第21話 このわたくしこそが最強ですわ
放課後、俺は一人の女子に捕まっていた。
それは誰あろう、
「一番君、お願いがあります」
運河だった。
何だか深刻な顔をしている。
「剛田の事か?」
と俺が察すると、運河はこくこくと頷いた。
「これが愛」
「え?」
運河は顔色一つ変える事無く聞き返す。
素で聞こえなかったらしい。
「こっちの事だ」
「?」
「俺も丁度あいつに用があったんだ。折角だから運河さんも一緒に剛田の部屋まで行くか?」
女子って好いた男の部屋って気になるだろ?
俺の気を利かした提案は、
「うーん、それは流石に止めとく・・・」
すげなく断られた。
意外だ。
「そっか。じゃ、約束は出来ないから、期待せずに待っててくれ」
「ありがとう。あと・・・」
「何だ?」
「私のレベル、黙っててくれてありがとう」
「どういたしまして、だ」
俺は運河と別れた足でE・F組生徒用寮の剛田部屋へと向かった。
部屋の前に着くや否や軽いノックと共に、
「剛田! 俺だ! 一番だ! 話がある! 開けてくれ!」
声を張り上げた。
すると、部屋の中から弱弱しい声が。
「ハジメか? もう、俺の事は放っておいてくれよぉ・・・」
どうやら心が完全に折れているらしい。
たかだが一度ぐらい死に戻りした程度で。
安いビニール傘の骨並みの弱さだ。
ダンジョン学園に通う以上、初期のRPG並みに死ぬのは覚悟しておけよ。
五分に一度「おお、勇者よ、死んでしまうとは何事だー」ってな。
俺はそんなデコ助に特効薬を持参していた。
「E組の奴らをぎゃふんと言わせる手が有るんだが、乗るか?」
すると、ドアに小さな隙間が生まれた。
結膜炎の様な目が覗いている。
「情けねぇ姿だな、おい」
と俺が言った。
「・・・お前に何が分る。手も足も出ずに負けたんだぞ」
「それはお前のステータスがE組の奴より低かったからだ」
「俺より弱いハジメが言うな!」
「俺のステータスは既にお前より上だ」
「う、嘘だ!」
「論より証拠だ」
俺はスマホにステータス画面を表示させた。
レベルは非表示に設定して。
氏 名:
種 族:人族
レベル:非表示に設定されてます
職 業:ノービス4
体 力:344/344
魔 力:312/312
強靭性: 39
耐久性: 43
敏捷性: 41
巧緻性: 39
知 性: 39
精神性: 39
経験値:304
討伐数: 99
称 号: -
DDR: D
スキル:攻略データベース、自然治癒LV2
「これ偽造だろ」
失礼な。
あと、その漢字の使い方間違ってるからな。
「ステータス値の
誤字に気が付いたのか、デコ助は少し恥ずかしそう。
「そ、そうだけどよ、幾ら何でもこれはよぉ――」
「俺はお前達が寝ている早朝と深夜近くまで一階層に籠り、ブルースライムとブルーミディアムスライムを狩り続けていた」生き残る為にな。「お前に信念が有るならば、同じことが出来る筈だ」
「ぐぬっ・・・」
「負け犬のままで良いのか? デコ助」
「俺を、デコ助って呼ぶんじゃねぇ」
「だったら、俺を越えて見せるんだな」
デコ助は俺を睨み付ける。
どうやら闘争の炎が灯った様だ。
「俺が言いたかったことは以上だ。邪魔したな」
「ま、待てよ!」
「ああ、そうそう。ブルーミディアムスライムを弱体化する方法を運河に教えてある。興味があるなら聞け」
俺は言いたい事を言い終えると剛田の部屋の前を去った。
そしてその足で、
「それじゃ、ブルースライム狩りと行きますか!」
ダンジョンエントリーした。
そして俺は最初のブルースライムを仕留めた際にノービスのジョブレベルが五となり、スキル<ジョブチェンジ>を習得したのである。
