第23話 最高な最後の晩餐

氏 名:一番 一いちばん はじめ

種 族:人族

レベル:8

職 業:ノービス9

体 力: 44/344

魔 力: 22/312

強靭性: 39

耐久性: 43

敏捷性: 41

巧緻性: 39

知 性: 39

精神性: 39

経験値:304

討伐数:219

称 号:スライムシリアルキラー

DDR:  D

スキル:攻略データベース、自然治癒LV6 


 スライムシリアルキラーとは何ぞや?

 分からないことは<攻略データベース>さんに御尋ねよ。


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スライムシリアルキラー

 スライムを経験値が得られない状態で嬉々としてスライムを大量殺戮した者に贈られる称号。 

 効果:スライムを攻撃すると必ずクリティカル&ノックバック発生。スライムから常時憎悪を向けられる。

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 これ新入生合同合宿に有効か?

 だって、ワーウルフかオーガーだぞ?

 なんかすげー騙された気分。


 それにしても、今気付いたが体力と魔力の値、結構減ってるな。

 魔纏まてんしてたからブルースライムからのダメージは無かったが、体力の消耗が激しかった。

 終わった直後は息苦しかったしな。

 腕と足なんか、パンパンだった。

 それが今や全然平気。

 <自然治癒LV6>の効果だろうか?

 普通に凄いぜ。


 さて、腹も減ったし、もう切り上げるか。

 いや、後六匹で討伐数が二百二十五、ノービスのジョブレベルが十になるな。

 だったら、やるしかないでしょ!

 何と言っても、習得するスキルはあの<アイテムボックス>だからな。


 その後、俺は<アイテムボックス>を習得するまで、ブルースライム狩りを続けた。




 四月十四日日曜日。

 転生八日目だ。

 寮の外に出ると空気が澄んでいるのが分かる。

 東から日が昇っている。

 あれはやがて頭上を通り過ぎ、西の地平線に沈むのだ。


 耳を澄まさなくとも小鳥が囀っているのが分かる。

 屋根の軒先に立ち、アピってる。

 あれはやがてつがいとなり、子育てに励むのだ。


 などと朝からポエムってるのは、死が近いのと無縁ではないと思う今日この頃だったりする。

 さて、今日も今日とて朝活だ。

 泣いても笑っても新入生合同合宿前最後の日。

 悔いを残さぬ様に行動しなきゃだな。


 そんな訳でダンジョンにやって参りました。


「おはようございます、一さん」


「おはようございます、黒羽さん」


 今朝は一際輝いて見える雲類鷲先輩である。

 他のメンバーはいない。

 きっと忙しいのだ。


「ふふふ、やっと二人きりになりましたね」


「ですね」


 今頃魔力操作に励んでいる筈。

 きっとシャカリキになってるんだろうなぁ。

 ちなみにだがこの作戦、雲類鷲先輩の発案である。


「これ、そろそろ返した方が良いでしょうか?」


 と俺は小指に付けた指輪を見せた。

 すると、雲類鷲先輩は首を横に振った。


「魔纏が拙いながらも出来るとは言え、まだまだです。今暫くはお預け致します」


 皆の前で雲類鷲家関係者としての身分を示すと言われて渡されたこの指輪、実は魔力操作を格段に向上させる機能が備わっているらしく。

 俺が尋常ならざる速さで魔力操作を習得したのはこれが理由だった。


「では引き続きお預かり致します」


「はい、そうしてください」


 何故そんなに嬉しそうに微笑まれるのだろう。

 俺も思わず笑顔を返した。


「では、一さん」


「はい」


「これから軽く日課のダンジョンエントリーと致します」


「よろしくお願いいたします」


「その後パーティハウスに移動して朝食としましょう」


 勿論、二人きりでだ。

 

「異存はございません」


「朝食後は雲類鷲家の車で横浜港の赤レンガ倉庫に向かいます」


 へー、この世界にも赤レンガ倉庫あるんだ。


「新入生合同合宿用の装備品がそちらにあるのですね?」


「はい。上位ランカー御用達の店が軒を連ねております。きっと一さんの目に叶う品が並んでいるでしょう」


「大変楽しみです」


 それにしても横浜の赤レンガ倉庫、か。

 装備品以外の商品も売ってる筈だよな?


