来た!?ルンルン気分の三浦さんが!?自分の全てを一瞬でいつも通りに戻す。校舎の角から顔を見せたのは三浦さんだった。
僕に気がつくと足を止める。
「あっ彰人くん!いたいたーお待たせ!」
いつも通りの笑顔で話しかけてくれる三浦さんにホッとする。暗そうな表情をしていなくて良かった。そのことに安堵していたせいか、苗字呼びから名前呼びに変わっていることに気付かなかった。だが、これが正解だっただろう。もし気付いていたら、心が慌てふためいて告白どころじゃなくなっていた気がするからだ。
「それで話って何かな〜?」
三浦さんが僕の顔を覗き込む。表情は先程と変わらない、いつも通りの笑顔。この告白以外有り得ないシチュエーションで、ソワソワもワクワクもドキドキも三浦さんの表情からは感じ取れない。脈なしなのか、慣れなのか、そんな事考えても分からない。僕は告白するのみだ。
僕はお辞儀の姿勢になり右手を差し出す。
「あの三浦さん!大好きです!僕と付き合ってください!初めて見た時から好きでした!」
三浦さんは両手に持っていたスクールバッグを落として、両手で僕の差し出した右手を優しく握ってくれた。いや、握るというよりは添えてくれたと表現するのが正しいくらいにフンワリと、そして一言。
「喜んで!これからよろしくね」
目をパッチリと開けて、口角を上げて、にこやかに笑う三浦さん。僕から見ても他人から見ても間違いなく嬉しそうな顔をしている。それが嬉しかった。僕から告白された三浦さんが嬉しそうにしているのが嬉しい。当然、告白が成功したことも嬉しい。
「こ、こちらこそよろしく!やった!」
三浦さんは地面に転がるバッグを持ち上げる。
「ふふ、ありがと!告白してくれて」
「いやいや、こちらこそ承諾してくれてありがとう!一緒に帰ろ!」
「方向一緒だもんね!手、繋いじゃう?」
バッグを片手に持ち替えて、左手を差し出す三浦さん。動作には一切の恥ずかしさもためらいも感じさせない。
「え、ちょ、ちょっと恥ずかしいなぁ」
「いいじゃんいいじゃん!さっきも繋いだみたいなもんだしさ!ほら」
強引に僕の右手を握り歩き出す三浦さんは僕の彼女だ。足取りが発砲スチロールのように軽く、まるでピアノの鍵盤の上を歩いているかのような心地良い音も聞こえる。これが手つなぎ下校デート!
「三浦さん!今度デートとか行こうね」
「当然!楽しみ!あと名前呼びでいいよ」
少し躊躇ってから小さな声を出す。
「あ、茜さん」
「彰人くん!」
「茜さん!」
「彰人くん!!」
「茜ちゃん!!!」
「彰人くん!」
ただ歩いているだけなのに気分はスキップ。心も景色も弾んでいる。ルンルン茜ちゃんと僕は校門を出て、学校を後にする。
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