第15話 最高討伐数の記録を更新した
「お待ちなさい! 私も参ります!」
「えっ、
「ぶほっ!?」
俺は腰に、軽トラックにはねられた、そう認識してしまうほどの衝撃を受けた直後にダンジョンエントリーした。
次の瞬間、俺はダンジョンの床に腹からダイブする。
腹、胸、最後に顔と衝撃が及ぶ瞬間に腕で顔を庇った俺の本能を褒めて上げたい。
「いってぇー!?」
全身痛まない箇所などないが、一番は腰の辺り。
見るとそこには黒髪の女神が抱き付き、もとい万力の如き力で締め付けている。
この痛みは締め上げる圧力で圧迫骨折する痛みじゃね?
「い、痛いです! う、
本当に痛いよ!
本気の涙目でアピールすると締め付ける力が緩んだ。
「ご、ごめんなさい・・・」
しおらしい雲類鷲先輩。
レアスチルゲット、みたいな。
徐々に自身のやらかした事を自覚したのだろう。
彼女の顔が赤く染まった。
ほんとかわいい。
クールビューティーなのに可愛いって最強だな。
しかし、夢じゃなかろうか?
夢じゃ無ければお礼に抱き返しても良いのだろうか?
貴族相手に良い訳ないか。
取り敢えず、何がしたかったのか確認してみよう。
「一体、何がどうされたのです?」
「わ、私とした事がつい・・・」
「つい?」
「君があまりにもいとお・・・ふ、不憫に感じて追い縋ってしまいました」
いと不憫? とっても不憫に見えてしまわれた、と。
「ご心配には及びません。先も申しましたがピックアップトラックにひかれて学生服はボロボロですが、私の身体は至って大丈夫ですから」
ピックアップトラックにひかれて服はボロボロでも身体は大丈夫って、自分でも変な事言ってる自覚はある。
が、この世は剣と魔法が存在するゲーム世界。
要するに、何でもアリなのだ。
故に平気平気。
「それに、雲類鷲先輩のお友達が心配されているかと。お戻りになられた方が――」
「いけません。この雲類鷲 黒羽。何故かこのまま君を見過ごす事が出来ないみたいです」
雲類鷲先輩に心配されて嬉しい反面、御貴族様だからなのか己の意志を押し通そうとする頑なな態度が面倒に感じられる。
とは言えこれから俺がやる事は秘匿したい、言うなれば裏技。
「ほら、こんなに平気です」
下手なパントマイム(壁)からムーンウォークしてみる。
「・・・私が一緒だと嫌なのですか?」
雲類鷲先輩のジト目、凄く・・・良い。
でも、そもそも・・・
「質問に質問で返すのは甚だ失礼だとは思いますがご容赦を。何故私と行動を共にしたいと思われるのですか?」
雲類鷲先輩は俺をじっと見つめた後、意を決したかのように口を開いた。
「最初に目した時は路肩の石と変わらぬ
路肩の石、塵芥・・・何気に酷い。
モブの中のモブとは言え、あんまりだ。
「その翌日、その石の一部からほんの僅かですがキラリと光る物が。そして先程、私は認めてしまったのです。研磨された、確かな輝きを」
まるで、恋した乙女が告白するかの様に。
ん、まてよ? 告白じゃないよな?
石とか、塵芥とか、輝きとか。
良い人材を見付けた、そんな話だよね?
これが告白だとしたら流石にチョロイン過ぎる。
二、三回挨拶しただけで落ちるとか。
制作陣は本当に雲類鷲先輩に対してスライディング土下座した方が良いと思うし、するべきだ。
「だからこそ私は君を見過ごす事が出来ないのです」
貴族として将来有望な若者が心配だ、そう言う事だよな?
だがしかし、俺にもそれを拒む理由が有るのだよ。
「私には秘密があります」
「
教えるのに差し支えるから秘密なのだが?
それなのに何でそんなに上目遣い?
思わず喋りたくなるわ。
「そ、その秘密がバレてしまえば、私も、秘密を共有する仲間も大変困る事でしょう。私達は只の平民に過ぎませんから」
スライムを大幅に弱体化させる手法にスライムをレベルアップさせる手法。
それらは、このゲーム世界においては余りに異質な情報と思われる。
『ただ剣と魔法で戦って倒す』以外の設定が、想定がされていない、ゲーム世界故に。
もしそれらの手法が広まったら?
とんでもないハレーションを生じさせるかもだ。
『平民が見つけた? 社会を騒がす不穏分子など殺してしまえ』
極論だが身分差の激しいこの世では有り得ると思います。
「平民・・・貴族をも巻き込む可能性が高い秘密、分かりました。でしたら君とそのお仲間をこの雲類鷲伯爵家の保護下、いえ、私の従者かそれに近しい身分を与えましょう。そうすれば、余程の貴族家でなければ手だし出来ないでしょうから。この雲類鷲伯爵家次期当主たる黒羽を信じてくれませんか?」
雲類鷲先輩は伯爵家次期当主様であらせられたですと!?
