第7話 チート能力!?

 転生二日目。

 新入生合同合宿で俺が死ぬまで後六日。

 昨日あれから夜遅くまでスキル<攻略データベース>から得られた情報とにらめっこを続けた結果、新入生合同合宿までのスケジュールが粗方決まった。


 朝は午前五時に起き、朝食が供される午前七時まで学校の管理ダンジョンに入りブルースライムを狩れるだけ狩る。

 これには目的が二つある。

 一つ目はジョブレベルを含めたレベルアップ。

 レベルを一つでも上げて耐久値を上げるのと、ノービスのジョブレベルを五まで上げてノービスのスキル<ジョブチェンジ>を得る為だ。

 これが無いと、ジョブチェンジ出来ないらしい。


 二つ目は魔石だ。

 ブルースライムが落とす魔石は一つ五百DDPダンジョンダイバーポイントに換金される。

 これを新入生合同合宿まで出来る限り貯めて、少しでも性能の良い装備品を買う。

 そうする事で、生存の可能性が少しだが上がると分かったのだ。


 当然ながら単独行動だ。

 危険だが新入生合同合宿を生き残る為には他者と経験値や討伐数を分け合っている余裕はない。

 それに、管理ダンジョンだとスマホのアプリで脱出ダンジョンアウトを選択するだけで即時脱出可能だしな。

 ただし、フロアボスとの戦闘時は除く。




「と言う訳で朝早くから我が校の管理ダンジョンにやってきました」


 詰襟の学ランを着込み、棍棒を手にして地下屋内広場に到着。

 ちなみにだが、この棍棒は武具自動貸出機械にスマホを置くことで借りられた。

 その横には魔石自動換金装置もあった。

 最近のテクノロジーって凄いね!


 おや? 俺以外にも誰か居るぞ。

 音からして女子っぽいな。

 俺は顔が見える位置まで近づく。


 どうやら先輩らしい。

 それにしても凄い和風美人だ。

 茶道の家元を営む家で育ったかのような。

 日本人形に学ランとスカートを穿かせてみた、みたいな。

 腰に下げた大太刀がミスマッチ。

 俺のそんな視線を感じたのか、彼女の手で大太刀の鯉口がそっと切られた。


――やべっ。このトンデモ設定世界の先輩に対して何て事を!


 俺は慌てて、


「し、失礼しました! お、おはようございます!」


 と謝罪と挨拶を素早く口にする。


「うふふ、おはようございます。貴方はもしかして新入生ですか?」


 揶揄からかわれた?


「は、はい。一年F組の一番 一いちばん はじめです!」


「ふふふ、私は三年A組の雲類鷲 黒羽うるわし くろはと申します。以後お見知りおきください」


 俺の顔から血の気が一気に引くのが分かった。

 何故ならば、三年A組と言えば本校のトップ・オブ・トップ。

 つまり、ほぼほぼ貴族出身者が占めているクラスなのだから。

 それはつまり彼女も貴族であると同義。


「ご、ご無礼をお、お許しください!」


 俺は首を垂れた。


「その謝罪、受け取りました。今後はより一層お気を付けを。でなければ・・・」


 俺の首に冷たく硬い何かが触れた。


「貴方は余りにも弱すぎます。軽く頬を張っただけで死んでしまう程に」


 冷たくて硬い何かは俺の首筋を撫でた後、頬をポンと打った。

 その時俺は冷たくて硬い物の正体を知る。

 大太刀の切っ先だ。

 抜いた気配など一切感じなかった。


「でも、直ぐに改善しようとする心意気は良いと思います。これからも精進願います」


「は! 有り難きお言葉です!」


「尚、第一層から下に降りようとしてはなりません。そのステータスでは即死しかねますゆえに」


 マジで!?


「は、はい! その様にさせて頂きます!」


 後、ステータス何故分かったし?

 鑑定系スキル、ジョブスキルに有りそうでなかったんだよなぁ。


「では、お達者で」


「は、ははっ!」


 顔を上げると、丁度雲類鷲先輩がダンジョンに入る瞬間だった。

 その姿はまるで現世に蘇った戦乙女の如く、神々しく見えた。


「・・・いやー、びっくりしたなーもう」


 完全に油断してた。

 今日の夜にでも、全生徒の情報と画像に目を通しとこ。

 うっかり遭遇して失礼を働いてしまったら、どうなる事やら。

 少なくとも今みたいに無事にやり過ごせるとは思えないしな。

 早速だが雲類鷲先輩のキャラ概要を確認しておくか。


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雲類鷲 黒羽

 雲類鷲伯爵家の長女。

 本作のサブヒロインにして屈指のチョロイン。新入生合同合宿後の主人公が毎朝挨拶するだけで靡いてしまう。

 だが一途。そこが良い。

 ステータスタイプは「剣聖」

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 酷い言われようだな。

 攻略の容易さといい、製作陣は一度彼女に謝った方がいいと思う。

 俺に対してはスライディング土下座な。


「んじゃ、気を取り直して行くか」


 俺は赤い燐光を纏ったノイズに触れた。




 午前七時前にダンジョンアプリを使ってダンジョンから脱出。

 棍棒を返却し、魔石を換金する。

 早朝特訓の成果はブルースライム五匹でしめて二千五百DDP。

 初めてのダンジョンエントリーで且つ二時間弱の成果としては悪くないのでは?

