第9話 断る奴
調理実習を終えた次の日の昼休み。諒と一緒に昼ご飯を食べる。いつもより静かな気がするのは、回が委員会の仕事で教室にいないからだ。
諒が1口サイズのハンバーグを箸でつまんで僕の口元に近づける。
「はい!彰人あ~ん」
「いいってやめろ。自分で食べれるからさ」
拒否する僕を見ても一向に箸を下ろさない諒。
「あ~ん」
「あーん。うまーやっぱ諒はハンバーグ作りの天才だな。毎日美味い。そして諒もすごいし、こんなに美味いハンバーグもすごい。ハンバーグ嫌いな人間なんていないしな」
「ヴィーガンとか?」
「それは人間じゃねぇじゃん」
仕方なく受け入れハンバーグを味わう。諒はクラスが違う1年の時からお昼の時にわざわざ、僕の好物のハンバーグを作って持ってきてくれた。そして同じクラスになった今でもそれは変わることはない。
諒に食べさせてもらったハンバーグを飲み込む。
「今日の放課後に三浦さんに告白するわ」
弁当を食べていた諒の手と、もごもご動いていた口を止める。一瞬止まっていた口を再び動かし、中身をすぐに飲み込む。
「え、まじぃ?」
「まじぃだよ。早すぎる気がするけどさ、早く三浦さんと楽しい時間を過ごしたいんだよ」
「俺たちとの楽しい時間は減っちゃうの?」
迷子になった幼稚園児のような顔、不安そうな悲しそうな顔だ。久しぶりに見る諒のそんな表情に少し驚く。
「バカか!僕が愛情に囚われて友情をおろそかにするような奴に見えるか!?あと何でOKになる前提のセリフなんだよー?嬉しいけど」
勢いよく諒の肩に手を回して、顔を近づけて明るい口調で話す。諒は変わらず暗い表情を浮かべ、スズメのさえずりにさえかき消されそうな声で言う。
「彰人、お前に告白されて断る奴なんていないよ...」
「またまた~いつにも増して変な冗談を!それはお前だろー?諒の告白こそ断る奴なんていないだろ!?」
街灯に照らされた道路のような表情でボソッとつぶやく。
「...冗談なんかじゃないよ」
謎に気まずい空気になった時、昼休みの終わりを知らせるチャイムがなる。
「やべっ!もう終わりか早いな」
「彰人!あ~ん!」
先ほどまでのテンションが嘘かのように、いつも通りの笑顔と明るいトーンの声に戻った諒が残りのハンバーグを口にぶち込んでくれた。すれすれを通ったハンバーグは僕の唇をケチャップまみれにした。
「んっ!うまっ」
「じゃっ掃除行ってくるー」
諒は弁当箱を持って自分の席に戻り、教室を後にした。僕はケチャップまみれの唇をティッシュで拭き取る。三浦さんの席でお昼を一緒に食べていた前田が掃除に向かい、いなくなったことを確認してから三浦さんの元へ向かう。
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