第3話 居場所
大学の最寄り駅に着き、傘をさして歩く。どうやらウサぴょんの声は周りには聞こえないらしく、触る事さえ出来ないらしい。肩に座るウサぴょんと、スマホに入力した文字で会話をしながら大学まで向かう。
「奏多君!帰らないの?」
本日の最後の講義が終わり、ウサぴょんが話しかけてくる。僕はスマホに文字を打ち込んで事情を説明した。
「許せない!そいつら懲らしめてあげようか!?」
自分の事のように怒ってくれているのが嬉しかった。でもウサぴょんに頼りたくはない。紗奈が帰って来た時に誇れるように、一緒に居ても恥ずかしくないくらい強くなっていたいからだ。
人が減ってから立ち上がり、カードを通しに行く。四枚全てを通してから、帰ろうとドアノブに手をかけると声が聞こえて体をビクッさせる。
「おーい!そこの青い服来た子!そう君!ちょっとこっち来なさい」
教授の声だ。教卓に座っている教授は僕に向けて手招きする。
太陽がまだ起きている時間。駅までの道でウサぴょんが言う。
「奏多君よかったね!これでアイツら終わりだよ!」
背中のリュックから声がする。昨日は嫌がっていたのに今じゃ、リュックの中の狭さがお気に入りらしい。授業中もずっと中で寝ていた。
「うん。まあ、そうだね」
道に人がいないので声を出してウサぴょんに返事をする。教授の善意で僕だけは見逃してもらえた。
やり取りの中で教授に言われた言葉が頭から離れない。
『利用されるなよ』
大学からどんどん離れても、頭の中にへばり付いている。僕は自分の弱さを優しさだと思い込もうとしているだけの惨めな人間だ。強さを持つ優しさに憧れて目指していた。でも、今日やっと分かった。性格は変えられない。生まれ持った性格を自分と他人にどう見せるか。それだけだ。
家に着く頃には日が暮れていた。話しかけても返事のないリュックを部屋にそっと置く。時刻は六時三十分。この家庭での夜ご飯の時間だ。今日は鍋だ。寒い時期に食べる鍋は当然美味しい。
「椎茸何個食えるの?三個くらい食える?」
父が箸を止めて声を出す。
「俺の方が体がでかい!って言わんのやね。アンタ昔そんなことばっかり言ってたじゃん。ジャイアンか!ジャイアン!」
いかにも嫌味ったらしく話す母に無言になる父。母はよっぽど父を恨んでいるのか、かなりの頻度で嫌味な事を言って場を凍らせる。何かある度に、父の昔の失態や不満をぶち込んでくる。
「ジャイアンは実際に百八十五センチくらいあるから」
僕の発言を聞いて呑気に笑う二人。母は僕が幼い頃に、育児に積極的に参加しなかった父に不満を抱いている。今までの母の言葉を聞く限り悪いのは確実に父だ。過去の文句を持ち出すのは自由だが、せめて場所は選んで欲しい。逃げる事が出来ない食事中に僕まで巻き込まないで欲しい。見るのが辛いんだ。許して。
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