第2話 てんやわんやの三重弁

オープンした和食店で働きだした私を一番てんやわんやさせたのは、その三重弁の数々だ。


「ご飯をようけよそって」

ようけってどの位⁉

「それほっといてくれる」

そのままにして置いておくと「ゴミ箱へ~」

捨てるってこと⁉

「ささっての予約をお願い」

「はい、あさってですね」

「いや、」何日後⁉


 学生の頃に某夢と魔法の王国(東京ではなく千葉にある)でアルバイトしていたのと、社会人になってからも受付業務などをしていたから接客には少し自信があったのだが、言葉の細かいニュアンスが全然伝わらない。

ちなみに私の言葉は祖父母から受け継いだ千葉なまりだ(千葉弁も色々ある)。


三重弁を覚えようと練習していると、彼から「エセ関西弁みたいだ」と笑われた。

彼を横目でにらみつけながら、もはやどこの言葉だかよくわからないイントネーションで会話しながら店に立つ日々が続いた。


 自信を無くしかけた頃、店の従業員で年配者のタエさんが、近所の寺で行われる節分の豆まき行事に誘ってくれた。

寺の境内には人があふれていて、四日市市長が登場し挨拶、盛り上がる中、豆まきが始まった。

お菓子の入った小袋を皆が手を上げて掴みに行く。

気づくと私も必死にジャンプして小袋を手に掴んでいた。


「あんたも来とったん~」

常連のお客さんが声をかけてくれた。店の外でお客さんと話すのは初めてだった。

楽しい。閉じかけた心の扉を開いてくれたのはタエさんとお客さんだった。

店のお手伝いさん達や彼の友達も温かく接してくれた。


豆まきの日を境に、休日は三重県内のあちこちへ探索に行く日々が始まった。

地域の街づくりボランティアに参加して、富田から東海道へ。

大四日市祭りの大入道に驚き、水沢のかぶせ茶畑に感動し、菰野町の湯の山へ。

伊勢志摩の先へ足を伸ばし、店で扱う魚の仕入れでお世話になっている紀伊長島の漁師さんへ挨拶に行った。

そこで知った驚きの事実……!

3話に続く...


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