第8話 午後からの授業はダンジョンオンリー

 午前中の授業および小テストをスキル<攻略データベース>で乗り切った後は、


「皆、折角クラスメイトに成れたんだから、最初は皆で一緒にランチ摂ろうよ」


こうもたまには良い事言うわね!」


 八月一日ほずみの提案でクラスメイトらと学食に行く事に。

 ちなみにだが、俺は何人かは同行しないと思ってたが驚きの全員参加だった。


「マジかよ・・・」


 流石は主人公による鶴の一声である。

 感動した。

 そんな俺に対して、


「一番君何を驚いてるの?」


 と話し掛けて来たのは運河さんだった。


「いや、八月一日が声を掛けたからと言って、まさかクラスメイト全員が揃って学食に行くとは思ってなくてさ」


 お弁当持参の子だっていただろうに。

 いや、全寮制だからそれは無いか。

 ランチ代無料らしいし。


「あれ? 昨日の内に一年F組クラスチャットに流れてたよ?」


「クラスチャット?」


 何それ、初耳。


「ハジメははぶられてんだよ。察しろよ運河ー」


 と言ったのは剛田であった。

 嘲笑った顔がマジでムカつく。

 そしてそのまま勝ち逃げする感じで先に行きやがった。


「剛田君はああ言ったけど、クラス担任の春夏冬あきなし先生がクラスチャットに登録する様に言ってたよ? 後、誰が音頭を取っても良いけど、初日ぐらい皆でご飯食べなさいって」


「あ、そうなんだ・・・」


 何か、胸が痛いです春夏冬先生・・・


「あの・・・」


「ん?」


 運河さんがもじもじしている。

 トイレじゃないのは確かだ。


「一番君の連絡先教えてくれたら、私が招待してあげられるんだけど・・・」


「本当!? 運河さん、マジ女神!」


 今夜貴女の為にブルースライムを捧げます!


「こ、こんな事でそんな事言われても私困っちゃう・・・」


 運河さんは頬を赤らめた。

 可愛い。

 妹がいたらこんな感じなのかも。




 学校の学食は寮の食堂とは全くの別物だった。

 場所は当然として、内装とメニューからして違った。

 寮の食堂が昭和な社員食堂だとしたら、学食はちょっとお高めのホテルレストランと言う感じ。

 シックで且つゴージャス。

 御貴族様の生徒もここで食べるのだから、当然と言えば当然なのだろう。

 もしかして食器は銀製だったりするのだろうか?

 毒殺を避けるために。


 それにしても座席数に圧倒されるな。

 寮の食堂が二百席有るか無いかだったが、学食は優に千席は有る。

 天井も非常に高く、ゆったりとした空間が広がっていた。

 窓の外は庭園。

 心が洗われるや。

 だと言うのに、学食に入って早々揉め事が起きているのは何故なのよ?


「この席は僕らが先に――」


「最下位であるF組は端の席って決まってんだよ!」


 どうやら席の取り合いらしい。

 場所結構空いてるのにね。

 そこに、


「風紀委員の雲類鷲うるわしです。学食での喧嘩はお控えなさい」


 今朝会った先輩が仲裁を始める。

 それにしても本当に美人。

 それも只の美人じゃない、クールビューティーだ。

 遠くない未来の財務省バリキャリ女性。

 そんな彼女を主人公が朝の挨拶をするだけで口説き落とすって、なんだかなぁ。

 ゲーム制作陣の深すぎる闇を感じる。


「それで、原因は何かしら?」


 切れ味抜群の声だ。

 それに八月一日が応じる。


「僕達が先に押えた席を彼らが――」


「俺達はD組だ! F組は譲るのが筋ってもんだ!」


 だが、八月一日の声はかき消された。

 てか、揉めた相手D組かよ!

 御貴族様じゃん!

 駄目でしょ!

 そこは大人しく引き下がろうよ!

