第34話:帰省?

 俺に巻き込まれて殺される事を恐れた国会議員ばかりだったので、俺が提出した議案は全て可決され、臨時国会は早々に閉会された。


 ただ、俺が何所に行くかが東京、大阪、大分で大問題になった。

 国会開催中は全力で警護してくれた警視庁と自衛隊だが、できれば早く大阪か大分に戻って欲しいと思っているようだ。


 一方俺の選挙区がある大阪は、東京に残るか、東京に行くまで住んでいた大分県に戻って欲しいと思っているようだ。


 俺が戻りたいと思っている大分県は、東京や大阪よりも正直だった。

 県警には十分な警護をする人手がないと、正直に言ってきた。

 そう正直に言われると、どうしても大分に帰りたいとは言い難い。


 だが、俺から見て1番安全なのが、リョクリュウがいてくれる大分県宇佐市だ。

 今も俺を守り続けてくれている、警護犬を躾けてくれたのは、他の誰でもないリョクリュウなのだ。


 これまで躾けてくれた警護犬に加えて、鍛え甲斐のありそうな保護犬が、日本中から集められている。


 パミーミルと呼ばれていた、反社構成員が行っていた子供生産工場。

 そこから救い出した犬の中から、優秀な護衛犬に鍛えられそうな犬を、党員が一時的に引き取り、俺が引き渡す事になっているのだ。


 そんな数多くの犬達を鍛えられるのは、リョクリュウだけだ。

 鍛える場所も、買い増した山林がある大分県だけだ。

 だが、大分県が反社の襲撃を恐れる気持ちも良く分かる。


 だから、買い増した山林の中でテント生活すると言った。

 敷地内の入った者は、反社の殺し屋と判断して、護衛犬に咬み殺させると言ったのだが、それでも大分県には来ないで欲しいと言われてしまった。


 セキュリティポリスが所属している、警視庁警備部警護課に党の代表という立場で、要人警護を依頼する事はできる。


 これまで警護してくれていたのは、大政党の党首だからだ。

 1度殺されかけていたし、反社に狙われているのが明らかだったからだ。


 同じ理由で要人警護を依頼する事はできるが、警護時間は自宅を出て自宅に戻るまでだから、家のいる間はどうしようもない。


 国会議事堂や議員会館は、普段から衛士や警察官が護っているし、俺がいる間は警備の人数が大増員されていたが、宇佐の家には護衛がいない。


 本当はリョクリュウがいてくれるから、自宅にいる時が1番安全なのだが、それだけは絶対に公言出来ない。


 ただ、反社撲滅作戦が完遂したら、反社の襲撃を心配しなくてもよくなる。

 少なくとも、表向きは自由に行動できるようになる。

 リョクリュウと会って楽しく話す事ができる。


 だから、一時的な我慢と割り切って、寝る場所を何所よりも安全な場所にした。

 少しでもリョクリュウの近くに居たかったし、襲撃者を誘いだして皆殺しにできると判断して、それまでの間だけ我慢する事にした。


 自衛隊にお願いして、陸上自衛隊別府駐屯地に寝泊まりさせてもらう事にした。

 表向きは陸上自衛隊別府駐屯地の宿泊視察という事になっている。


 自衛隊は、圧倒的な権力を持つ俺の支持が欲しかったのだろう。

 防衛予算を増やしてもらいたいのかもしれない。

 俺の連続宿泊視察をよろこんで受けてくれた。


 俺の移動には、第41普通科連隊に配備されている、軽装甲機動車と高機動車と73式小型トラックを使ってくれることになった。


 その上で警視庁警備部警護課に、大分にいる間の要人警護を依頼した。

 警視庁が防衛省に対抗心を燃やしたのかもしれない。

 思っていた以上の人数と車列警護車両、俺を乗せる防弾車両を出してくれた。


 これだけの警護要員を確保したうえで、大分県に戻りたいと連絡した。

 日中は自衛隊とセキュリティポリスが護ってくれる事と、寝泊まりを陸上自衛隊別府駐屯地にした事で、大分県も戻るのを許してくれた。


 東京から大分県宇佐市まで戻るのに、陸上自衛隊とセキュリティポリスの車列が前後を守ってくれた。


 マスゴミが雇った殺し屋達が、高速道路で俺を襲った事は、日本国民なら誰でも知っている大事件だ。

 

