第19話 F組は二階層進出禁止が正式に決定
教室に入って早々、
名前が名前だけに、今日も心労が祟った顔をしている。
実は本当に気疲れしてない?
「昨日の夜、剛田が死んだらしい」
「なっ!?」一瞬目が飛び出そうになった。「そ、そんな馬鹿な!!」
俺は思わず声を大にして驚く。
何せ、新入生合同合宿で最初の犠牲者となるのは俺だ。
シナリオ的にな。
故に剛田が、いやクラスメイトが俺より先に死ぬ筈がなかったのだから。
俺は席に座る運河に視線を向けた。
彼女は沈痛な表情を浮かべ、
「本当なの」
と俺に言った。
そんだけ?
可愛いとか言って、剛田の事気にしてなかったっけ?
「マジかよ・・・」
俺は別の意味で驚いた。
「そんなに驚く事か? 学校が運営する管理ダンジョン内での話だぞ?」
なんだ、それを先に言えよ。
そんなんだから気疲れした顔してるんだよ。
もっとシンプルに生きようぜ!
閑話休題。
管理ダンジョン内で死ぬと強制ダンジョンアウトし、且つペナルティとしてステータス半減するんだよな。
たったそれだけで済むんだから、大した話じゃない。
「なんだ、びっくりさせんなよー」
いや、よくよく考えれば大事か?
なにせ管理ダンジョン内での死とは言え、死は死だ。
死に様は知らんが、即死でもない限り結構辛いんじゃなかろうか。
大方剛田の事だ「これぞブルースライム風呂だぜ!」とか言いながらビニールプール満杯に入れたブルースライムに全裸突撃、溶かされて死んだんじゃないの?
「問題はそうなった理由だが、どうやらE組との私闘らしい」
「嘘だろ?」意外と深刻な内容だった。「幾ら何でも俺達高校生だぞ? 多少揉めたからって殺すまでするか?」
貴族なら兎も角、E組なら平民同士だろ?
多少痛い目を見せて「これに懲りたら粋がるんじゃねーぞ、デコ助野郎」で仕舞いが普通だ。
「手も足も出ないぐらい遊ばれて、泣きじゃくっているところを最後は首を断たれたそうだ」
「酷いな」
心が折れてなきゃ良いが。
「その時、E組の奴らが言ってのがコレだ」
それはA4のコピー用紙に殴り書きされたメモの様だった。
「なになに。お前達にはまだ二階層は早い。死んで一日ステータスが半減してダンジョンエントリー出来なくなるくらいなら、一階層でしっかりジョブレベルを上げてジョブチェンジ出来る様になれ? 役割分担を確と決め、本当のチームを組め?」
何これ、凄くまともな忠告じゃない。
「その下が対峙した剛田の台詞だ」
「なになに。ふぜけんなこら?」いきなり喧嘩腰か。「ブルーミディアムスライムの方が強いだろうが、こら? 知ってんだぞ、こら? 二階層の魔物の方が弱いってのをよ?」
んで、次はE組の回答。
「二階層の魔物は徒党を組んで現れる。チームでブルーミディアムスライムを倒すなりしてレベルアップしてから二階層に挑んだ方が安全だ。その分効率も良い」
だった。
凄く理にかなったアドバイス。
ところがである、剛田は受け入れられず喧嘩、もとい
結果、剛田は死に戻りーの、ステータス一日半減ーの、か。
「で、当の本人はまだ学校に来てない、と」
と俺が言った。
「そうだ」
「寮の自室に引き籠ってる?」
「だな」
「今日一日は仕方がないんじゃないか?」
傷心中なんだろうし。
同学年との喧嘩に負けた翌日は登校出来ない、良くあると思います。
「僕もそう思う。それよりも君と話したいのは今後の事だ」
あ、剛田はどうでも良いと。
じゃ何で話した?
