第35話:自爆ドローン

 大分県宇佐市の別宅に戻ってからは、新しく集めた犬の訓練に専念した。

 鳥獣被害対策の狩りをやりたかったが、反社狙われているから今は危険だ。

 万が一にも他人を巻き込んではいけないので、諦めた。


 ただ、俺の代わりに各地の党員、衆議院議員、都道府県会議員、市町村会議員が保護した犬を連れて狩りに参加してくれた。


 本当は躾が終わった護衛犬を貸したかったが、リョクリュウに反対された。

 新しい犬達の躾が終わるまでは、古参の護衛犬を側から離すなと、強く厳しくメールで注意されてしまった。


 今の状態では、リョクリュウとはネットで話す事しかできない。

 まして今の宿泊先は、行動を慎まなければいけない陸上自衛隊別府駐屯地だ。

 隊内生活体験中だから、勝手に外部と連絡する訳にはいかない。


 決められた場所で、決められた時間中だけ、リョクリュウと話せる。

 全く話ができないよりはましだが、とても不自由だ。

 何より、直接会えないのがとても寂しい。


 まあ、寝泊まりを陸上自衛隊別府駐屯地にしたのは大正解だった。

 諦めの悪い反社の構成員が度々襲って来たのだ。

 リョクリュウの言う事を聞いて、古参の護衛犬を側に置いたのも正解だった。

 

 携帯式対戦車ロケット弾発射器や重機関銃の射程距離一杯まで、古参の護衛犬と即応予備自衛官に巡回してもらっていなければ、俺は殺されていた。


 だが何度も反社に襲われた事で、俺と党の支持率は鰻登りだ。

 俺の考えを蛇蝎のように毛嫌いする者も少数いるが、多くの国民からは、命懸けで理想を実現しようとしていると、高く評価してもらえた。


 主義主張の違う人も、考え方は違うが、命懸けで政治活動をしていると、一定以上の評価をしてもらえている。


 その多くが、主義主張は違うが、命懸けでやろうとしているのなら、試しに1度くらいはやらせても良いと言ってくれていた。


 特にテレビ局の不正と犯罪と悪行を証明して、電波利用料を3兆円も増やした事が評価されていた。


 新聞社が部数を偽って広告掲載料を不当に高く取っていた事を証明しただけでなく、新聞販売店に性接待を強要した事まで証明したのも評価されていた。


 反社が地下カジノを経営して暴利を手に入れ、国会議員を使って公営のカジノを含む統合型リゾート(IR)を邪魔していた事を暴いたのも評価されていた。


 反社が動物商売を資金源にしている事を暴き、動物を護る政策を実現させた事も評価されていた。


 その全てを成し遂げるのに、何度も殺し屋に襲撃された事、何度殺されかけての理想を諦めず、命懸けで正義を貫いた事が評価されての圧倒的な支持率だった。


 俺が襲撃されるたびに、警視庁と都道府県の警察本部が、面目にかけて反社の撲滅作戦を実行した。


 警察内に入り込んでいた反社の構成員や準構成員を逮捕して、自浄能力がある事を示せたのも、マスゴミの袋叩きを恐れなくてもよくなったからだ。


 だが、それでも、日本各地に潜伏した反社の構成員と準構成員を、全員逮捕できないでいた。


 後で分かった事だが、彼らは韓国、北朝鮮、中国、ロシアから活動資金と武器を与えられ、警察の捜査から隠れる潜伏先まで提供されていた。


 リーン、リーン、リーン、リーン


 宇佐市の家で犬達を躾していると、リョクリュウから緊急連絡がきた。


「敵襲、反社が攻撃してくるぞ」


 俺はスマホを操作しながら叫んだ!

 

「伏せろ、ドローンだ、自爆型のドローンが突っ込んでくる」


 スマホのスピーカーからリョクリュウの声が響く。

 リョクリュウから非常時にするように言われていた姿勢をとる。


 これまではリョクリュウが電波妨害をしてくれていた。

 敵の自爆ドローンを完璧に防いでくれていた。

 だが今回に限って、反社の方が電波戦でリョクリュウを上回ったのだ。


 俺は頭を庇いながら地面に身体を投げ伏せる。

 少しでも爆風の影響を受けないように地面に伏せる。

 俺の身体の上を何十頭もの護衛犬が覆ってくれる。


 現役の自衛官は、我が身の安全よりも敵の迎撃を優先した。

 自爆ドローンが襲って来るのを、自動小銃で撃ち落とそうとした。

 セキュリティポリスは、伏せた俺の周りに立って別動隊の襲撃に備えてくれた。


 即応予備自衛官達は、担当していた護衛犬を放って自由にさせた。

 遠距離から自爆ドローンを操っている者を攻撃するためだ。

 僅かな時間に、それぞれがやれる事をやったが、ついに犠牲が出てしまった。


 ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン。


 家、テント、農作業小屋など5カ所に自爆ドローンが突っ込んで来た。

 現役自衛官は自動小銃で自爆ドローンを撃ち落とそうとしたが、無理だった。

 俺の盾になろうとしたセキュリティポリスは、爆風に吹き飛ばされた。


 自爆したドローンの破片が、自衛官とセキュリティポリスを襲う。

 無慈悲な残骸は、自衛官とセキュリティポリスの命を奪っていく。

 即応予備自衛官に放たれた護衛犬が、敵を殺そうと一直線に駆ける。


「ウゥウウウウウ」


 爆発音を聞いて、地区の人達も襲撃に気がついたのだろう。

 防災スピーカーから緊急を告げるサイレンが鳴り響く。

 護衛犬が寝るために掘った事にしてある、窪地の中で全てを聞いていた。


 反社の襲撃を受けて危険な状況になっている事は、リョクリュウがネットで自衛隊と警察署に知らせてくれる。


 リョクリュウが密かに集めて躾している、九州中から集めた野犬の群れが襲撃者に反撃しているはずだから、敵の追撃でとどめを刺される事はない、と思う。


 俺がやるべき事は、このまま窪地の中にいて、死んだふりを続ける事だ。

 下手に立ち上がると狙撃される恐れがある。

 敵の全滅が確認できるまでは、絶対に動くなとリョクリュウに言われている。


 ただ、リョクリュウの野犬部隊が返り討ちされる可能性もある。

 その時には、襲撃者は俺を殺せたか確認しにやって来る。

 俺が生きていると分かったら、止めを刺すだろう。


 だが、俺もリョクリュウも黙って殺される気はない。

 死んだふりをしているのは俺だけではない。

 護衛犬の多くが死んだふりをしていて、敵を待ち構えているのだ。


 敵が不用意に近づいて来たら、護衛犬な喉を咬み千切ってくれる。

 相手が反社の構成員程度なら、護衛犬が近接戦闘で後れを取る事はない。


 問題は、襲撃者の中に特別な訓練を受けた者がいる場合だ。

 自爆ドローンを用意して操作する程度なら、反社の構成員でもできるだろう。


 だが、リョクリュウの電波妨害を突破するなど、特別な訓練を受けた工作員以外は絶対に不可能だ。


 この襲撃には、どこかの国が手を貸している。

 特別な訓練を受けた工作員が、生死の確認にまで手を貸していたら、俺も護衛犬も助からない。


 理想のために死ぬ事は覚悟していたから、自分が殺されるだけなら諦められる。

 問題は、リョクリュウが俺を助けに来る事だ。

 人間に姿を見られるのを覚悟して、俺を助けに山から下りて来る事だ。

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