主人公

 決闘とは、貴族の間で行われる戦闘である。

 互いのプライドや要求を賭けて、立会い人を用意双方の納得した内容で勝敗を決める。

 決闘を申し込まれた者は、大抵が断ることができない。

 それは貴族が『決闘』というシステムを神聖視しているため、無下にするのは「貴族らしくない」ということらしい。


 相手は爵位こそ劣るものの、立派な貴族。

 故に、この勝負断ることができない。

 無論、イクスとて相手は主人公───破滅フラグの乱立者だ、実力を見せつけて逆らえないようにしたい相手ナンバーワン。

 この決闘、断るわけにはいかな───


「……すっげぇ、やる気出ない」

「主人!?」


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、と。

 先程の雄叫びが嘘だったかのように、気だるそうに背もたれへもたれ掛かるイクス。

 そんな姿を見て、賭けの対象にされたクレアはすぐに襟を掴んで揺さぶった。


「主人! 何故そうもやる気がないんだ!? ほら、あれだけ望んだ喧嘩ではないのかさっきの威勢が私のワードが出た瞬間に消えるとなると涙が出そうになるんだが!?」

「いや、なんというか……需要がある人間に商品って渡すべきだと思うんだよ。ほら、買ったのはいいけどサイズが合わなかった時とか、サイズが合う人に渡した方がいいっていうか」

「つまり私は主人にとって不用品だと言いたいのか!?」


 初めこそ「ヒロインじゃないけど、馬鹿にした相手を従えられるやったね!」的な考えだったのだが、クレアが予想外の方面に捻じ曲がってしまったため、要らぬ別方向の風評被害に遭っている。

 正直、引き取ってくれるなら引き取ってくれるでありがたい。ずっと傍において処分に困るのであれば。


「しゅ、主人のためなら私はなんでもするぞ!? まだ、強くなる秘訣を少ししか学べてないんだ! 望むなら、───」

『『『『『(ざわざわざわ)』』』』』

「……そういうところが俺の手に余るんだよ」


 最近、その発言と現在進行形の際どい格好のせいで、イクスの目には『美少女(笑)』状態になってしまっていた。


「ご安心ください、クレア様……なんだかんだ言いながら、ご主人様はクレア様を見捨てません」

「セ、セレシアぁ……」

「(使い潰し終えるまでは、ですよね?)」

「(アイコンタクトでゲスな同意を求めるんじゃない)」


 でもまぁ、そんな感じでいいけど、と。

 イクスはクレアにそっと耳打ちをする。


「(っていうか、お前知り合いなの?)」

「(まぁ、パーティーで何度か話した仲だな。あとは一緒に剣を振り合った仲でもある)」

「(結構親密じゃねぇか。もう心配してくれるお友達のところに行っちゃえよYou)」

「(い、今は主人の傍にいたいんだっ!)」


 はてさて、好感度を上げるようなことをしただろうか?

 不思議に思ったイクスは視線を上げてユリウスの方を向く。


「んで、やるのはいいけど……とりあえず、理由だけ聞こうか?」

「皆から聞いた……どうやら、決闘ではないが模擬戦の約束でクレアさんに際どい格好をさせ悦に浸っている、と」

「ふむ……」


 チラリと、イクスはクレアを見る。

 髪はサイドに纏め、胸元は谷間がハッキリと見えるよう第二ボタンまで解放、スカートは見えるか見えないかのギリギリを攻めており、更に───


「際どいっていうよりかは、アウトだな」

「アウト!?」


 だって、ノーパンだし。


「ほらー、お前のせいで変な誤解受けてるじゃん。いいからさっさと普通の制服に着替えて来いって」

「だ、だが……これも鍛錬なのだろう!? こうすれば自ずとメンタルが鍛えられるとセレシアから聞いたぞ!?」

「いや、別に新しい世界が目覚めるだけで別に───」

「その通りです」

「セレシアさん!?」


 どちらかというと諸悪の根源は隣な気がする。


「はぁ……セレシアもあんまり悪ノリするなよ。ここから始まってんだぞ、許容外の風評被害は」

「ですが、ご主人様……お好きなのでしょう?」

「うむ、大好きだ」

「であれば、下僕がこのような格好をするのは当然です」


 そう、なのか?

 なんて説き伏せられる一歩手前まで来ているイクスとクレアは首を傾げた。


「嫌がる女の子に無理矢理そんな格好をさせるなんて……僕は許せない」

「ちょっと、話聞いてた?」

「だから───」


 ユリウスは懐から手袋を取り出し、地面へ叩きつける。

 そして、正義感溢れる男の子は指をさして教室中に響き渡るようにして言い放った。


「拾ってくれないか? そして、僕と決闘してもらう……勝った暁には、クレアさんを解放してもらうよ」


 この構図を傍から見ていれば、「まるでゲームみたいだ」と口にしていただろう。

 主人公が女の子のためにクズな悪役へ決闘を挑む。

 もしも、これでユリウスが勝てば周囲やクレア、他のヒロイン達の好感度はかなり上がるに違いない。

 しかし───


「……まぁ、色々誤解があるかもしれんが」


 イクスはゆっくりと拾い上げる。

 口元には、獰猛という言葉がよく似合う笑みが浮かんでいた。


「どうせお前には喧嘩を売るつもりだったんだ! 少しばかり釈然としないが、ここいらでてめぇの頭を地面に擦りつけてやるよッ!」


 相手はゲームの主人公。破滅フラグの乱立者。

 そんな相手に実力を見せつけることができれば、自ずと破滅フラグも折れてくれるはず。

 加えて───


「くっくっく……てめぇのその正義感に満ちた顔をぶん殴って泥水啜らせて悔しがる表情に変えたら最高に気持ちいいんだろうなァ……!」

「……主人、ちょっと発言が酷いぞ」

「ふふっ、それでこそご主人様です♪」


 まぁ、鬱憤だったり文句だったり不満だったり苛立ちだったりいうものがあるわけで。

 イクスは再びやる気を取り戻し、不敵な笑みを見せるのであった。

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