僕と風俗嬢!②

崔 梨遙(再)

1話完結:1700字

 僕は30代の前半、彼女がいなかったので時々風俗店に行っていた。元々、自分の好きなタイプを写真指名しているのだから、話が合えば気に入ってしまう。気に入れば指名する。指名して会い続ければ自然と親しくなる。その時、僕は真琴という女の子の馴染みになっていた。


 その日は、何かが違った。予約時間10分前に店に入ったが、店の奥が騒がしい。少し待っていると、汗をかきながら店員さんが来てくれた。


「崔さん、今日は真琴さんでしたよね、それが……今日はトラブルがありまして、真琴さんが勤務出来るか……ちょっと……わからなくて……」

「崔君やろ? 結構前からの予約やし、それだけ行って家に帰るわ。病院にも行くけど」

「崔君、お待たせ」


 店の奥から真琴が現れた。いつもと違うところが2つ。1つは、いつも待機所から来るので、外から店にやって来る。それが、今回は店の奥から出て来た。もう1つ、真琴の左目に青たんが出来ていてとても腫れていた。


「真琴、大丈夫?」

「とりあえずホテル行こう。話はホテルでするわ」


 珍しく、僕の腕にシッカリと腕を絡めてくる真琴。少し、震えていた。何かに怯えているようだった。



 ホテルに入った。


「さあ、何があったか話すわ」

「その左目、殴られたんやろ?」

「やっぱり、わかる?」

「僕も小学生の時とか、中学生の時とか喧嘩で青あざ作ったことがあるから。殴られた傷だっていうのはスグわかったわ」

「ほんで、殴った相手なんやけど」

「お客さんやろ? ほら、冷たいスポーツドリンクで冷やせや。相手はどうせ酔っ払いやろ?」

「うん、酔っ払い。ああ、冷たい缶が傷に当たって気持ちええわ」

「この後、警察と病院に行かなアカンで」

「うん、勿論。犯人は捕まえてるから、警察に突き出すねん」

「今から行くか? 傷が大きい方が証拠写真にはええで」

「今日、90分やろ? この90分が終わったら行くわ。この90分は約束やったし。さあ、脱ごうや」

「脱がへんわ」

「なんで? せえへんの?」

「そんな痛々しい顔を見せられて、そんな気分になるわけないやろ。マジ、お金は払うから今スグ行ってもええで」

「私、今は冷静ちゃうから少し時間が必要やねん。90分も経てば落ち着くと思う」

「その間に、何かしてほしいことある?」

「ほな、崔君、腕枕してや。崔君の腕枕、落ち着くねん」

「はい、左腕」

「うん、ありがと」


「雑談してたら、結構落ち着いて来たんとちゃうか?」

「うん、ありがと。落ち着いた」


 その時、残り10分のベルが鳴った。


「ああ、もう終わりやな」

「今日はプレイできなくてごめんな」

「ええよ、真琴の時間を買ってるだけで、真琴の体を買ってるわけやないから」

「どうしよう? この青たん、どのくらいで治るかな?」

「メイクで隠すにしても最低3日、最悪は1週間やな」

「うわ、1週間店に出られへんのか」


 僕は財布の中を見た。5万円ほど入っていた。


「真琴、これあげるわ」

「5万? なんで?」

「今、これだけしかないから」

「受け取られへんよ」

「いやいや、これはお見舞いや。早く治ったらええなぁ」


 真琴は5万円を受け取り、見つめていた。


「なんで、お金くれるの?」

「だから、お見舞いやって。それに、僕は昭和の男やからデート代でも何でも、男が出すものやと思ってるから。生々しい傷痕を見せられてお見舞いを渡さんわけにはいかんやろ」

「ありがとう」

「復帰したら、メールちょうだい。また指名して店に来るわ」

「……」



 数日後、真琴から電話があった。


「傷、すっかり治ったわ。仕事にも出れるわ」

「そうか、良かったなぁ。ほな、指名してお店に行くわ」

「なあ、どこか遊びに行こうや」

「遊びに? お店に行くで」

「ちゃうやんか、プライベートデートやん。で、どこ行く?」

「ほな、水族館と屋内プールとテーマパーク、どれがいい?」

「プール行きたいんやろ?」

「うん、真琴の水着が見たい」


 屋内プール。真琴の黄色いビキニ姿が美しかった。


「今日は、全部私が払うから」

「アカンよ、デート代は僕が払うよ」

「なんで? この前お見舞いももらったで」

「あれはあれ、これはこれ」

「私、崔君にお金使わせてばかりでええんかなぁ」



「昭和の男は、デート代を女性に払わせへんのや!」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と風俗嬢!② 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る