第12話 これは絶対に二人だけの秘密な?
放課後の地下広場前。
見た事も無い生徒の姿が多い。
それはつまり、御貴族様。
俺と運河は遠慮する様に隅に縮こまっていた。
「運河さん、用意してきてくれた?」
「一番君の言われた通りにしたけど・・・」
尚、俺は学園の相談窓口に寄った後に運河と合流していた。
学園の相談窓口でレベル八の魔物に関する情報などを得る為だ。
<攻略データベース>で条件検索しても、該当件数ゼロだったので。
条件はレベル五の俺で割と簡単に倒せるレベル八の
残念ながら窓口での結果も同様だった。
しかも、窓口の先生からは「レベル五でレベル八の魔物を倒すこと自体無理がある。この結果は順当だ」と呆れ返った感で言われる始末である。
「どうしたもんかなぁ・・・」
思わず心の声が小さく漏れた。
それを耳にしたであろう運河は、
「あの、本当に大丈夫?」
心配そうに言った。
「あ、ごめん。こっちの事だから。運河さんとのダンジョンは全然平気だよ」
「そ、そう?」
「ああ。それじゃ、入ろっか」
「う、うん・・・」
ダンジョンエントリーした俺は早速周囲に目を配る。
付近にスライムはいないな。
エントリー直後の安全確認に続き、アプリで出現位置を調べる。
運河も同様にしていた。
「フロアボスの間が比較的近い場所にあるな」
と俺が言った。
「行きませんよ?」
運河が念を押す様に言った。
だがしかし、
「今のところ、その積りだ」
チャンスがあれが行っても良くない?
「絶対に入りませんからね!」
答えはNOだった。
やむを得ない。
「はいはい。それじゃ、あっちに行こうか」
「フロアボスの間に近づく方のルート!?」
「いや、こっちの方にブルースライムの気配があるから」
「ほ、本当ですか?」
「ほんと、ほんと」
勿論、嘘である。
気配は全く感じない。
壊れかけのヘッドホンは全壊している模様。
但し、いるのは本当。
正確にはスライム音がするのだ。
それを口にすると引かれるのは前世で経験済みなので決して言わないがな。
やがて、
「ほらね」
最初の角を曲がった途端、最初の獲物に遭遇した。
「ほ、本当にいた。気配感知凄い・・・」
運河は簡単に信じた。
この子の将来が若干心配になる。
「それじゃ、例の物を出して」
「う、うん」
運河はバックパックから水風船を取り出した。
そう、俺は事前準備として運河に石鹸水入りの水風船を出来るだけ用意して来るように言っておいたのだ。
「それを軽く投げて当てるだけで良いよ」
「わ、分かったわ」
おずおずとブルースライムに近づく運河。
ある程度近付いた段階でブルースライムは運河に気付いた。
最弱とは言え
殺意を滾らせ、ブルースライムは運河との距離を一直線に縮め始めた。
それに対し、
「えいっ!」
運河は赤い水風船をふわりと投げた。
ブルースライムの表面に当たる時「ぽよん」と擬音が発する感じに。
かと思えた瞬間、水風船は乾いた音を発して割れた。
「きゃっ!?」
音に驚き身を縮こめる運河。
それはブルースライムも同じだった。
いや、ブルースライムは物理的に縮んでいた。
加えて、動きが止まりピクリともしなくなった。
「えぇ!?」
運河は振り返り、目を丸くして俺を見る。
俺はそんな彼女に対して、
「ほら、狩った狩った」
勝者となるべき行動を促した。
「こんなに簡単に・・・」
と言いつつ運河が魔石を拾った後、俺は言うべき事言う。
「この事は当分の間二人だけの秘密にしてもらえるかな?」
「う、うん」
「運河さんならそう言ってくれると信じてたよ」
その後も二匹のブルースライムを狩った後、今度は運河から提案があった。
「次はこっちの水風船を使ってよい?」
それは黒い水風船。
「その心は?」
「石鹸じゃなく、石灰を溶かした水が入ってるの」
石鹸水を水風船に入れて持って来るように言われた直後、薄々これから行う事を察知したらしい。
それならば、石灰も、と準備したとか。
凄い行動力アンド理科の知識。
ちゃんと勉強してたんだね!