 それにスライムは意外と音を立てて移動する性質らしく。

 俺にとっては角を曲がった途端に遭遇する事も背後から奇襲される事もほぼ皆無な、イージーな相手でした。

 しかもこの短時間でレベルアップして三となり、ステータスも上がった。


氏 名:一番 一いちばん はじめ

種 族:人族

レベル:3

職 業:ノービス1

体 力: 21/ 21

魔 力: 21/ 21

強靭性:  7 

耐久性:  7 

敏捷性:  7

巧緻性:  7 

知 性:  7 

精神性:  7

経験値:  7

討伐数:  7

称 号:  -

DDR:  F

スキル:攻略データベース


 スキル<攻略データベース>の情報によると、レベル四になるまではブルースライム一匹討つ毎に経験値一が入る。

 しかし、レベル四に上がるとレベル一のブルースライムを倒しても経験値が入らなくなってしまうらしい。

 レベルアップの弊害だ。

 雲類鷲先輩には止められたが、早々に二階層へ行くべきか?

 ただ、<攻略データベース>によると、二階層からは魔物同士が連携し、且つより硬くなるらしい。

 具体的にはレベル三の俺が棍棒を武器に戦っても三回は攻撃しないと倒せない計算なのだ。

 一匹倒す間に他のモンスターにボコられる。

 そうならない為にも一撃で倒せる必要が有る訳だ。

 武器だ。

 より強い攻撃力を有する武器が要る。

 ただ買い替えるにしても、先立つ物が・・・

 うーん、悩ましい。


 頭を悩ませつつ、すぐに寮の食堂・・・には行かず校内を散策。

 攻略データベースからゲットした、『二日目の朝から拾える校内の落とし物』を回収する。

 これは攻略データベースと夜遅くまでお話・・した結果判明した事実だ。

 この世界がゲームをベースに創られているからなのか、朝になると忽然とアイテムが現れるのだ。

 そんな訳で今朝拾えたのは『壊れかけのヘッドホン』と幾つかの飲み薬ポーション

 このヘッドホンは首に引っ掛けておくだけで魔物や人の気配に何故か敏感になる装備品だ。

 これが有れば今まで以上に魔物や危ない先輩に不意に遭遇する機会が減らせられるかも。

 なので早速つける。

 その後、俺は寮の食堂で少し遅めの朝食を摂った。

 昨夜の夕食時も思ったが、何故か同級生と鉢合わせすることはない。

 俺だけ時間が遅いからだろう。

 朝のホームルームは開始直前に何とか間に合った。


「一番君、おはよう」


「運河さんおはよう」


 朝の挨拶大事。


「ハジメ、おせーぞ」


 と二日目から馴れ馴れしく下の名で読んだのは剛田だった。


「授業の予習してて遅くなった」


 落とし物を探してたとは死んでも言いたくない。


「ハジメじゃなくてマジメか」


 剛田のくせにうまいこと言う。

 だが口に出して言ってやらない。


「剛田くんうまいね!」


 と言ってしまったのは八月一日ほずみだった。

 俺はそんな彼に忠告する。


「八月一日、剛田が調子に乗るから余計な事を言わないほうが良いぞ」


「実質F組最下位が何言ってやがる!」


 剛田が食って掛かった。

 刹那、


「先生来たよ」


 小鳥遊が言った。

 剛田は渋々自席に戻った。


 最初の授業は英語だった。


「はい、一番一君だけに一番に訳してみて」


 やや受け。

 俺は「はいはい、分かりましたよ」と言いたい所を我慢し、黒板に近づく。

 正直、高一の英文なんか楽勝ですよ、と思いきや結構難問。

 何故だ?

 ああ、そうか。

 環太平洋連合の帝政日本国だけに英語も小さい頃からハイレベルに習ってるからか。

 もしかしなくても、他の教科も?

 現世の日本にはない科目だってありそうだしな。

 参ったな。

 ステータスだけじゃなく学力も最下位か?

 それは流石に恥ずかしい。

 待てよ、攻略データベースで何とか出来ないかな?

 試しに翻訳させてみる。

 おっ、出来るみたいだ。


「この世は一つの世界だグラシアーノ、誰もが自分の役をこなさなきゃならない舞台なのだ。僕のは悲しい役だ」


 と俺は答えた。


「素晴らしい!」


「チッ」


 剛田、舌打ちはやめろ。

 あと、これを俺に言わせた先生、というかゲーム製作陣に意図を問い質したいぜ。

 しかし、誰も俺がカンニングしたとは思って無いみたいだな。

 これ何てチート能力!?

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