第20話 俺はぼっちになった

 F組でレベル五の生徒数は三人。

 つまり、運河うんがと入学前からレベル五だった八月一日ほずみ小鳥遊たかなしだ。

 嘘だろ?

 他のクラスメイトは一体何をやってたんだ?

 あ、レベル一のブルースライム相手だとレベル四が上限か。

 って事はジョブレベルを上げてたんだ。

 ・・・本当に?


「先生!」


「はい、一番君どうぞ~」


 軽い圧力が全身に掛かるも、今は気にしてられない。


「ノービスのジョブレベル五に至ったのは何人ですか?」


「それもゼロです」


 オーエムジー!

 これはヤバイ。

 何がヤバイって、俺は新入生合同合宿で凄惨な死を迎える予定だ。

 それは強力な魔物モンスターによってもたらされるのは規定事実だ。

 魔物はワーウルフとかオーガだった筈。

 かなり強力なモンスターだ。

 レベル四の身体など、一撃で紙屑の様にバラバラにされてしまうだろう。

 現に<攻略データベース>はレベル五の俺の生存する可能性を一パーセントと示したのだから。


 だと言うのに、殆どのクラスメイトは未だレベルおよびジョブレベルのどちらも五に至ってない。

 これは俺以外にも死人が出る、ないしは復帰出来ないほどの重傷を負う気がする。

 俺を凄惨な死に追いやり、主人公とメインヒロインを覚醒させると言う過程ゲームの都合で。

 これ最悪だ。

 何とかしないと。

 俺が負の思考に嵌っていると、ホームルームはいつの間にか解散となり、一時間目の授業が始まろうとしていた。




 午前の授業が終わると、


「昼食を摂りながら、皆に相談したい事があります」


 と熊埜御堂くまのみどうが言った。

 奇遇だな、俺もだ。

 学食に移動し、一年F組の定位置となった場所に陣取る。

 そして、各々がランチブッフェで選んだメニューを自身の目の前に並べた所で熊埜御堂が口火を切った。


「このままでは、私達F組は三年間ずっとF組のままになってしまいます」


 そうなると、卒業時のDDRダンジョンダイバーランクは精々半人前扱いとなるDランク。

 大手ギルドは勿論のこと、比較的大きめの中小ギルドにすら就職出来ないだろうと言う。


「国や都道府県、または貴族家との直接雇用など夢のまた夢、です」


 零細のブラックギルドで扱き使われる、と言う訳だ。

 流石にこれにはクラスメイト達も顔を青くしている。

 折角専門職、それもエリートとなれるダンジョン学園に入った筈なのに、そこらのゴロツキと大差ない未来に落ち着くと知ってはなぁ。

 ダンジョン学園に入った者は最低でもCランク、出来ればBランクを目指しているのだから。


「はい、質問でーす」


 と言ったのは八方だった。

 熊埜御堂は一瞬お疲れ君とアイコンタクしたかと思うと、そのお疲れ君が


「八方さん、どうぞ」


 と発言を促した。


「具体的にはどうすれば良いのー?」


「レベルとジョブレベルを上げます」


「それは皆分かってるわよ。ねぇ、皆?」八方が他のクラスメイトに振ると、皆力強く頷き返した。「知りたいのはその具体的な方法よ。だってこの中の誰もがブルースライムを倒してもレベルが上がらないんだから」


「ジョブレベルは上げられる」


 と言ったのは俺だ。


「一番、話したいなら挙手してくれ」


 とお疲れ君が言った。


「悪いなお疲れ君」


 八方が吹き出しそうになった。


「乙、彼、だ」


 そうとも言うな。


「皆聞いてくれ。知っての通り、レベル四のノービスでブルーミディアムスライムを倒すのは危険だ。なので大半はジョブレベルを上げ、<ジョブチェンジ>取得を優先して目指す案を提示する。具体的にはだが先ず、レベル五の者とそれ以外を分ける。で、レベル五の者でブルーミディアムスライムを周回してレベル七まで上げて貰う。一方のレベル四以下の者は基本スリーマンセルで<ジョブチェンジ>出来るまでジョブレベルを上げて貰う」


 俺はチラリとお疲れ君に視線を移す。

 すると彼は任されたとばかり頷き返し、後を引き取った。


「成る程。一階層が広いとはいえ、四十人が一斉に狩るには狭いし、魔物の再出現リポップを見越しても魔物モンスターの数に限りがある。そこで、レベル上位者数名をフロアボス専任にし、下位は三人一組で狩る事で安全マージンを確保しつつジョブレベル上げに専念させると言う事か。四人一組にしないのは多すぎて機会損失が無視できないからだ」


「そう三人がベターだ。<ジョブチェンジ>が出来るようになれば、上位レベルを前衛と下位レベルを後衛としたパーティを組み、フロアボスに挑む。そうする事で下位も少なくともレベル五までは上げる事が出来る筈だ」


「だが、そうすると上位レベルの者が<ジョブチェンジ>出来ないのでは?」


「それは仕方がないだろ。先ずはレベル五とジョブレベル五の数を揃える必要があるからな。それにフロアボス周回している間にブルースライムが出ない訳がない。それでも足りなければ、後で狩れば良い」