これ逆に、ここまで言わせておいて断ったら殺されるんじゃね?
雲類鷲先輩に、じゃなくて、雲類鷲家現当主様や側用人に命じられた誰かさんに。
・・・・・・新入生合同合宿後も俺は生きたい。
まだ逝きたくない。
運河さん、ごめんなさい。
「分かりました。そこまで仰って頂けるなら、開示しない方が不敬と言うもの。雲類鷲先輩だけに、まずは教えさせて頂きます」
と俺が言うと、雲類鷲先輩の顔が大輪の花の如く咲いた。
「以上が、俺とクラスメイトの運河さんが発見した事実の全てです」
俺は『スライムを大幅に弱体化させる手法』『スライムをレベルアップさせる手法』『宝箱が出る』を実演してみせた。
ちなみにだが、高レベルであろう雲類鷲先輩が同行した事が原因で入る経験値が低くなると思いきやそんなことは無かった。
「目から鱗が落ちるとはこの事ですね。本当に驚きました。これはある意味アメリカ大陸発見に匹敵すると思います」
流石にコロンブスと同レベルは言い過ぎだと思います。
「科学的知見を利用した
それが『設定』なのさ、なんてな。
後、「これ程の功績が有ればお父様もきっと・・・」と呟かれている雲類鷲先輩?
ちょっと俺を見る目が恐いです。
蛇に睨まれた蛙とはこの事か、ぐらいに。
「宝箱に関しては如何ですか?」
と俺は問うた。
「深い階層で出る事は認識されています。ただ、一層目と言う極めて浅い階層で出るなどは寡聞にして存じません」
「やはりそうでしたか」
「付け加えて確定である事、出た品も異常です」
「と言いますと?」
「フロアボスを討伐したからと言って宝箱が必ず現れたりはしません。それに全て木製の宝箱でしたが、中から得た代物は『万病を治す万能薬』と記されています」
何で分かったし?
<鑑定>的なスキル持ってるのか、はたまた手にした事があるのか。
「如何なる病も治す薬、ですか」
口にしてみると凄さが改めて分かる。
あの何の変哲もなさそうな
そう言えば部屋の冷蔵庫に入れたままだわ。
あれ?
でも何か違うな。
並べて見比べないとだけど、改めて見ると運河と出したポーションと何かが違う気がする。
気のせいか?
「はい、怪我は治せませんが如何なる病も治せるそうです」
ほぼエリクサーじゃん。
「何それほんと凄い、です」
「はい、これが事実であるなら世界は大きく変わることでしょう」
その言い方だと<鑑定>スキルで判明した内容を読んだっぽい。
しかし・・・世界が大きく変わる?
「何それほんと恐い、です」
「雲類鷲家が預かるのです。心配には及びません」
雲類鷲先輩が聖女の如く優しく微笑む。
俺は思わず見惚れてしまった。
すると、雲類鷲先輩が顔を赤らめて反らす。
何とも言えない静寂が辺りを覆った。
その直後、
――ピピッ、ピピッ、ピピッ・・・・・・
俺のスマホが六時を知らせた。
「・・・・・・で、ではそろそろ戻られますか?」
俺は名残惜しくも雲類鷲先輩にお仲間の下へ帰るよう促してみた。
スマホでメッセージのやり取りをしてはいるが、さぞかし心配されていると思う。
伯爵家の娘と平民の男が一緒って、世間に知られたら事案でしかない。
なので一刻も早く戻った方が良いし、戻って欲しい。
俺?
俺はあと一時間は頑張るがな。
「いえ、後数回は検証が必要です。折角なので、このままフロアボスの周回を致しましょう」
何故か有無を言わせぬ迫力を感じた。
「・・・承知しました」
嫌じゃない、寧ろ一緒に居れて超嬉しい。
けど、後のことを考えると恐いんです。
ご家族並びにご友人の方々に、傷物にしやがって殺す、とか言われなきゃいいんですけど。
「お嫌なのですか?」
雲類鷲先輩が涙ぐんだ目を俺に向けてらっしゃる!
あぁもう、恋に落ちてしまいそうだ!
「いえ、寧ろ全然嬉しいです!」
言っちまったー!
「うふふ、私もですよ?」
はにかみながら言った雲類鷲先輩に俺の心拍数が激増した。
「ブルーミディアムスライムを枯らす勢いで狩ってみせます!」
もう、どうにでもなれ!
「はい、お供します(これが初めての共同作業、と言うものでしょうか? 顔が痛い程熱いですね)」
この日の朝活、雲類鷲先輩の協力もあり朝活における最高討伐数を記録を更新した。
氏 名:
種 族:人族
レベル:7
職 業:ノービス2
体 力:217/217(+85)
魔 力:196/196(+76)
強靭性: 28(+8)
耐久性: 31(+9)
敏捷性: 29(+8)
巧緻性: 28(+8)
知 性: 28(+8)
精神性: 28(+8)
経験値:154(+90)
討伐数: 46
称 号: -
DDR: E
スキル:攻略データベース
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