第7話 発酵
「三浦さん今日の国語のテスト出来た?」
「うん!出来たよ。バッチリ!」
「そ、そっか。僕も出来たよ」
何やってんだよ僕!「そっか」じゃねぇ!三浦さんが爆ぜるような笑顔で答えてくれたんだぞ!?小論文レベルの返事をするべきだった。
やばい!三浦さん作業に戻っちゃったよ。てか調理実習中に仲良くなるって無理だよ。だって黙々と可愛い真剣な表情の、三浦さんの作業を中断させることなんて出来ない。見ただけで一瞬にして顔が真っ赤になりそうなくらい可愛い。こんなんじゃ横を向く事すら出来ない。
いや、そもそも振り向くことなんてない。ただ正面を見て黙々と淡々と作業を進めるだけで良いんだ。必死に説明する回と、全然理解出来ずにクエスチョンマークを撒き散らす前田を見てれば良いんだ。
「ねぇねぇ和田君って凛ちゃんと仲良いの?」
思いがけない質問に思考を吹き飛ばされながらも答える。
「えー仲良いと言うか、何というか、1年の時に同じクラスで何か知らん間に軽く話せるようになってたから、まあ仲良いってことなのかな?」
「へぇ〜そうなんだ!羨ましいなぁ」
羨ましいという三浦さんの発言が耳に入り動揺する。羨ましいって何がだ?僕と仲良い前田が羨ましいってこと?つまり僕と仲良くなりたいってこと?僕と仲良くなりたいってこと!?
ボールを受け取ったまま投げ返さない僕に三浦さんが2つ目のボールを取り出し優しく投げかけてくる。
「私さ、軽口叩き合える異性の友達とかいないから、ちょっと凛ちゃんが羨ましいなぁ」
2つ目のボールを受け取り考える。どんな返球をすれば良いのかと。理想は「僕がなってあげようか?」かな?いや、上から目線過ぎる。サヨナラされる可能性がある。そんなことを考えていると豪速球が耳に飛び込んでくる。
「私も和田君とそんな関係になりたいな~、なんて。えへへ、ダメかな?」
「え、それはもちろん...っこ、こちらこそ。なりたい、ないたいです」
頭が整理できずにろくな返答が出来ない。変に高くなった声で答える。
「やった!ありがと!これからよろしくね」
そんなぎこちない返事にも優しく嬉しそうな笑顔で喜んでくれる三浦さんは女神だ。というか僕のこと好きなんじゃないの?少なくとも嫌いではないはず!だって嫌いな男とこんなに話してくれるわけない!
僕は喜びながら調理実習を再開した。嬉しすぎて周りが見えず、それから会話を膨らませることは出来なかった。それでも、完成させるのが遅すぎて、発酵させる時間が足りなくて、あまり膨らませることが出来なった前田の生地よりは膨らんだ会話は出来ていたはず。
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