お礼はいらない
目の前に倒れる三人。
若干一名、味方の魔法を喰らって重傷チックな見た目こそしているものの、しっかりと息はある。
単純に気を失っているだけ。
そんな男達を見て、イクスは大変満足そうに―――
(ふははははははッッッ!!! うむ、気持ちよかったサンドバッグありがとうッッッ!!!)
まぁ、何がとは言わないが。
人生思い通りにはいかないということで少しばかり鬱憤が溜まっていたわけで。
決して憂さ晴らしができたとかそういうのではないが、とりあえずイクスは気持ちよかった。
「そこのヒロイン!」
「ふぇっ、私!?」
「どうだ、ちゃんと見たか!?」
期待を込めた眼差しでアリスを見つめる。
すると、気圧されてしまったからか、それとも見つめられたからか……頬がほんのりと赤く染まり───
「う、うん……ちゃんと見てたよ。強いね、イクスくんは」
「はっはっはー! そうだろうそうだろう!」
高笑い、留まることを知らなかった。
「ご主人様」
「うぉっ!?」
高笑いを見せていると、唐突にセレシアが真横へ現れる。
「……ねぇ、心臓を慮ってくれないわけ? 毎回そんな登場されたら、俺の寿命がめりめり減っていくわけよ」
「ご安心ください。セレシア辞書によると、可愛いメイドに膝枕をされると寿命が延びるそうです」
「美少女ってだけで不老に届くんだったら、君にとっては凄く生きやすい世界だろうね」
あとでしてもらお、と。
メイドのご厚意に全力で甘えようと決めるイクスであった。
その時、今度は少し離れた場所からクレアがゆっくりと近づいてくる。
「また派手にやったな、主人。一応言っておくが、この学園で喧嘩はご法度だぞ?」
「今日一番に喧嘩を吹っ掛けてきたお嬢さんにいいことを教えてあげよう……この喧嘩に関しては、俺が責められることなどないのだとッッッ!!!」
そう、あくまで今回は絡まれている女の子を助けるため。
実際には「ヒロインに実力を見せつける」&「そこはかとない憂さ晴らし」というのがあるのだが、そういう言い訳ができるのでセーフ。
まぁ、少しばかり「絡まれて可哀想」という気持ちもあったため、あながち言い訳も嘘ではない。
加えて、プライドが高そうな野郎共がことを公にしようとはしないだろう。
そこは、身内以外誰も見ていないことが幸いしている。
「ふむ、そうか……いきなり走り出した時は何事かと思ったが、主人がそういうのであれば問題ないだろう。というより、こいつらも学ばん奴らだな」
「知り合いなの?」
「あぁ、一時社交界では話題になった人間だ。教会の聖女を無理矢理連れ出して危険な目に遭わせたと」
「ふぅーん」
あの時かな? イクスの脳裏にこの前の魔物との戦闘が浮かび上がった。
「そんな奴らが虐めていたとなれば、たとえこいつらが変なことを言ったとしても信じられはせん。前科が直近であるからな」
「確かに、ご主人様が責められることはないでしょう……もちろん、彼女がどう発言するかにもよりますが」
チラリと、セレシアは横を向く。
そこには、どこか熱っぽい瞳を浮かべているアリスの姿があって―――
「ふぇっ!? あ、あっ……え、えーっと……そ、そのっ!」
全員の視線が集まったことに気づき、アリスは焦り始める。
なんで? 首を傾げるイクス。
一方で、セレシアは「ご主人様の女たらし」と頬を膨らませ、クレアは「ふむ……鍛錬でもしたいのか?」などと的外れなことを思っていた。
とはいえ、このままだと話が通じない。イクスは近づいて、とりあえず体をマジマジと見つめる。
「…………」
「イ、イクスくん……?」
「……うん、怪我はしてないな。よかったよかった」
「~~~ッ!?」
アリスの顔が真っ赤に染まる。
しかし、すぐにアリスは誤魔化すように顔を振って勢いよく頭を下げた。
「た、助けてくれてありがとうっ! その、この前の時も……」
「気にするな、やりたくてやっただけだからな」
そう、見せつけたくて見せつけた。
自分との実力差はこれだけあるのだと。三人がかりで怯えていた相手を倒してみせた……逆らっても届かないのだと、思ってもらうために。
もし今後、破滅フラグが立とうとも自ら今日のことを思い出して折ってくれるだろう。
(まぁ、仮にフラグが立ったとしても俺が折ってやればいいけどな!)
そのためには帰ってまた特訓だ、と。
イクスは一人勝手にメラメラと闘志を燃やし始めた。
「え、英雄様……」
「ん?」
「あ、ううんっ! や、なんでもないっ! 気にしないで!」
何やら直近で聞いたようなセリフが聞こえたんだが? イクスは首を傾げる。
しかし―――
「あの、イクスくん……お礼、させてほしいんだけど」
「え、いいよ別に」
「けど、させてほしいのっ! この前も助けてくれたし、流石に二回も助けられて……」
目的が達成された身としては、別にお礼などどうでもいい。
まぁ、この様子がどこか恐れおののいているようには見えないが、やりたいことができた自分としてはそれ以上は望んでいない。
というより、転生前よりも裕福な暮らしができている現状で、これ以上望むものがない。
「自慢じゃないけどさ、これでも商会の娘なわけだし……ほしいものはあげられると思うんだけど」
「うーん……」
なんだろうこの展開前にもあったぞ。そう、ストーカー聖女の時に。
となれば、この子もまたエミリアの時みたいに無理難題でも言えば引き下がってくれるだろう。
目的が達成された今、もう彼女とこれ以上接点を増やす必要なんてないのだから―――
「じゃあ、土地」
「ふぇっ?」
「土地がほしい。何をしても問題なさそうな、土地」
いくら貴族であろうが、一介のお嬢さんが土地など用意できるわけもない。
イクスは我ながらいい考えだと、ご満悦な表情を見せた。
「(ご主人様、どうして土地なのですか?)」
「(いや、魔法の練習ができる場所がちょうどほしいなーって。ほら、うちの訓練場じゃ試せるものも限られるし)」
もらえばもらえたで嬉しい。
そう考えての発言。まぁ、どうせもらえないけど、と。
アリスはイクスの話を聞いて、何あら考え込み始めた。
「(だったら私の持ってる資産をとりあえず運用して……まず土地を購入できるよう国に申請しとかなきゃいけないよね。最悪お父様にお金を借りて……)」
そして———
「わ、分かった! 私、頑張ってみるね!」
拳を握り、気合いを見せたあとそそくさとどこか行ってしまった。
どこか急いで準備しないとと、時間が惜しいとでもいわんばかりの様子で。
「……ご主人様の鍛錬スペースが増えましたね」
「む、なんだと!? 鍛錬か!?」
「えー、流石にないんじゃない?」
取り残された三人。
とりあえず帰るかと、馬車が停まっている場所へ向かうべく足を進めたのであった。
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