第26話 新入生合同合宿(3)
城の周囲を囲む
そしてスキル<攻略データベース>の挙げた俺を殺す
確か四十パーセントは有ったよな?
その他候補にジャックランタンやオーガーの名前もあったが、この状況ではワーウルフで確定と見て良いだろう。
つまり、この一連の騒動は新入生合同合宿に参加したクラスメイトの凄惨な死を目撃した事による主人公達の覚醒を促すと言う、制作陣の
さて、こんな状況で俺が先ずやる事はと言うと、
「
クラスの中心人物とのお話しだ。
「どうしたの、一番君」
と熊埜御堂が問うた。
「ここに中級傷薬と魔力回復薬が二十本ずつある。これをEとF組の各班にそれぞれ一本ずつ配って欲しい」
俺は<アイテムボックス>から四十本のポーションを取り出して並べる。
「えっ!? 流石に受け取れないわよ!」
「何故だ?」
「だってこれ、一本十万DPもする物でしょう?」
確かそれぐらいしたな。
「誰にも死んで欲しくないんだ」
と俺は答えた。
しかも、ある意味俺の所為だし。
今度はお疲れ君が口を開いた。
「狼の魔物が幾ら城を取り囲もうとも、問題ないだろ? それに学校からもポーションの配布はあった。あれはまだ残っている筈だ」
「春夏冬先生はワーウルフが率いていると言っていた。念には念を入れてだよ」
ワーウルフと聞き、二人は顔を青くする。
危険性を理解しているらしい。
優秀だな。
「使った分は返せないぞ?」
乙彼は直ぐに考えを改めたらしい。
ますます優秀だな。
「余った分も返さなくていい。記念に貰ってくれ」
俺が死ぬか、はたまた生き残った記念にな。
「この様な状況で押し問答しても致し方ないですね。有り難く頂いておきます」
と熊埜御堂が話を纏めた。
そこに、
「貴方達、こんな所で何をしているのですか?」
春夏冬先生が現れた。
刹那、彼女はポーションに気付く。
「これは?」
「一番君が提供してくれたポーションです」
と熊埜御堂が答えた。
すると春夏冬先生は俺の肩に手を置き、
「良い準備と心掛けですね」
微笑みながら褒められた。
「ありがとうございます」素直に礼を述べる、そのついでに俺は問う。「春夏冬先生、三年生はいつ到着しますか?」
「遅くとも一時間以内には」
「ワーウルフがワーグを指揮していると聞きました。大丈夫でしょうか?」
「指揮するワーウルフを早めに倒せば問題ないでしょう」
ふむ、ワーウルフを如何に早く倒せるかが、生徒側の被害を減らすポイントと見た。
そんなイベント、良くあると思います。
一応確認してみるか。
「仮にワーウルフが
「三十分が良い所でしょう」
「意外と短いですね」
「ワーウルフが従えた魔狼はゴブリン並みの知能を持ちますから。石垣塀と鉄門だけではそれ以上は厳しいでしょう」
マジかよ・・・
ゴブリンとは武具を作り、扱う亜人系の魔物だ。
奴らは群れ、罠を張り、安全マージンを確保した上で狩りをする。
それ並の知能って、つまりほぼ人並の知能を有する魔狼か。
そりゃキツイわ。
石垣塀を乗り越える為に組体操のピラミッドを組む様な狼が相手になるんだから。
「生徒を怖がらせない為にも誤魔化すべきでは?」
「ダンジョンダイバーを志す者には不要な気遣いです」
さいですか。
「ちなみに、レベル八以上の生徒は何人いますか?」
春夏冬先生が一瞬躊躇するも、
「一人だけです」
俺の目を覗き込むように答えた。
そうか、俺だけなのか。
主人公とメインヒロインぐらいは至ってると思ったんだけどな。
「ワーウルフとワーグのレベルは幾つですか?」
「ワーウルフがレベル十五、魔狼はレベル五となります」
うん、レベル七じゃワーウルフ相手は先ず無理だな。
勿論レベル八でもだけど。
つまり、どんなに主人公がレベルを上げていたしても、とてもじゃないがレベル十五のワーウルフを倒せるまでには至らない筈だ。
ってことはゲームシナリオ的には籠城戦からの、ワーウルフと魔狼の城内突入および乱戦からの、俺の凄惨な死だったと思われる。
きっと、多くの生徒が重傷を負うだろう。
下手したら再起不能レベルのな。
剛田はそんな一人だったのだ、きっと。
いつの間にか学校から消えてる予定らしいし。
ま、そんな事はどうでも良くて、勝ち筋と言うか、余計な不幸を防ぐにはシナリオを崩すしかないと思われる。
「春夏冬先生、提案があります」
「聞きましょう」
「ジョブチェンジ出来る生徒にはマジシャンに転職、魔法攻撃による遠隔攻撃をド派手に行って貰います。ワーウルフの注意は当然そちらに向くはずです。その隙を突く形で俺と竹刀先生が城を抜け出して潜伏。隙を見せたワーウルフ狩る、なんてのは如何でしょうか? 尚、俺は
加えて耳も良い方だがそのアピールは不要だろう。
魔纏と聞いて首を傾げる熊埜御堂と乙彼。
一方の春夏冬先生は目を細めた。
「魔纏を、ですか?」
と春夏冬先生は俺に問うた。
「はい、魔纏、です」
「魔装には至ってますか?」
「魔装? いえ、それは初耳です」
魔纏の上位バージョンっぽいな。
「そですか・・・失礼、魔纏でも十分と考えます。いいでしょう、竹刀先生と話を詰めてきますが、行う方向で進めますので準備願います」
石垣塀の上から地面を見下ろす。
無数の魔狼がこちらを見上げていた。