「確かに」お疲れ君は俺に同意した後、熊埜御堂に顔を向けた。「僕は良いと思う」


「では皆はどうかしら?」


 と彼女は全員に訊ねた。

 すると、ここまで沈黙を保っていた主人公、八月一日ほずみが口を開いた。


「上位レベル三人でフロアボスと戦うのは良いとしてメンバーは誰になるのかな? 二人は僕とましろなのは分かるけど、後の一人が誰か分からなくて」


 視界の端にいる運河の身体がどんどん縮こまっていく。

 余程皆に知られたくないようだ。

 仕方がない。


「それの件に関しては後で良いか? 春夏冬先生も誰が何レベルとか口にしなかった。本人の意向を確認してからだ」


「そっか。それもそうだね」


 八月一日は今ので納得したらしい。

 一方の小鳥遊はそうでもなかった様だ。

 ただこの場では俺を追求することなく、


「ふ~ん。そう言う事かー」


 と意味有り気に言うのみであった。


「他に無ければ全員賛成と言う事で良いわね?」


 誰も異議無し。


「なら、熊埜御堂とお疲れは昼食後残ってくれ。編成に関して相談したい」


 と俺が言った。


「分かったわ」


「僕も承知した」


 これで良し、と。

 おや?

 まだ俺に視線が集まってるな。


「話は終わった。完全に冷める前に残ったランチを頂こうじゃないか」


 皆が思い出したかのように食事に取り掛かった。


 食後に編成やダンジョンエントリー後の行動に関して打合せを行った。

 その後に行われた午後の授業は再び俺と八月一日、小鳥遊のメンバーでダンジョンを回った。

 運河?

 一言も無く、八方のチームに加わっていたな。


 ダンジョンに入った際、八月一日と小鳥遊の二人に編成を伝えた。


「放課後と夜はこの三人でフロアボスを周回する」


 と俺が言った。


「僕は良いけど、ハジメ君は大丈夫かな?」


 ん?


「どういう意味だ?」


「ブルーミディアムスライム、結構強いよ? レベル四とは言っても、ステータス値が低いと即死も有り得るからさ」成る程、俺がレベル四だと勘違いしているのか。「僕と白なら大丈夫だけど・・・」


 凄く言い辛そう。

 これはもしかして――


「もしかして、俺がいると足手纏いになると思ってるのか?」


 すると、八月一日は申し訳なさそうに小さく頷いた。


「それに、僕と白が新入生合同合宿前に確実に<ジョブチェンジ>を得る為にも二人で周回したい」


「紅!」


 小鳥遊が子供を叱り付ける様に言った。


「だって、白も二人の方が気が楽だって言ってたじゃないか」


 本当に子供か!


「あの時はそう言ったけど、今は状況が違うじゃない!」


「ならどうしろ――」


 もう良いって。


「いや、俺はそれで問題ない。寧ろ二人で周回してくれなら俺も助かる」こちらもブルーミディアムスライムの周回をしなくて済むなら有り難いくらいだし。「確認だが、本当に二人だけで問題なくブルーミディアムスライムを狩れるんだな?」


「まあね」


 と八月一日が答えた。

 俺は小鳥遊に顔を向けると彼女も、


「その点は紅の言う通りよ」


 同意を示した。


「なら、それで決まりだ」


「一番君、ごめんなさい」


「気にするな、小鳥遊。これは安全で且つ、お互いに理のある決定なのだから」


 こうして俺はぼっちソロになった。





~~~~~~~~~~~~~





 ここはとあるゲーム会社の会議室。

 現在、サービス開始したばかりのオンラインゲームに関する話し合いが終わったばかりである。


「大きな問題は発生してないようでほっとしました」


「幾つかのサーバで軽微な問題は起きている様ですがね」


「人が人として振る舞うのです。問題が起きない筈がありませんわ」


「僕としてはもう少し何かが起きて欲しいと思ってましたけどね」


「流石は本ゲームのプロデューサー。余裕ですのね」


「時に、サーバ監視部隊からの報告に目は通したかね、神々みわプロデューサー」


「セクハラの件でしたらまだです。取り敢えず人事部には回送しましたが。それが何か?」


「その件も大事には変わりはないが、もう一つの件だよ」


「ああ、もう一つの。それでしたらご心配には及びません。この後徹底的な対策を施す予定です」


「くれぐれも頼むよ。わが社の神々大株主が気をもんでいるのでね」


 神々は聞き流した。


「はい、承知しております。では急ぎ対策しますので、失礼いたします」


 神々は会議室を出たその足で別の会議室へと入った。


「で杉下さん、状況は?」


「バックドアは見つかりませんでした」


「ルーターのログにも痕跡は残ってなかったそうだからね。困ったな~」


「それとは別に、ちょっと見て欲しい物があります」


「急ぎ?」


「少しでも早い方が良いかと・・・」


「ホテルブッフェに手作りオムレツが無かったみたいな顔して。分かった、何?」


 杉下は一瞬固まるも、説明する。


「そ、それが例のモブキャラなんですが・・・」


 と言いながら杉下はディスプレイにとあるゲームキャラのステータス画面を表示する。


「レ、レベル7!?」


「それだけじゃないんです。ステータスも通常より大幅に上がってます」


「ほ、本当だ!」


「プロデューサー、いかがいたしましょうか?」


「シナリオが崩壊する可能性が微レ存。対策案を出して貰えるかい?」


「わ、私がですか!?」


「何、案出し出来ないの?」


 思いの外冷たい声音に杉下は答えに窮した。

 そんな彼女に神々は一転して優しく言葉を掛ける。


「何も君に責任を押し付ける訳じゃない。監視担当者として見ていた君の視点を知りたいと思ってね。良い案なら採用するし、その逆もまた然り。やってくれるよね?」


「・・・承知しました」


 その答えに神々は満足する。

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