「やっとこの時が俺に訪れたか」
さて、どのジョブを選ぶべきか。
選択肢は全部で六つ。
ゲームでありきたりな一次職だ。
それぞれ、ジョブチェンジ直後から使えるスキルが用意されている。
戦士:<強撃LV1>。攻撃対象に通常ダメージ+ノックバック。
兵士:<挑発LV1>。敵の注目を集める。
斥侯:<気配察知LV1>。周囲の気配が手に取る様に分かる。
僧侶:<回復LV1>。怪我および体力を回復する。
術士:<魔弾LV1>。魔力の塊を放つ。
射手:<曲射LV1>。射線を曲げる。
いずれのスキルも魔力を消費する。
正直、どれもピンと来ない。
新入生合同合宿で俺に訪れるだろう死に対して、特効となり得るイメージが湧かないのだ。
ここで安易に<ジョブチェンジ>してしまうと、再びノービスをレベル五から育てようとした場合はレベル五までの戦闘回数を重ねる必要がある。
つまり今日は戦士を育てて明日は術士を育てよう、何て事は出来ないのだ。
大学受験と一緒だ。
文系志望から理系志望、所謂理転が難しいように。
はたまた、大学入学後に文系専攻から理系専攻に変えるかのように。
これまで積み上げた物を一旦放棄し、新たに積み上げる必要があるのだ。
「軽々に<ジョブチェンジ>は出来ない」
後でじっくりと<攻略データベース>とお話しするか。
俺は<ジョブチェンジ>を一旦意識外へと追いやり、ブルースライム狩りへと邁進した。
四月十三日土曜日。
転生七日目の早朝。
ステータスアップおよびスキルを得られるイベントは今日も無く。
昨日同様朝練に励むのみである。
「おはようございます、黒羽さん。それに四十九院先輩」
「おはようございます、一番さん」
「ごきげんよう、一番君」
今朝も雲類鷲先輩の笑顔が美しい。
四十九院先輩も勿論素敵である。
朝から二人と会話できる俺は本当に幸せ者だなぁ。
あと二日の命らしいけど。
「おや? 一番さん、魔力操作の研鑽を随分と励まれた様ですね」
と言ったのは雲類鷲先輩だ。
「え、分かられますか?」
「はい、大変見事な
そんな俺達の会話に四十九院先輩が加わる。
「あら? 一番君、魔纏をその棍棒に使ってらっしゃるの?」
彼女は俺が右手に握る棍棒に視線を向けた。
流石に四十九院先輩は貴族出身だけあって魔纏は知っていた。
だが、雲類鷲先輩の様に見れないらしい。
「いえ、違います。今は全身を覆ってます」
そう言って俺は両手両足を広げ、全身で大の字を描いた。
「!? か、体全部を覆ってらっしゃるの?」
「はい、仰る通りです。武器を魔力で単純に覆うと攻撃力が、形を刃状にすると切れ味が上がりますよね? なので、今度は身体全体を魔纏したら何がどう変わるのか試してみようかと思いまして」
驚く四十九院先輩。
俺の疑問に答えたのは勿論、雲類鷲先輩であった。
「一言で申しますと防御力が底上げされます」
そこに丁度ブルースライムが出現。
何も考えず俺が前に出する。
すると、ブルースライムは一番近い俺に襲い掛かった。
だがしかし、魔纏で全身覆われた俺には一切の影響、それこそ少なくとも重さが数キロはあるブルースライムがぶつかって来ても何一つ衝撃が及ばないのだ。
防御力が底上げ? どう考えても物理無効バリアです。
本当に凄いです。
「思ったのだけど、それは術士にこそふさわしくなくて?」
「はい、大変有益です」雲類鷲先輩の視線が四十九院先輩に向いた。「想像してみてください。術士は得てして最初に狙われますが、その術士が全身を魔纏していたらどうなるか」
俺はここぞとばかりに言葉を発する。
「魔法による遠距離攻撃、魔纏による物理無効。つまり、最強、です」
四十九院先輩の目がゆで卵大に!?
