第3話 忘れ物

 「えーやっちゃったなー!彰人!どうすんだよ?」


 妙にニヤついて僕を茶化す諒。


 「人の不幸でそんなにテンション上げんな。あーでもヤベェな。家庭科のエプロン忘れるなんて。これと比べたら体操服忘れるのなんて可愛いもんだ。終わった。まさか見学?」


 「大丈夫だ!安心しろ!俺が3着持ってきた!」


 「あっ!めぐ!おはよ!」


 教室の後ろから静かに入ってきて、でかい声で話しかけて来たのは杉浦回すぎうらめぐる


 「おはよう諒!そして彰人!おはよう!」


 椅子に座っている僕の肩に思い切り手を乗せてくる回。何かいいことでもあったかのようなテンションだが、いつもこんなんだ。


 「おはよ回。エプロン3着あるってマジ?」


 「マジ!マジ!マジ!!」


 「何でそんな持って来てんの?」


 「いやー!彰人に来てほしいエプロンがあってさ!持って来ちゃったわ!」


 「来てほしいエプロン?若干理由が怖くて気になるけど助かった!貸してくれ!」


 「当然!むしろ着てくれ!絶対似合うから!」


 異様な雰囲気を漂わせながら屈託のない笑顔を見せる回。爽やかに笑う諒。問題が解決したことで笑いたいが、どんなエプロンか全く分からなくて不安になる。


 「もうすぐホームルームか!トイレ行ってくるわ〜」


 「俺も行く!」


 諒が立ち上がり、それに回もついて行く。


 「彰人はー?行く?」


 「んー僕はいいや。いってらっしゃい」


 「行ってきます!」


 「声でけーよー、めぐー」


 教室を出て行く2人を見送った後に、視線を三浦さんに向ける。三浦さんは本を読んでいた。ここからじゃ表情も何の本を読んでいるのかも分からないが、さぞかし知的な表情で知的な内容の本を読んでいるに違いない。はぁ〜読書に勤しむ三浦さんも可愛い。


 「はぁ〜読書に勤しむ三浦さんも可愛い。だよね〜茜はね何をしてても可愛いよ。人を殺して返り血だらけの表情で好きって、言ってきても心が揺らいじゃうくらいね」


 そう言って隣の席に座ったのはクラスメイトの前田。1年生の時もクラスが同じで気づいたら軽口を叩ける仲になっていた。


 「それやめろって言ってるだろ前田!あとその状況は普通に心ぐらつくだろ」


 前田はカバンの中の教科書を引き出しにしまいながら、こちらを視線を寄越さずに話す。

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