「午後は購入した装備の習熟にあてます。以上ですが、何かご質問は?」


「はい!」


 俺は勢いよく挙手する。

 すると雲類鷲先輩は少しはにかみながら先生の様に俺を指名した。


「一さん、どうぞ」


「黒羽さん、宜しいのでしょうか? 私の為に貴女の貴重なお時間を一日も使ってしまって」


「今日に限り、雲類鷲家次期当主はお休みを頂いております。それに・・・」


「それに?」


「一さんだからこそ、です」


 言い切った雲類鷲先輩だけでなく、俺迄顔を赤く染める。

 そしてどちらからともなく手を伸ばし、恋人繋ぎしてからダンジョンエントリーした。


 ダンジョンは二人きりだと言うのに、たった七匹しか討伐出来なかった。

 ペースが悪かった原因は青春。

 そう言う事にしておこう。


 パーティハウスでゆっくりと朝食を頂いた後は黒塗りの高級車で横浜の赤レンガ倉庫に向かった。

 運転手はギルドハウスのシェフであるあくつさん。

 名前からして、今更ながら只物では無い予感がした。


 赤レンガ倉庫は現世と大きく変わっていなかった。

 違いはダンジョン関係の品々が豊富な点と、貴族と思わしき品のある客が多い点。

 つまり、単価が高いのだ。

 現世の高級時計クラスがゴロゴロ転がっている。

 それもあって、八千万DPダンジョンポイントがあっという間に無くなってしまった。

 何度も言おう、ダンジョン系の商品は一品一品が凄く高いのだ。

 特に貴族が足しげく通う店のは。

 その分、性能は良いのは当然らしい。

 ちなみに俺(と雲類鷲先輩)が選んだのは次の通り。


 忍びのたがね:二千万DP。不意打ちクリティカル阻害

 忍びのむろ:二千万DP。状態異常阻害

 忍びのきぬがさ:二千万DP。認識阻害


 忍びシリーズの指輪三点だ。

 なんでも値段の割には効果が良いとか。

 武具を買うのは見送った。

 新入生合同合宿で学園支給品以外を使うと目立つらしい。

 そういう噂はすぐ上位クラスに届き、余計な悶着を引き起こす原因となるのだとか。

 俺は新入生合同合宿で生き残るつもりだから、目立つ行為を控えようと思う。

 飲みポーションも大量に買った。

 クラスメイトの為にだ。

 ゲームの都合上、主人公達を覚醒させる為? 本気を出させる為? に俺の凄惨な死が必要らしいが、俺以外誰も怪我しないなど考えられないからな。

 主催者である学校は学校で準備万端に用意しているだろうが、保険として持っておおく

 無駄にはならんだろうしな。

 それに今の俺には<アイテムボックス>がある。

 なので、そこに入るだけ買ったのだ。


 そうそう、雲類鷲先輩が喜ぶ品をプレゼントした。

 <攻略データベース>に訊いてな。

 すると本当に喜んで貰えた。

 六千万DPを使って買った魔道具よりも安い品だったが、買って良かったと思った。

 その後赤レンガ倉庫でランチを摂り、学園に戻った。


 その日の夜、再びパーティハウスに俺と雲類鷲先輩は居た。

 圷シェフが丹精込めて作った夕食を頂く為に。

 それは本当に美味しかった。

 冗談ではなくほっぺたが落ちそうになったのだ。


「黒羽さん、ご馳走様でした」


「いかがでしたか?」


「今日ほど運命に感謝した事はないでしょう。それほど、美味しかったです」


 と俺が言うと、雲類鷲先輩の輝かしいご尊顔が尚更輝きを増した。


「ふふふ、圷が聞いたら殊の外喜ぶでしょう」


「言うなれば、最高の・・・」


「最高の?」


「最高の最後の晩餐、でしょうか」


 直後、雲類鷲先輩の顔に影が差した。


「・・・最後、ですか?」


 伝えなければと思っていたのだが、ちょっと俺の言い方が悪かったらしい。

 雲類鷲先輩は凄い圧を発し始めた。


「私は明日の新入生合同合宿で死ぬ運命にある、と言ったら黒羽さんは信じますか?」


「な、なにを急に・・・」


 圧は霧散し、心から心配する顔が露われた。

 ああ、俺は何て幸せ者なんだ。

 俺は幸せを噛みしめながら続きを口にした。


「情報源を明かせませんので占い師に置き換えますが、その占い師曰く、私は明日、ワーウルフかオーガーに襲われて凄惨な死を迎えるそうです」


 すると、雲類鷲先輩怒は顔を赤く染めて、


「この雲類鷲黒羽、その様な事は絶対に信じません! 一さんも決して左様な流言の類、信じません様に!」


 と言い放った。


「黒羽さん、落ち着いて聞いて下さい」


 静かな水面の様に俺は言った。


「何をです!?」


「今日私が贈らせて頂いたプレゼント、何故斯様に喜ばれたのですか?」


「ま、まさか・・・あれも占い師・・・が?」


「はい。教えて貰いました」


 今日限定の特別な贈り物を。

 他にも喜ばれる品はリストアップされてはいたが、俺は最も彼女の心を揺さぶる、特別なのを選んだのだ。


「そ、その様な事が! で、ですが!」雲類鷲先輩は唇を強く噛みしめた。「本当に死ぬと決まった訳では!」


「勿論、私もただ手をこまねいて死を待っていたわけではありません。少しでも生き残れる可能性を上げようとしてまいりました。ですから、黒羽さん」


「な、なんでしょう?」


「どうか私が無事貴女の下に戻れるよう、加護を頂きたい」


 俺は立ち上がり、雲類鷲先輩が座る椅子の横に行く。

 そして、中腰の姿勢となり目を閉じ顔を向けた。

 額に掛かる髪をかきあげる。

 中世の騎士よろしく、額に口づけをせがんだのだ。


「そ、そんな・・・でも・・・いえ、良いでしょう。この雲類鷲黒羽の加護を授けます」


 刹那、俺は花の香りと共に、意図しない場所に唇を感じた。

 驚きの余り目を見開く俺。

 視界には鬼灯ほおずきの如く首から上を赤くした雲類鷲黒羽が居た。

 その唇が開いた。


「必ず私の下に戻りなさい。良いですね?」


「はい、必ずやお戻り致します」

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