 騒いでメリットのある相手じゃ無い訳だし・・・

 案の定、雲類鷲先輩の判定は、


「序列によりD組の言い分を良しとします。F組はあちらの席に移動しなさい」


 であった。


「なっ!? なんで――」


 八月一日が言い返そうとするも、


「ダンジョンダイバー学園では序列の優劣が全て。入学説明会ではその様に説明を受けた筈です。それがお嫌なら自主退学しなさい」


 雲類鷲先輩が氷の如き言葉を被せた。

 八月一日は何か言いたそうではあったが、


「わ、分かりました・・・」


 E組に席を譲り、一番入口に近い席へと移動した。

 そんな一部始終を見た俺の横で、


「流石は雲類鷲先輩・・・」


 熱の籠った囁きが漏れる。

 発生源は、


「知ってるのか運河?」


 だった。


「い、いきなり呼び捨て!?」


「ごめん、つい」


 説明キャラとして扱ってしまった。


「つい?」


 運河は首をこてんと傾けた。

 何か可愛い。


「そ、それよりも、運河さんが知ってる事教えて」


「あ、うん。雲類鷲先輩は三年A組に所属してるだけでも凄いけど、その中でもトップのDDR《ダンジョンダイバーランク》を誇る人だよ。しかも三年生の中にはファンクラブがある人が何人もいるんだけど、その中でも特に会員数が多いんだって!」


 ファンクラブ!? あの人、そんなに人気があるのか・・・

 それがぽっと出の主人公に毎朝挨拶されるだけで口説き落とされる・・・

 重ね重ね設定の闇を感じるな。


 一年F組で席を確保した後はランチをよそう。

 ブッフェ形式なので好きなのを取れば良いだけだ。

 俺は五穀米にワカメの味噌汁、鶏むね肉の照り焼き温泉卵乗せと冷奴をチョイスした。


「ハジメはオヤジくせーな」


 と剛田が俺のお盆を覗いて言った。

 思わずドキッとした。

 こう言う所に実年齢が出てしまうのか。

 次回からは気を付けようと思う。

 そんな剛田のお盆には、ハンバーグ山盛り、ドーナツ山盛り、豚骨ラーメンにカレーライスだった。


「お子様か!」


「高一はまだ未成年だろうが」


 正論か。

 だがな、


たけるが太るになっても知らないぞ?」


 幾ら若いとはいえ、炭水化物を摂り過ぎるとデブる。


「バーカ、俺様は筋肉体質なんだよ。脂肪なんざ付いた瞬間に燃焼だ」


 と剛田はボディビルダーを真似たポーズをしながら言った。

 俺は呆れるしかなかった。


「んだよそれ!」


「別に―」


「ハジメの癖に生意気な」


 しかし、忠告はしたからな。

 それに引き替え、


「運河さんはチキンサラダと野菜コンソメスープ、フルーツヨーグルト・・・か」


 ヘルシーだな。


「へ、変かな?」


「別に変じゃないよ?」


「良かった」


 あからさまにホッとする運河さん可愛い。


「ただし、一つ付け加えるなら、炭水化物を少し取った方が良いかな」


「どうして?」


「この後、授業でダンジョン入るだろ? 身体を動かすからエネルギーに変わりやすいご飯やうどんなどの炭水化物を少しでも摂った方が良いんだよ」


「そうなんだ。一番君物知りだね!」


 運河から尊敬の眼差しが痛い。

 そんな大した事ではないんだよ。

 前世では年相応の男女が持つ、一般常識なのだから。




 そして、午後からの授業はダンジョンオンリー。


「一年E組、F組は席順で四人ずつ班を組み、その後ダンジョンに入りなさい。ダンジョン内では一人ずつ交代でスライムを倒す事。守れなかった場合は懲罰の対象とします。加えて、フロアボスの間と二階層には決して足を踏み入れてはなりません。ではE組よりダンジョンエントリー開始してください」


 と春夏冬先生がスタートの鐘を鳴らした。

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