「今後って?」
「剛田が休むと剛田の所属する席順チームから一人足りなくなる」
あ、ここで先の話に繋がるのね。
「当然だな」
「そこで
誰にも言ってないけど俺、既にレベル八だしな。
「俺以外の皆が納得しているなら問題ないよ」
「ありがとう、助かったよ」
その後のホームルームは何事もなく、つまり
それが癪だったのだろう、ホームルーム後に
午前、午後の授業も普段通りに終わった。
尚、午後の授業はE組との合同だが特に何も起きず。
熱血漢の八月一日がE組と騒動を起こすかと思ったが、知り合いと軽く会話を交わす程度だった。
ま、寮も一緒だし、学校で改めて顔を合わせて何か起こす事もないか。
ダンジョンエントリー後、俺は運河の分を貰う事でいつもより四匹多く討伐した。
放課後に夜活も同様だ。
十六匹のブルースライムを狩れた。
これてトータルの討伐数が九十となった。
後十匹でスキル<ジョブチェンジ>を得られる。
何のジョブを選ぼうか、攻略データベースから情報を得ながら決めようと思う。
そう言えばステータス値を上げられたり、スキルを得られたりするイベントがあれ以来提示されないな。
落とし物と一緒で、通知設定しているのに通知されないと言う事は今のところ無いんだろう。
あれは偶々だったのだ。
そりゃそうか、毎回ピックアップトラックに轢かれたらたまったもんじゃないしな。
寝床に着こうかという頃合い、魔力操作に進展があった。
体外に僅かだが伸ばせた気がするのだ。
何となくだが大きな壁を乗り越えた気がする。
寝る時以外の時間、魔力操作をしてきた甲斐があったぜ。
明日、早速雲類鷲先輩の前で試してみよう。
それじゃ、今日はここまでにして寝るか。
四月十二日金曜日、転生して五日目の朝。
昨日の斉藤先輩に代わって
斉藤先輩は魔力操作の自主練で忙しいらしい。
まぁ、魔力操作の利点を知ったらそうなるわな。
「黒羽さん、これを見て貰えませんか?」
俺はずいいっと右手に持った棍棒を突き出した。
「一さんの棍棒です」
「あんた、黒羽に何言わせてんのよ!」
「え?」
俺は首を傾げた。
「私が妙な事を口に出したのでしょうか?」
と雲類鷲先輩が俺に確認するも、俺にも栗花落先輩の言わんとしている事が分からなかった。
「いえ、俺の耳には何も・・・」
「ああ、もう良いわよ! 耳年増の私がわるぅございました!」
耳年増?
あぁ、そう言う事?
たまってんのかコイツ、もとい栗花落先輩は。
「黒羽さん、栗花落先輩に良い人を紹介してあげてください」
俺の言葉で何やら察した雲類鷲先輩。
顔を赤くしながら、
「承知しました、一さん」
と応じた。
「一番も黒羽に変な事吹き込むな!」
そんなに顔を真っ赤にされて言われてもねぇ。
自業自得だと思うの。
恐らくだが栗花落先輩は平民の出。
一方、所属するクラスはA組。
大半が貴族だ。
結果、栗花落先輩は相手にもされないのだろう。
美人なのに勿体ないね。
一昔前なら愛人やら妾やらとして囲い、一生面倒見るのが普通だったらしいがな。
最近じゃコンプライアンスだー、なんだーって五月蠅くてままならないのだろうか?
もしくは意中の人がいるとか。
どちらかと言うとこっちか。
「そんな事よりもです。黒羽さん、俺の棍棒の先っちょを見てください」
「ぐぬぬ!」
栗花落先輩が再び何かを言おうとするも、雲類鷲先輩は気にせず俺の棍棒をまじまじと凝視する。
「!?」
「分かりましたか?」
「一さん、出来る様になったのですね!」
雲類鷲先輩が自分の事の様に嬉し気に言った。
俺はこれだけで日夜休まず魔力操作を続けた事が報われたと思った。
「はい、このようにほんの僅かですが」
それは魔力操作により為した、魔力の刃。
極々僅かではあるがな。
その刃でブルースライムを一閃してみる。
棍棒なのに、剣で切ったかのように切断された。
「何それ凄い」
と言ったのは栗花落先輩だった。
「でも、常時使用するのは難しいみたいです」
俺は急激な眩暈を感じ、その場に片膝をついた。
「棍棒から飛び出す形で刃を具現化したからです」
「黒羽、詳しいわね」
「私もここぞと言う時に使ってますから」
「何それ初耳だわ」
「雲類鷲家の秘事、と言う程の事でもないのですが、出来るであろう者、大過なく扱えるであろう者にしか伝えておりません」
「私は?」
「一さんを介して伝えさせて頂きました」
雲類鷲先輩が悪戯成功とでも言わんばかりにクスリと笑った。