 同じ事が起こらないように、陸上自衛隊と警視庁は厳重な警備をしてくれた。

 その車列の中には、元自衛官も数多くいた。


 警護犬を使って周辺を警備してくれる党職員として、元自衛官を雇用したのだ。

 全員が即応予備自衛官で、毎月党に雇用企業給付金として42500円払われる。

 雇用企業給付金が欲しかったわけではないが、結構助かる。


 予備自衛官を選ばなかったのは、雇用企業給付金がなかったからではない。

 予備自衛官には、退職してから1年以上経った者や予備自衛官補もいたからだ。


 退職後1年以上経過して身体がなまっている者を、十分な自衛官経験がない者、必ず襲撃されると分かっていて、雇う事などできなかったのだ。


 ただこれからは、即応予備自衛官になれない、定年まで勤めあげた自衛官も党の職員として雇いたいと思っている。


 警護に来てくれた陸上自衛隊の指揮官が、50代で定年退職しなければいけない、下士官以下の再就職が大変だと教えてくれたのだ。


 命懸けで助けてくれる人が、部下の再就職に心を痛めているのだ。

 不正にならない範囲で全力を尽くすのが人の道だと思う。

 新しい職場を考え出すまでは、党で雇うしかない。


 パーキングエリアごとに休憩して、尾行する者がいないか確認した。

 同時に、警護犬として躾ける犬をパーキングエリアで党員から受け取った。


 受け取った犬は、元自衛官の党職員がマイクロバスで運んでくれる。

 これまで使っていたマイクロバスに加えて、新たに引き取る犬を全部運べるように、5台のマイクロバスを買い増していた。


 法定速度を守り、頻繁に休憩も取って東京都から大分県まで移動したので、途中のパーキングエリアで夜営する事になった。


 予定通り、2日目の午前中に大分県宇佐市の別宅に到着できた。

 別宅敷地内に入ったら、十分な躾をされた古参の護衛犬は自由にさせた。

 新たに護衛犬候補として集めた犬には基本的な躾をした。


 護衛の自衛官とセキュリティポリスは、周辺警備に集中してくれていた。

 しばらくすると区長が大工さんを連れて来てくれた。

 新しく入った犬達の寝床として、テントを増やすためだ。


 以前に建てたのと同じテントを建てたが、自宅裏の敷地は平坦な場所に限りがあるので、テントを5つもつなげる事はできなかった。


 一気に200頭以上の護衛犬候補が集まったので、多くの寝床が必要だった。

 以前のテントは、リョクリュウが寛げるように、これ以上犬小屋を増やす事ができないので、点在させてでも数多くのテントを立てる必要があった。


 今日はテントを立てる場所を決め、基礎の型枠を造ってアルミの支柱を入れて固定してから、コンクリートを流す。

 養生期間を開けてからテントを張って完成だ。


 だがテントを張るまでは、犬小屋の屋根だけが雨露をしのいでくれる。

 それが分かっていたので、犬小屋は広くて丈夫な物を買ってあった。

 かなりの出費だが、犬達に不自由な生活はさせられない。


 陽が暮れる前に宇佐の家を後にして、陸上自衛隊別府駐屯地に向かった。

 自衛隊とセキュリティポリスに護られる、とても物々しい車列で進む。

 一般人でも申し込めば認められる、自衛隊隊内生活体験扱いになっている。


 とはいえ、無理に何かさせられるわけではない。

 自衛隊員に悪影響を与えるような言動をしなければ良いだけだ。


 即応予備自衛官の党職員は、毎年の訓練で駐屯地内の宿泊には慣れている。

 セキュリティポリスは自衛隊と一線を引きたいようで、駐屯地に泊まる事無く、出張旅費の範囲でビジネスホテルに泊まった。

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