そんな俺の隣には上下ジャージ姿の竹刀先生。
二刀流なのか、長短二本の刀を手にしている。
腰には更に二本の刀がぶら下がっていた。
俺は棍棒一本のみである。
三年生の援軍が来る迄あと五十分以上残っていた。
「最終確認だ。カウントダウンがゼロを刻んだ直後、春夏冬先生らによる魔法の一斉攻撃が始まる。その混乱に乗じて、俺達はワーウルフが居ると思われるあの林を目指す」
竹刀先生はそう言って近くの林を指した。
「了解です。ただ、本当にあの林にいますかね?」
「信じろ。俺の直感と危険察知が反応している」
なるほど、竹刀先生はスカウト系なのか。
だから分かるのだな。
そこに、春夏冬先生登場。
「ではこれより
各種ステータス上昇に気配隠蔽を施して貰う。
それにしても眩いばかりの光だな。
光の強弱にって効果の良し悪しが決まるらしいから、春夏冬先生のバフはさぞかし強力なのだろう。
バフを掛け終わると、
「カウントダウン開始します。五、四・・・」
秒読み開始。
「一」
俺と竹刀先生が石垣塀の上に立つと同時に、
「<挑発>!」
竹刀先生がスキルを使用した。
すると、魔狼の視線が一気に集まった。
刹那、
「零!」
俺と竹刀先生の頭上でデバフの一種である<フラッシュ>が炸裂した。
要するに閃光による目潰しだ。
その直後、
「第一陣放て!」
ジョブ『
前足で目を抑える魔狼に、雨あられの如く降り注ぐ魔弾。
その隙に俺と竹刀先生は石垣塀の上から飛び降り、まっしぐらに最寄りの森へと走った。
「待ってろよ、ワーウルフ。そして俺が皆をこの命に代えても・・・あれ?」
何かおかしい。
具体的には自己犠牲が過ぎた考えしているぞ、この俺が。
そもそも籠城したとしても三十分耐えれば援軍が来るのが分っているのだから、通路をバリケードで塞ぐなりしていれば何とかなった気もする。
それなのに、
ワーウルフぐらい先生一人でも倒せるだろ。
・・・倒せるよな?
援軍に来る三年生が倒せるのだから。
つまり・・・・・・「何か」どころじゃない、絶対におかしい。
何故こんな事に?
さっぱり分からん。
こんな事になって誰が得する?
俺じゃないのは確か。
最大の被害者になる予定だしな。
・・・・・・強いて挙げるなら主人公とメインヒロイン達を覚醒したがってる、覚醒しないとシナリオが破綻すると危惧しているであろうゲーム制作陣だ。
何故?
シナリオ通りに進める為だ。
って事はこの先に待ち受けているのは・・・竹刀先生が文字通り太刀打ちできない程とんでもなく強いワーウルフ?
もう訳わかんね。
「いたぞ! 彼奴だ!」
竹刀先生が叫ぶ。
視線の先には見るからにオオカミ男。
それが、
――ウォオオオオオオオオオオオン!!!
こちらに向かって一気に駆け出した。
直後、竹刀先生とワーウルフが激突した。
と思ったら何かが宙に飛んだ。
慣性の法則に従って俺の方に向かって来たそれは、
「首!?」
毛むくじゃらで大きな犬歯を有するワーウルフのである。
「またつまらぬものを切ってしまった、何てな」
と歯を見せて笑う竹刀先生。
まだ敵地のど真ん中だと言うのに凄い余裕だな、と俺は感心をした。
敵地?
そう言えば、率いてたと思われるワーウルフを倒したのに周辺の魔狼はまだ散らないな。
俺の勝手なイメージだと、ワーウルフを倒した瞬間に散り散りとなって逃げだすのかと。
ちなみに、ソースは俺の耳と魔力操作による魔力感知である。
「竹刀先生、魔狼がいなくなるまでもう少し時間が掛かりますか?」
と俺が問うた。
すると竹刀先生は、
「そうだな――」
と言葉を途中で切り、俺に向かって瞬間移動の如く迫り来る。
何で?
刹那、
――!?
俺は口に出来ない予感を感じた。
続いて至近距離で発生した音をはっきり捉えた。
それは俺の死を示していた。
――魔纏!
直感に従い俺は魔力を身に纏った。
間髪を容れずに両脇腹に衝撃を感じた。
と同時に首に熱い息が吹きかけられ――
「させるかよ!!」
竹刀先生の突きが俺の首に赤い線を生み出しながら通り過ぎた。
――キャイン!?
犬の様な悲鳴を上げた後、倒れた何か。
振り返ると先のよりも明らかに大きなワーウルフだった。
「な、なんで・・・」
寸前まで物音一つしなかったのに。
「リポップか? それにしちゃ、妙だな」
成る程、リポップか。
俺の至近距離でワーウルフが湧いたのか。
ってそんなの有り――!?
まただ!
俺の死角である頭上にワーウルフが出現し、そのまま襲い掛かって来た。
俺はそれを辛うじて躱し、
「死ね!」
竹刀先生が短刀で首を刈り取った。
凄いな。
普通、短刀で生き物の首なんて斬り落とせないだろうに。
これが教師を任されるほどのダンジョンダイバーが実力か。
「おい、一番」
竹刀先生が真剣な顔で俺を見る。
「な、なんでしょう?」
「ここじゃ分が悪い。一旦退くぞ!」
「はい!」
薄暗い森の中で至近距離リポップするワーウルフと言う脅威に、俺達は撤退を余儀なくされた。
そしてそれは最悪な事実を示していた。
「つまり、ワーウルフが率いてた訳じゃないのかよ・・・」
俺は吐き捨てる様に言った。
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