やっぱりかっこいい
実際にゲームでこんなシーンがあったかは分からない。
そんなに細かく覚えていればきっと今までの人生苦労しなかったし、そもそもゲームをしてから結構な日数が経ってしまった。
あったとしても「こんな展開だったっけ?」と首を傾げるだけだ。
とはいえ、イクスには関係のない話ではあった。
(す、ばらしいっ!)
相手は、明らかに女の子を虐めるクズ共。
人数は三人。そして、傍にはゲームのