第5話 メロンパン

 昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。今日の5限と6限は家庭科の調理実習だ。教室のみんながエプロンなど必要な物を手に持ち移動する。待ちに待った調理実習の時間だ。その理由は1つ!三浦さんと同じ班だからだ。これから始まるのは夢のような時間だ。ただ1つ不満がある。


 「おい回。何でエプロン真っピンクなんだよ。ふざけんな。いや、感謝してるよ。貸してくれたことに関してはな。でも何で真っピンクなんだよ。食欲失せるだろ」


 回は至って真剣に真顔で答える。


 「え?可愛いじゃん。それに似合ってる!めっちゃな!」


 回があまりにも真っ直ぐな目と声で可愛いと言ってくるから、少し照れてしまい視線を逸らす。それを見た回が満足そうな表情を浮かべる。


 「和田!そのエプロン案外似合ってるよ。ねえ茜!」


 調理台を挟んで正面にいる前田が悪意のない純粋な笑顔で笑う。前田にそう聞かれた三浦さんは少し控えめに、申し訳なさそうに笑いながら頷く。エプロン姿の三浦さんを見るのは初めてではないが、何度見ても可愛い。


 せっかくならカッコいい男らしさをアピールしたいのに、可愛いピンクのエプロンが似合うところなんて誰の記憶にも残る必要はない。でも三浦さんが笑ってくれているのは非常に嬉しい。好きな人が笑っていて、不快な感情を抱く人間はこの世に存在しないのだから。


 「彰人〜こっちのも絶対似合うから着てくれよ」


 隣にいる回がエプロンの入った袋を持ちながら話しかけてくる。


 「そんなもん着れる訳ないだろ!メイドエプロンだったじゃねぇか!メイドがそんなに見たいならメイド喫茶行ってきてくれ」


 「彰人!お前の!お前が着たメイドエプロンを見たいんだ」


 「キモいからもう喋んな」


 回は昔から訳の分からない場面でワガママを発動する。でも、もう慣れた。軽く無視してあしらう技術は完璧に身に付いた。あと声でけぇ。メイドエプロン着てもらいたいなら、自分もそれ着てから交渉して来い。何でお前はそんなサッパリしたエプロン着てんだよ。おかしいだろ?もー前田と三浦さん若干引いてるじゃんか。こういう状況で1番辛いのは催促されてる僕の立場だからな!?


 そうこうしているうちに6限の開始のチャイムがなる。先生が今日の調理実習の内容を説明する。作るのはメロンパンらしい。各班準備された材料を取りに行く。僕の班員は回と前田と三浦さんの4人だ。三浦さんと同じ班になれたのは前田のおかげだ。ありがとう。メロンパン作りが開始。

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