第2話 女神と凡人
学校へ向かう道の途中後ろから、自分の名前を呼ぶ声がだんだん近づいてくる。
「彰人!おっはよう〜!!」
後ろから僕の両肩に、思い切り飛びついてきたのは月岡諒。幼馴染でクラスメイトだ。
「おい!諒!寝起きの体に飛びついてくんじゃねぇーよ!倒れちゃうだろうが!」
「ごめんごめん!でもさ〜前を歩く彰人を見つけて飛びつかない訳にはいかないだろー?」
諒は謝りつつも全く反省などしていない表情をしている。そんな諒の顔を見て夢の事を思い出す。
「そーえば、今日お前に思いっきり首を締められる夢見たんだけど、今度から肩に飛びついてくる代わりに首絞めてきたりしないよな?」
話を聞いて涼がにやけながら話す。
「その夢の俺服着てた?」
「当たり前だろ!何で俺が全裸のお前に首絞められなきゃいけないんだよ!?めっちゃくちゃ最悪じゃねぇかよ!?」
「えーそっか残念」
本当に残念そうにする諒に少し引く。
「セリフと表情一致させんな。気持ち悪い。他にも何かすげぇ大事な夢見た気がしてたんだけどなー、お前がさっき飛びついてきたからその衝撃で忘れちゃったわ」
「俺が彰人の記憶に影響を与えたってこと?それは嬉しいな!」
「どんな感想だよ。こえーな」
ホームルームが始まる30分前に、学校に到着してリュックを机に置いて椅子に座る。僕に引き寄せられるようにフラフラと諒が向かってくる。
「今日の国語の小テストの勉強してきたか?」
「あっ!忘れてた!範囲どこだっけ?」
僕が尋ねると、諒は自信満々にテキストを出して、机の上に置いてページをめくり始める。
「ここのページ!俺的にはここと、ここが怪しいと踏んでる!参考にしていいぜ!」
普段からおちゃらけているが、諒は勉強が出来る。学年順位もいつも1桁台だし、授業の後に僕が分からなかった部分も分かりやすく説明してくれる。おかげで僕もテストでは結構いい点数を取れている。
「サンキュー!マーカーの印ばっかり!勉強は真面目なんだなお前。いつも助かるよ」
少し不服そうな顔を見せて諒は言う。
「えー俺は全部真面目だぜ?勉強は〜なんて言うなよ!このこの〜」
手に持つシャーペンで僕の手の甲を突いてくる諒。やめろよと口に出そうとした時に教室の前方のドアが開く。そこから女神が教室に入ってくる。教室の空気が全て綿あめのように甘くなり、手の甲に感じる小賢しい痛みが徐々に消えていく。あまりにガン見していた為、女神がこちらを向いてくる。引かれるかも!?と思った瞬間、そんな野暮な思考すら楽勝で吹き飛ばす、天使の微笑みハリケーンが僕の全身に直撃する。
「女神のそよ風…」
「三浦か〜、彰人いっつも三浦ばっかり見てるもんな?大好きだね」
「いや好きなんてもんじゃない。僕なんかが好きになったって誰かに伝えていいレベルじゃない。僕は彼女を崇拝しているんだ。まさしく女神!天使!神の最高傑作だよ。あー可愛い。好きだわ〜ラブだわ」
退屈そうな顔をした諒がひと言。
「女神なのに神の最高傑作なのかよ?」
「ん?あー彼女の前には矛盾なんてもんは通用しないよ。しかし、相変わらずお前は興味ないことには棒だよな。三浦さん見て何も感じないのか?可愛いだろ?にやけちゃうだろ?」
「彰人の方が可愛いじゃん」
「いや、そんなセリフが欲しくて可愛いって言った訳じゃないんだけども。それは自分の好きな女子か、自分のことを好きそうな女子にかけてやるんだな」
真剣そうな表情にも、興味のないような表情にも見える顔で諒が問いかけてくる。
「彰人はさ、三浦と付き合いたいの?」
「えっ!?えっそれはーそうだな付き合いたいけど女神と人間じゃな〜三浦さんに堕天させる訳にもいかないし僕が神になるくらいしか手段はないかな」
「彰人はもう十分神だよ。そうだ。今日家庭科の調理実習あるからそこでいいとか見せればいいじゃん?」
「それはどっちかと言ったら女子からの男子への見せ場だろ〜?あっ、もしかして今の問題発言?」
「エプロンちゃんと持って来たか〜?忘れたら三浦に失望されちゃうぞ〜」
諒が思い切りアクセルを踏んで問いかける。その言葉が僕を青ざめさせる。今にも滲み出しそうな汗。
「エプロン忘れちゃった」
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