第14話:殺人未遂
俺は運転に自信がない、壊滅的な運動音痴で縦列駐車もできない。
だから、運転を助けてくれるバックカメラだけでなく、左右の状況も確認できるようにサイドカメラも取り付けてある。
カメラはタダのカメラではなく、ドライブレコーダーになっている。
前後左右に8個ものドライブレコーダーをつけてあり、ライブ配信ができる。
過剰なのは分かっているが、これくらいやらないと不安で仕方がなかった。
マスゴミの執拗な追跡で交通事故となり、亡くなられたダイアナ元妃の事もある。
俺の事を不愉快に思っているヤカラが、危険な煽り運転をしてくる可能性もある。
それを少なくしようと思えば、ドライブレコーダーをこれ見よがしにつけて、ライブ配信するしかないと思ったのだ。
危険な車間距離で後をつけ回したマスゴミの手先がいて、危険運転で逮捕されて裁判中なのだから、過剰なくらい準備してしまうのもしかたがない。
これだけやれば、刑務所に入る事を箔がついたと言うような、余りにも非常識な連中以外は、手出しして来ないと思ったのだ。
最初は順調だった、ゆっくりとした速度で九州某県に向かった。
40年近くペーパードライバーだったから、高速道路も一般道も怖い。
どちらかといえば、広くて人も自転車もいない高速道路の方が怖くないくらいだ。
小まめにパーキングエリアで休息を取り、箱の中に隠したリョクリュウの様子を確かめて水と食事を与えて、少しでも眠いと思ったら仮眠する。
西名阪自動車道から大阪中央環状線、中国自動車道に入って走っていると、パーキングエリアで何度も休憩を入れているのに、同じ大型ドラックがいる。
マスゴミが良く使うバンやマイクロバスではなく、トラックを使って後をつけているのかと思ったが、そんな生易しい事ではなかった。
事も有ろうに、ドラマや小説のような殺人を考えていやがった。
鳥取自動車道との合流場所を過ぎ、佐用町を越えた山中で、大型トラックに前後と右側をふさがれ、遮音壁から外に叩きだされてしまった。
確実に殺すために下調べしていたのだろう。
左側が高い崖になっている、確実に外に押し出せる場所を選んでいた。
どう考えても助からない高所から叩き出されてしまった。
確実に死んだと思ったのに、不思議と生きていた。
体中傷だらけで、全身の色んな所を骨折していたが、何故か生きていた。
どうやって箱から出たのか、リョクリュウが心配そうな目で見ていた。
「シャ」
声をかけてくれて直ぐにリョクリュウがいなくなった。
朦朧とした頭で、止めを刺しに来る連中を返り討ちにしてくれるのだと思った。
★★★★★★
俺を殺そうとした連中の追撃はなかった。
猛獣に食い殺されたと思われる死体が、12人分発見されただけだ。
俺を殺そうとしたのは、マスゴミが放った刺客だとネット中で評判になった。
マスゴミは否定したが、世論が収まらなかった。
政権与党もこの好機を逃さず、テレビの放映権を入札制にする審議に入った。
各テレビ局の社長が国会に証人喚問され、徹底的に追及された。
普通ならマスゴミの味方をして反対する野党も、流石に反対できなかった。
一部反対する弱小野党もあったが、ネット民が党主や所属議員の不正を突き止めてさらしてくれたので、途端に病気になって国会に出て来なくなった。
俺は長期入院する事になったが、警察が厳重に警護してくれた。
俺と同じようにマスゴミに狙われ、叩かれ続けてきた警視庁が、何としてでもマスゴミから守ろうとしてくれたようだ。
一部のマスコミが、警察が個人の警備に税金を使うのはいけないと非難したが、俺を支援してくれるネット民が黙っていなかった。
これまでストーカー被害者を警察が警護をしなかったのを非難していたのに、殺されかけた人の警護を否定するのは、マスゴミが殺人を依頼した本人だからだと、徹底的に叩いてくれた。
