第8話 唾液交換
メロンパンが焼きあがりオーブンから取り出す。
「胸と器の大きい女です」
そう言いながらメロンパンを両手に取り、悲しいほど十分にスペースの空いた胸に押し当てる前田。それを見てクスリと笑う三浦さん。ツボが浅いのか、いや懐が深いんだな。
「貧乳じゃねえか」
あまり膨らみ切らずに完成したメロンパンはぺったんこだった。両手のメロンパンを机に置いて、前田は怒っているような悲しんでいるような声で言う。
「は?燃やすぞ」
「器も乏しい」
前田は貧乳のメロンパンを一口頬張る。
「味はうまいわ」
「よかったな。見た目より味だもんな!食べ物は」
「彰人!俺の器のデカいメロンパンを食べてくれ!こいつも食べてくれって言ってるんだ!」
横から回がきれいに膨らんだ模範囚みたいなメロンパンを差し出してくる。それを両手で受け取り口に運ぶ。
「うまい!ありがと!でも器がいくら大きいからって人間に食って欲しいと思ってる食べ物はいないと思うぞ」
一口かじったメロンパンを回に返却する。回は僕のかじったところを、大きな一口でかじり一言。
「うまい!!さすがは彰人だ!うま過ぎる...」
「なんで僕に感謝するのかよくわかんないけど、うるせえよ、あときめぇ。あと後半落ち着くなよ。こわい」
自分で作ったメロンパンを一口食べて、よく噛んで飲み込んでからつぶやく。
「何か、回が作ったやつの方が美味しい気がするなぁ」
「俺のメロンパンは愛情を致死量配合してるからな!」
口の中にメロンパンを入れたままの回が叫ぶ。
「愛で殺しに来るのはやめろよ。あと口からメロンパンのかけらまき散らすのやめて。片付けが大変だろ」
うるさい回を横目にメロンパンに二度目の口撃正面に座る前田は薄いメロンパンを下がったテンションで食べている。そんな貧相な物を食べる前田を可哀想に思ったのか三浦さんが声をかける。
「凛ちゃん、私のメロンパンちょっと食べる?」
「え?いいの?」
三浦さんの提案に目と声を輝かせて確認する前田。
「もちろん!」
三浦さんは明るい声で答えてメロンパンを前田に手渡す。
「もらうもらう!いっただっきまーす!!」
前田は笑顔でウキウキでメロンパンを受け取り、大きな一口で噛り付く。三浦さんの食べかけのメロンパン...いつか恋人になれたら間接キスが出来るのか...いやキスできるチャンスもあるはず!!
ニコニコでメロンパンにかじりついて、飲み込んで何か違うという表情の前田。
「何かあんまり甘くないなぁ」
お~い!前田!三浦さんが頑張って作ったメロンパンにイチャモンつけるんじゃなーい!
「え?そっそうかな?」
「うん、私の食べてみる?見た目はこんなだけど味は良い奴だから!」
そんな根は良い奴だからみたいな感じにメロンパンを紹介することあるんだ。三浦さんは太陽のような笑顔で根の良いメロンパンを受け取り口に運ぶ。
「んっ、ホントだ!凛ちゃんのメロンパンの方が美味しい!」
「でしょ!砂糖少な過ぎたんじゃない?茜のメロンパン」
「そーかも、ありがとね凛ちゃん。美味しかった!」
再び自分のメロンパンを食べ始める三浦さん。
「薄い。甘いお菓子食べてから飲む紅茶みたい」
「それは辛いわー」
良いな。2人は仲良しで。僕もあっち側に、三浦さんと仲良くなりたい。でもさっきいい感じだったし友達の上位互換くらいの存在には...
「おっす!彰人ー!俺のメロンパン食べるー?」
大量のメロンパンを抱えた諒が話しかけてくる。
「うわっお前何でそんな作ってるんだよ!?多過ぎだろ?」
「いやー俺の班さ、俺以外全員休みだったから1人で材料4人分使えたんだわー。ラッキーだろ?」
「嫌われてんじゃねぇか諒?」
諒は爽やかな笑顔で返す。
「いやいやいや〜嫌われてんのはメロンパンの方だって!やっぱり味だけじゃなー、見た目も良くないと」
「パンの世界じゃ見た目悪い方なんだ。メロンパンって」
「とにかくあげるよ!メロンパン!はい彰人!」
「1個丸々?」
「たくさんあるからさー」
それから諒は僕のグループみんなにいるか?いらないから確認してメロンパンを配っていた。回と三浦さんにはいらない断られていたけど。随分と2人ともテンションが低く見えた。まあ諒のメロンパンもらえてテンション上がりまくった前田の近くにいたらそう見えてもおかしくないか!
今日は三浦さんと確実に仲良くなれた気がするし、美味いメロンパンも食べれたし良かった良かった。
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