第22話 シリアルキラー

 朝練帰りに剛田と立ち話をした後、俺は真っ直ぐ寮に戻った。

 その足で食堂に入る。

 弁当タイプの朝食を受け取り、そのまま自室へ直行。

 机の上に並べ、その中からおにぎりをチョイスして頬張った。


「鮭か」


 俺的には大当たりだった。

 さて、何故今日に限り自室で朝食を摂っているかと言うと、<攻略データベース>から通知があったのだ。

 新入生合同合宿で俺が生き残る為に有意義なイベントが発生するよ、と。


「なになに。『ブルースライム狩りマラソン』? なんだこりゃ? 午前八時に一階層に入り、指定されたルートをジョギングしながら移動。途中会敵したブルースライムを全て狩る、か」


 凄く疲れそうだな。


「達成すると得られるのは・・・『シークレット』か。これ、本当にやる意味あるイベントなのかな?」


 甚だ疑問である。

 だが、<攻略データベース>さんの仰られる事にこれまで間違いは無かった。

 ピックアップトラックにはねられて死にそうにはなったがな。

 そう言えばあの時、死亡率と表示されていたが今回のはないな。

 きっと安全なのだろう。

 あ、ダンジョンの中じゃ死ねないか。

 なら俺が死ぬ事で災厄が起きる事もない。

 尤も、拙いながらも魔纏を覚えた俺に、ブルースライム程度が群れて現れても死ぬ筈は無いがな。



「そんな訳で午前八時にダンジョンエントリーしてみましたよっと」


 ん?

 何だか普段と雰囲気が違うな。

 ダンジョンの壁に影が差している様な。

 気の所為だろうか?

 ・・・いや、気の所為じゃない。

 分かる、分かるぞ。

 魔物モンスターの存在が分かるのだ。

 つまり、俺は遂に魔力の流れが感知出来る様になったのだ。

 極僅かな狭い範囲だけの様だがな。

 雲類鷲先輩も言ってたっけ、魔力操作を続けると感知出来る様になると。

 これがその事だったんだ。


「それはさておき、<攻略データベース>の指示する『ブルースライム狩りマラソン』のコースは、っと」


 ふむ、丁度魔物の存在を感知した方向と一緒だな。


「それでは参りますか」


 俺は軽いペースでジョギングを開始した。


「お、本当にいた。凄いな魔力感知」


 感知した位置と殆ど誤差が無いのは実に感動的だった。

 俺は胸の高鳴りを抑えつつ、ブルースライムを屠った。


「倒してみて分かったが、魔力感知は魔石も感知出来るんだな」


 放射能の如く、魔石からもガンマ線ならぬ魔力線的な何かが出ているのだろう。

 それを魔力感知が拾っていると想像してみた。


「急に魔力が体に悪い気がしてきた。放射能に置き換えたのが悪かったんだ。フェロモンにしときゃよかった」


 フェロモンならセーフ。

 閑話休題。

 さて、ここから最も近い反応は左手に進んだ方みたいだが・・・


「<攻略データベース>が支持するルートも同じの様だな」


 サクッとイベントを終わらすためにも、サッサと行きますか。


「と二時間前までは楽観的に考えていた俺が屠りますよっと」


 鎧袖一触でブルースライムを狩り、落ちた魔石を拾い、魔力感知しつつ次なるルートを確認、やおら走り出す。

 二時間も同じ作業を続けていた所為か、一連の流れが非常にスムーズに出来るようになってしまった。

 とか考えている間に次なるブルースライムを視認。


「今回も異様に近いな。ふんっ! 見敵必殺! はい、これで二十一匹目っと」


 普段の数倍は会敵してる気がする。

 それもこれもイベント中だから?

 だとしたら、他のダンジョンダイバーに影響は出てないのだろうか?

 俺が今回のイベントを始めた所為で死んじゃってたら、凄く気まずい。


 等と考えつつ魔石を拾って次のルートを確認。

 この先の丁字路を右に行くのか。

 はいはい、向かいますよっと。

 ・・・あ、また直ぐにいた。

 はい、一丁あがり~。


「つか、流石にブルースライムを狩り過ぎだろう。幾らゲーム世界とは言え、酷く恨まれてそうだ」


 それが言霊と化したのだろうか。

 暫くした後、俺は窮地に追い込まれる事になる。


「えー、なにこれ~。流石に引くわ~」


 通路一面を覆ったブルースライムが俺を待ち構えていたのだ。

 って言うか、何で目で見えてるのに魔力感知に引っ掛からない訳?

 ん? 魔力感知に引っ掛からない?

 もしかしなくとも背後も?


「うげっ・・・」


 来た道な筈なのに、会敵した全てを狩って来た筈なのに、視界に溢れるブルースライム。

 言うなれば鎌倉は明月院の紫陽花が如し。

 あれ、綺麗だったよな~。

 新入生合同合宿を生き延びた暁には、この世界の鎌倉を散策してみたいぜ。

 出来れば雲類鷲先輩を誘ってな。


――3!


「えっ!?」


 何だ何だ!?


――2!


 カウントダウン!?


――1!


 このタイミングで魔力感知に掛かった!?

 げぇ、前後合わせて五十匹以上いやがる・・・これを全部倒さないとイベントクリアとならんのか?

 ならんのだろうな!


――0!


「魔纏!」


 魔力で全身を薄く覆うと同時にスライムが俺に向かって一斉に跳ね始めた。

 最初の数匹が籠の中の鳥を捕まえるが如く襲い掛かる。

 俺はそれを、


「どっせい!」


 棍棒で打ち払った。

 が、全てを打ち払える訳もなく。


「膝下を狙って来るとは猪口才な!」


 棍棒を打ち払った力を活かすかの様に、下段回し蹴りを放った。

 吹き飛ぶ水玉。

 その奥から大波の如くブルースライムが押し寄せていた。


「カモン! カモン! カモン! カモン! カモン!」


 アドレナリンが噴き出るのを感じる。


「ははっ! すげぇ! ゲーム世界でこれでもかと生を感じてるぜ!」


 俺は体の奥底から這い出して来た笑いを堪えられなくなっていた。


「あはっ! あははつ! あーっはっはっ! 上等だ! 貴様ら全て、俺の糧にしてやる!」


 造波プールの作り出した波に飛び込むかの様に俺は前に駆け出した。



 一体、どれ程長い間ブルースライムの大群と戦っていたのだろう。

 とうとう最後の一匹を俺は討ち取った。


「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・。最初は・・・楽しかった・・・けど、最後は・・・結構・・・だる・・・かった・・・な」


 スタミナ切れからの息絶え絶え。

 腕も足もパンパン。

 背中は今にもつりそう。

 結構倒れる寸前である。

 刹那、


――イベント『ブルースライム狩りマラソン』の終了が確認されました。これにより、達成者に称号『スライムシリアルキラー』が贈られます。


「は?」


 スマホにステータスを出してみた。


氏 名:一番 一いちばん はじめ

種 族:人族

レベル:8

職 業:ノービス9

体 力: 44/344

魔 力: 22/312

強靭性: 39

耐久性: 43

敏捷性: 41

巧緻性: 39

知 性: 39

精神性: 39

経験値:304

討伐数:219

称 号:スライムシリアルキラー

DDR:  D

スキル:攻略データベース、自然治癒LV6


 マジかよ・・・

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