第四章
第24話 新入生合同合宿(1)
四月十五日月曜日。
このゲーム世界に転生してから九日目の朝だ。
この日、俺は主人公達の覚醒を促す為の生贄となる。
凄惨な死を迎える、そういう設定なのだ。
もしこの世界に神がいるなら、俺の転生に関わった神がいるなら、何故最序盤に死ぬようなモブキャラに転生させたのか、膝を突き合わせて問い詰めたい。
その運命から逃れる為、抗う為、俺は現世の自分からでは考えられない努力をした。
まるで甲子園に出場する高校球児の如く朝昼晩と練習、もとい、スライムを狩り続けた。
寝る時間を削り、魔力操作を鍛錬した。
ステータスが上がるイベントが有ると知って行ってみればピックアップトラックにはねられもしたし、有効なスキルが得られると知りダンジョン内をマラソンしたらスライムの津波に襲われもした。
やれる事はやったと思う。
ダンジョン学園内ダンジョンの二階層?
そんな物は無かったのだよ。
と言うか、ゲームの設定上、俺が死なないと二階層には行けない仕様だったのだろう。
現に、剛田が行こうとして他クラスに止められ、更には学校命令として禁止されたのだから。
それでも無理矢理行こうとしても、階段を下りられなくなっていたと言うのだから徹底しているよな。
何が何でもF組(にいる俺と主人公達)をレベルアップさせない意図を感じる。
そうじゃないと、主人公達に挫折を感じさせーの、これまで以上の努力に励み―の、からのレベルアップしーの、と言う一連の主人公とそのお仲間にありがちな覚醒ストーリーが描けないだろうし。
ま、もうそんな事はどうでも良いのだ。
文明世界の
俺は、俺が今日を生き延びる事だけを考える。
好いてくれた女を悲しませるなんて、男のやる事じゃないからな。
――ピピッ、ピピッ、ピピッ・・・
スマホのアラームが鳴った。
見てみると、
「新入生合同合宿集合時間の一時間前、か・・・」
何て
さて、そろそろ行くか。
おっと、そう言えばアレも持って行っておくか。
未だに何か不明だが、運河と一緒にLV10のブルーミディアムスライムを討伐した際に出た飲み
お守り代りとばかりに学ランの内ポケットに入れ、俺は改めて身だしなみを整えてから登校した。
遥か彼方まで澄み渡る青空の下、俺達は校庭に佇んでいた。
「ではこれより新入生合同合宿を始めます! E組は一号バス、F組は二号バスに席順で前から乗車なさい!」
名実ともに遂に始まった。
新入生合同合宿が。
俺にとっては死出の旅。
逃れる術は無かった。
逃れようと退学した場合、市街地に災害級の魔物が現れて俺を殺すと聞かされてはな。
俺の為に無辜の民が死ぬなんて、今も考えただけで吐き気がする。
「一番君、大丈夫? 随分と顔色悪いけど・・・」
隣の席の運河が心配そうに俺の顔色を窺った。
「あー、平気平気。バスが動く前って時々こんな感じになるんだ」
「なら良いけど・・・」
午前八時半、バスに乗った俺達は新入生合同合宿を行う千葉県袖ケ浦市へと向かった。
そこに今回の趣旨に沿った無階層草原型ダンジョンが有るとの事。
無階層草原型ダンジョンとはただひたすら草原が広がってるダンジョンのことを指す。
ダンジョン学園のダンジョンの様に階層はなく、ランクの低い魔物しか出ない浅域、その逆であるランクの高い魔物しか出ない深域(森林地帯)に線引きされているのみ。
尚、学校のイベントで使うから管理ダンジョンかと思いきや、非管理ダンジョンらしい。
つまり、ダンジョンボスは健在であり、ダンジョンでの死
凄惨な死を迎える俺としては否が応でも緊張が増す。
「一番君、どうかした?」
と心配そうな顔を向けて来たのは意外にも
「非管理ダンジョンだと聞いてちょっとな」
すると反対側から、
「草原地帯の主な
と運河が話に加わった。
「でも、森林地帯の奥にはゴブリンなどの人型も出ると聞いたわ」
「99.9パーセントの確率で草原地帯には現れないそうです」
「99.9パーセント?」
と俺が問うた。
それ、何て日本の刑事事件有罪確率?
「あっ、僕それ知ってるよ! これから新入生合同合宿で使うダンジョンの売り文句だよね?」
ここで主人公である
「99.9パーセントが?」
「そそ。99.9パーセント晴れて、99.9パーセント安全に戦えて、99.9パーセント生還出来る、首都圏最大のリゾートダンジョン『兎の園』。近くの非ダンジョン系の中学、高等学校にも社会見学の一環としてよく使われているらしいね。それだけ安全って事だとおもうけど」
「名称がアレよね」
と言った小鳥遊に、俺は「確かに変な名だな」と応じた。
しかし、そんな所が俺の墓場に?
きっと、今日は俺達以外の客も多く来ているのだろう?
ゲーム制作陣の悪意を感じざるを得ない。
「それよりも聞きましたか?」
と言ったのは運河だった。
「何を?」
と小鳥遊が応じた。
「本当はバス三台で連なって行く予定でしたが、一台遅れて来る事になったそうです」
「へぇ~、何があったんだろ?」
と言った八月一日が首を傾げた。
「何でも、私達を引率する三年生が大幅に変更になったとか」
「引率の三年生が?」
と俺が言った。
すると、前の座席越しに顔が一つ振り返った。
「その話、私も耳にしたわー」
八方だ。
彼女はそのまま続けて、
「三年のトップ・オブ・トップの鶴の一声で入れ替えが起きたそうよー」
と言った。
三年のトップ・オブ・トップ!
「おい、ハジメ。その顔、何か知ってんのか?」
剛田よ、その決め付けは良くないぞ。
正解だけどな。
俺はその問いに、
「何かが起きそう。俺に分かるのはそれだけだ」
決め顔で言ってみた。
「そんなこたぁ、三年のトップが動き出した事から皆薄々感じ取ってるんだよなぁ。はぁ、ハジメに訊いて損したわ」
お前、俺のお陰で今がある事覚えてる?
本当ならもっと敬っても良いんだよ?
そんな会話をだらだらと続けながらバスに揺られて二時間あまり。
漸くついたダンジョン『兎の園』はと言うと、
「バリ曇ってんじゃんかよ!」
と剛田が大声で吠える程の、
「99.9パーセント晴れのダンジョンがどん曇り、か」
空模様。
「うわぁ・・・」
「
「紅、それは私の台詞」
皆一様に不安を感じていた。
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