あと、石灰って何処で手に入れたんだ?
ま、それは良いか。
「良いね。ぜひ試してみよう」
その結果は驚異的であった。
ブルースライムは球体を維持出来ないほど弱り、まるでフライパンに落とした直後の卵。
今にも崩れ、消えてしまいそうである。
それが白い膜に覆われ始める。
もう見た目は完全に目玉焼きの様相を呈していた。
違いは黄身が青い点のみ。
その為、食欲は決して湧かない。
そんなブルースライムに対しては、
「えい」
運河が棍棒を黄身の部分に押し込むだけで倒せた。
超楽勝である。
幼稚園児でも倒せそうな感じ。
その内英才教育の一環で流行り出す、そんな未来まで見える程だ。
それにしても凄いな石灰水。
「石灰水入りの水風船ってまだある?」
「まだまだあるよ?」
あるのか。
「なら、フロアボスに挑戦してみようよ。石鹸水でも労せずに倒せたけど、石灰水ならより簡単に倒せると思う」
「本当に?」
「ほんと、ほんと」
多分ね。
「・・・一番君の口車に乗る訳じゃないけど、石灰水なら大丈夫な気がするからやってみようかな」
そうと決まれば善は急げだ。
偶然にもフロアボスの間は凄く近い。
あっという間に着いた。
「一番君、最初から私をフロアボスの間に連れて来るつもりだったでしょ」
「まさか!」
俺は腕でばってんを作り、否定する。
が、そのまさかである。
俺の経験値は現在三十四。
対するブルーミディアムスライムを倒して得られる経験値は二十一。
レベル六に上がる為の総取得経験値が六十二。
つまり、レベルアップを避けつつブルーミディアムスライムを倒す事が出来る際どいタイミングなのである。
「じと~」
「それを口で言う人初めて見た。本当にいたんだな」
脛を蹴られた。
地味に痛い。
「一番君、入る前に何か準備は必要かな?」
「俺の場合は水風船を取り出しやすいように、バックパックを前にしたかな」
「私もそうする」
運河はバックパックを前に担ぎ、石灰水入り水風船をを右手に握った。
俺も為念、石灰水入り水風船を手にした。
「準備出来たよ」
「じゃ、行きますか」
俺はフロアボスの間に通じる扉を開け、中に入った。
部屋の中央には青い球状の塊、ブルーミディアムスライム。
まだ向かって来る素振りは見えない。
俺の後から運河が入った。
ブルーミディアムスライムはまだ動かない。
俺の背後で扉が閉まる音がした。
まだ動かないのか。
そうこうしている間に運河さんは俺の横に並び、ブルーミディアムスライムを視界に捉えた。
「やだ凄く大きい・・・こんなの無理」
「今更そんな事を言っても。もうここまで来たんだから帰――」
刹那、大きなブルースライムが一瞬ブルリと震えた。
かと思ったら、一直線に飛び跳ねながら向かって来た。
「ひぃぃ!? こ、恐い――」
怯む運河。
俺はそんな彼女を庇う様に一歩前に出て水風船を投げつけた。
命中。
水風船は割れ、ブルーミディアムスライムは石灰水に塗れた。
だがしかし、迫り来る勢いは止まらず。
それどころか、勢いが増した感があった。
「なんで!?」
ブルーミディアムスライムに石灰水は逆効果だった!?