マスコミの社長や役員だけでなく、全社員だけでもなく、その家族までネットにさらされ、小中高の学生は不登校になるくらい虐められた。
人殺しの家族だと叩かれ、自宅に落書きされるのは当たり前だった。
一部の家は投石までされて、全ての窓ガラスが割られる被害があった。
長期入院している間に、衆議院の総選挙があった。
俺自身は何もできないので、親戚の兄貴と地域の元市会議員に任せた。
地域の元市会議員は亡父の親友で子供の頃からの知り合いだ。
無所属の国会議員を集めて政党になったので、比例名簿も提出できた。
俺が党首なので、比例名簿の1位に名前が載った。
まだ生まれ育った市に転出届を出していなかったので、故郷の小選挙区から出馬する事になった。
入院中でまったく選挙運動できなかったのに、2位にトリプルスコアーの大差をつけて当選できたのは、支援してくださったネット民のお陰だった。
前回の衆議院銀選挙では60%を切っていた投票率が90%弱だった。
俺に勝たせたいと思ってくれた人、マスゴミの横暴を許せないと思っていた人が、周りの人達を説得して投票させてくれたのだろう。
テレビの放映権を入札制にする以外は、何の縛りもない新政党だ。
前歴に不正や疑惑があっても関係なく人を集めた烏合の衆だ。
自薦の要件は、被選挙権があって選挙費用を自分で出せる事だけだった。
だから、与野党関係なく元国会議員が集まった。
他にも、所属政党からでは国会議員として推薦してもらえない、都道府県議員や市町村議員が集まった。
全員が選挙区から出馬すると同時に比例名簿に記載された。
比例名簿の記載順は、党首の俺が1位なのは当然として、後は政党にするために集まってくれた現職の国会議員が優先だった。
候補者の大半は新人なので、比例名簿の順番を決めるのに何の判断基準もない。
元国会議員でも、選挙区が違うので落選時の得票数で決める訳にもいかない。
俺は知らなかったが、兄貴と元市議会議員が政党への寄付金で決めていた。
政党寄付金は税金を特別控除されるが、その年分の所得税額の25パーセント相当が限度額なので、基本金を稼いでいる者が比例名簿の上位に来る事になった。
俺の主義からは極端に反するが、故郷を離れた場所に長期入院していたので、どうにもならない。
兄貴や元市議会議員は、俺の性格を知っているから知らせなかったのだろう。
何を基準にしても不平不満が出るのは分かっていたので、分かり易く政党への金銭的貢献度としたのだろう。
同じ選挙区に複数の出馬希望者がいた場合も、寄付金額で候補者が決められた。
被選挙権のない犯罪者でない限り、寄付金額が優先された。
候補者がいない選挙区に落下傘で出馬する覚悟があるなら、寄付金額が少ない者でも選挙区を変えて立候補はできた。
兄貴と元市議会議員の戦略は、全ての選挙区で立候補者を立てる、だった。
立候補者が多いほど、比例では有利になる点が多い。
それと、俺に吹いている追い風を利用できれば、落下傘でも勝てると見たのだ。
兄貴とおじさんの戦略は見事に当たった。
今の与野党に不信感を持っていた人たち、浮動票が全て俺に流れ込んだ。
何と、衆議院だけで150議席も獲得できた。
統一地方選挙でも凄まじい追い風が吹いた。
退院した時には、国会議員150人、都道府県会議員783人、市町村会議員8599人を擁する大政党の党首に成っていた、正直逃げ出したかった。
だが、テレビの放映権を入札制にするまでは、逃げ出せなかった。
国会で審議されたが、各テレビ局、親会社の各新聞社が同盟を組んで、大規模な裁判に持ち込んだので、遅々として進んでいないのだ。
俺はリハビリが必要な状態だったが、無理して東京に向かった。
同じ政党の国会議員に支えられて、衆議院の初招集に出席した。
過半数割れした元政権与党との連立は、元国会議員に任せた。
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