はぁ、眼福眼福。
「何か癪だけど、感謝するわ一番。でも流石は貴族。いえ、雲類鷲家ね。スキルでなき技術? 技法? がさらっと出て来るのだから」
「どういたしまして(本当に凄いのは、誰にも師事せずに至った一さんですけれども!)」
刹那、雲類鷲先輩は「キャー」と言わんばかりに顔を染め上げ、頬を押さえ出した。
結局、この日の朝練で狩ったブルースライムは七匹に留まった。
原因は魔力操作で棍棒を常時包むのに四苦八苦したのと、
「そうですか、お友達が不登校に・・・」
「そう言うのは本人次第だからねぇ」
昨日クラスで起きた事を相談、と言うか、話したりしていたからだ。
「でもそいつ、大変だぞ。新入生合同合宿前からそんな体たらくだと」
と栗花落先輩が眉間に皺を寄せて言った。
「そうですね。一度躓いて落ちるところまで落ちてしまいますと、再び浮かび上がるのは難しいと思います」
不登校から学校の勉強について行けずフェードアウト。
前世でも良く聞く話だ。
「今日は来ていると良いですね」
「はい、俺もそう思います」
朝活後はいつも通り雲類鷲先輩方と朝食を摂り、落とし物を拾ってから教室へ。
「今日は傷薬のポーションだけか」
有るだけマシだと思いつつ、渋い成果に肩を落とす。
そんな感じで入った教室で俺を待ち受けていたのは、
「剛田君、今日もお休みみたい・・・」
運河の愁いを帯びた瞳だった。
それを目にした俺は思わず、
「分かった。放課後、剛田の部屋に行って話してみるよ」
などと口走ってしまった。
後数日で死ぬかもしれないのに!
他人の世話なんか焼いてる暇ないのに!
クソッ!
それもこれも、メンタル豆腐なデコ助の所為だ!
不登校が治ったら、俺が生き残ったら、直々にボコボコにしてやる!
ていうか、そう言うの主人公の役割じゃね?
と探すも、奴は教室には居なかった。
小鳥遊はいるのにな。
「あれ? 八月一日は?」
と俺はメインヒロインに問うた。
「私、紅の保護者でも何でもないのだけど?」つれない返事が返って来た。「朝食後、どこか行ってるみたいなのよねー」
こちらも瞳を滲ませる。
主人公よ、メインヒロイン置いてなにしてんの!?
その後に始まったホームルームでは思ってもいなかった事が通達される。
「皆さん~、お静かに~。F組の皆さんは二階層以降禁止となりました~。今後はダンジョンエントリーおよび一階層からの移動がダンジョンマスターの権能により出来ません~」
有無を言わせぬ迫力を伴って。
「そ、そんな・・・」
「それって絶対に行けなくなったって事でしょ?」
これまでは上位クラスからの妨害? 命令? だったのが学校? ダンジョンマスターの権能? によって二階層進出が不可能となったらしい。
何と言う強権発動。
「解除条件はクラスの半数がレベル五以上、ジョブレベル五以上に加え、竹刀先生と私に十分な強さを見せられたら、となります~」
絶望を表す呻き声が幾つも漏れ出た。
そんな中、一人の生徒が挙手した。
「八月一日君、どうぞ」
いつの間に来たし?
「十分な、強さの、見せ方を、教えて、下さい・・・」
春夏冬先生の威圧を受けて辛そうだ。
こいつ、もしかしなくともレベル上げてないのか?
「それは申し出のあったその時に考えます」
余計な情報を与えない。
与えなければ、先の条件に邁進するしかない。
上手いな。
ちなみにだが、
「はい、春夏冬先生」
俺にも知りたい事があった。
一瞬驚きを垣間見せるも、春夏冬先生はそのまま応じる。
「何でしょう、一番君」
「クラスの半数がレベル五、ジョブレベル五以上との事ですが、現状どの程度の人数が達しているか教えて頂けますでしょうか?」
すると、春夏冬先生は右手を突き出し、
「ゼロ、です」
指で丸を作った。
嘘だろ、おい・・・
俺は本作の主人公である八月一日に視線を向ける。
彼は春夏冬先生の威圧に屈し、悔し気に歯を噛みしるので精いっぱいの様だった。
それは小鳥遊も同様。
あれ?
これ新入生合同合宿を前にして相当ヤバイ状況じゃないのか?
だって、それなりに過酷だと耳にしたぞ。
「度々すいません、春夏冬先生。よろしいでしょうか?」
「構いませんよ、一番君」
「レベル五は現在何人いますでしょうか?」
クスリと嗤った春夏冬先生の立った指は三本だけだった。
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