俺は自身のバックパックから自前で用意した石鹸水入り水風船を取り出す。
それをブルーミディアムスライムに対して投げようとした瞬間、
「うぉ!?」
ブルーミディアムスライムは俺を大きく飛び越えて、運河を強襲した。
「きゃっ!?」
慌てた運河は身を翻し、辛うじて直撃を避けるもバックパックを落としてしまう。
結果、バックパックの中身である魔石と水風船が辺りに散乱した。
「大丈夫か!?」
「うん、私は大丈夫。でも、魔石が――」
「魔石!?」
見ると、ブルーミディアムスライムが魔石を体内に取り込んでいた。
それだけでなく、溶かし吸収している。
それは瞬く間に終わった。
すると、ブルーミディアムスライムの身体が淡い燐光を纏い始める。
謎現象だが兎に角やばそう。
なので俺は、
「運河さん、手当たり次第に水風船を投げつけて!」
ステータスの低い運河さんを後方からの水風船投擲に徹して貰いつつ、俺は肉弾戦を挑んだ。
黒い水風船、続いて赤い水風船がブルーミディアムスライムに着弾。
それぞれの水溶液に塗れたブルーミディアムスライムの表面が白い膜に覆われ始める。
「漸くか!」
そこに俺の棍棒をぶち込んだ。
青黒い核がぐちゃりと潰れる。
すると、魔物はあっという間に霞へと消えたのであった。
「あれ?」
「あれれ?」
俺と運河はお互いを見やった。
直前の様子から、今少し激しい戦闘をとなりそうな雰囲気をブルーミディアムスライムは醸し出していたからだ。
そう、言うなれば拍子抜け。
その直後、
「一体何だ――あぁ!?」
「ひぃっ、ん、あぁ・・・」
俺と運河を異変が襲う。
「い、一番君・・・あ、熱い、熱いよ・・・」
「あ、こ、これは・・・凄い・・・」
ステータス大幅上昇。
でも、なんでだ?
俺のレベルアップはまだの筈。
だが、これは紛れもなくアレの症状。
やがて落ち着いた頃合いに俺は自身のステータスをスマホに表示させた。
氏 名:
種 族:人族
レベル:6
職 業:ノービス2
体 力:120/120(+50)
魔 力:120/120(+50)
強靭性: 20(+6)
耐久性: 20(+6)
敏捷性: 20(+6)
巧緻性: 20(+6)
知 性: 20(+6)
精神性: 20(+6)
経験値: 64(+30)
討伐数: 30
称 号: -
DDR: E
スキル:攻略データベース
経験値が三十も増えてる!
ブルーミディアムスライムから得られる経験値は二十一の筈なのに!
あ、有り得ないだろ!
しかも、DDR《ダンジョンダイバーランク》がFからEに昇格してるし!
俺がこうなのだから、運河の方もきっと・・・
「た、宝箱・・・」
と言って、彼女はスマホを取り出そうとする姿勢のまま、ブルーミディアムスライムを倒した場所を指差していた。
「マジかよ・・・」
あ、ゲーム世界だここ。
しかし、木製の宝箱か。
ゲームあるあるだと、木、鉄、銅、銀、金、白金の順で良くなる、みたいな。
その代わり罠も複雑になっていく。
つまり木製なので罠がある可能性は低い、と言うか皆無だと思われる。
為念<攻略データベース>で確認。
うん、俺の思った通りだ。
「俺が開けてもよい?」
「む、寧ろお願い」
開けてみる。
中にあったのは、
「初めて見る
であった。
「何のポーションかな?」
と運河が首を傾げながら言った。
「鑑定に出さないと分かんないのは不便だよな」
「ですね。あ、消えた・・・」
マジで宝箱が消えた。
ゲームではありがちな演出だけど、リアルで目にすると不思議でしかないな。
ま、ここはゲーム世界なんだし気にするだけ無駄だ。
「それよりも、スマホでステータス確認してみ」
意識を別の物に誘導する。
俺が言うと、運河は目を白黒させた後にスマホを開いた。
忘れてたか。
次の瞬間、目を丸くする運河。
俺は落ち着く暇を与えず、為すべき事をする。
「運河さん!」
「は、はい!?」
俺が突然大きな声で呼び掛けたものだから運河は飛び跳ねんばかりに驚いた。
そんな彼女に対しては俺は、
「これは絶対に二人だけの秘密な?」
にこりと微笑みながらお願いする。
そう、第三者への口外を禁じたのだ。
何故か?
この情報はどう考えてもイレギュラー。
取扱は慎重に慎重を喫するべきだと俺は判断した。
「うん」
運河は考える素振りも見せず、神妙な顔で頷いた。
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