「!? こ、この四十九院、今日より、いえ正にこれより魔力操作に励みます! 申し訳ございませんが暫くご容赦願います!」
俺は雲類鷲先輩と目が合った。
凄く嬉しそうだった。
「黒羽さん、嬉しそうですね」
「魔力操作に関する情報を伝える機会が中々なかったのです。一番さんが独力で身に付けて頂いて本当に良かったです。心より感謝を」
超ご機嫌。
なら、あの話題をぶっこんでみるか。
「黒羽さん、石灰水と大幅上昇の件なのですが、訳あって一部のクラスメイトに開示しました」
俺は言い終わった後、頭を下げた。
すると、雲類鷲先輩をそんな俺の顔を両の手で挟んで押し留め、更には元の高さに戻した。
雲類鷲先輩と視線が重なる。
俺もそうだが、彼女の顔も真っ赤っかだ。
「か、構いません。生徒が見つけたので、情報の流出は早いと申し伝えてあります」
「流石です、黒羽さん」
「いえ、本当に凄いのは一さんです。たった一晩で全身への魔纏も、
あ、まだ拙いのね。
それを知れたのは良かった。
いや、雲類鷲先輩が敢えて伝えてくれたのだ、まだまだ上がある、と。
「黒羽さん、俺、もっともっと、頑張りますから。待ってて下さい」
「はい、その日を楽しみにお待ち申し上げております」
ヤバイな。
何がヤバイって雲類鷲先輩の可愛さがヤバイ。
加えて、ずっっっと俺の顔を押さえている手の温かさもヤバイ。
俺はその手を両の手で押さえてみた。
「あっ・・・」
雲類鷲先輩がドキッと跳ねた。
貴族しかも次期当主の女子に対して、俺の行為は下手したら殺されてもおかしくない代物だ。
誤魔化さなきゃ。
押さえた手を握り、顔から離す。
そして互いの胸の狭間で止めた。
「そ、そう言えば一さんにお伝えし忘れていた事が有りました」
露骨な話題反らし。
でも彼女の手はまだ俺の両の手の中。
それどころか、そっと握り返している。
「託された万能薬が一つ一千万DPで売買成立致しました」
マジで!?
八個あったから八千万DP!
「それは本当に凄いです」
「何か入用の物はございますか?」
「新入生合同合宿に備えて装備品やスキルを購入出来ればと考えます」
ワーウルフやオーガの攻撃にも耐えられる装備が欲しいのだ。
学ラン一枚じゃ、それら相手には紙装甲だろうし。
スキルも良いのが有れば手に入れておきたい。
「でしたら明日、この黒羽が選りすぐりの品々を扱うお店に案内したいと存じます」
これは願ってもない申し出。
「それは大変助かります。是非お願いできますでしょうか?」
「はい、お任せください」
この間四十九院先輩は一切口を挟まなかった。
それは、
「・・・このわたくしこそが最強ですわ。・・・このわたくしこそが最強ですわ。・・・このわたくしこそが最強ですわ」
術士らしい集中力の賜物であった。
朝練が終わってダンジョンから出た後、訳あって雲類鷲先輩らのパーティハウスには行かず寮に直帰する。
その道すがら、後から追い掛けて来る音に気付いた。
「ちょっ、待てよっ!」
振り返ると、剛田だった。
「お前がその台詞を使うのは犯罪だぞ?」
デコ助の分際でな。
「何でだよ! 呼び止めただけだろうがっ!」
ま、何はともあれ、元気そうで何よりだ。
「で、何か用か?」
「昨日から運河と八方、それに山中と一緒にブルーミディアムスライムの周回をやってる。アレを考え出したのお前なんだってな」
山中?
あ、クラスメイトのモブ男子か。
んで、アレってどっちだ?
魔石のレベルアップ? いや、石灰水の方かな?
「今日だけでレベルが五を超え、ステータスも大幅上昇出来た。本当に感謝してるぜ」
ステータスの大幅上昇。
ってことは運河、ブルーミディアムスライムのレベルアップ法まで教えたか?
あ、違うか。
レベル四でレベル七を倒せばステータス大幅上昇レベルアップになるか。
ま、この際知られても良いけどな。
人命優先だし。
運河には躊躇なく伝える様にと、アプリ経由で頼んでおくか。
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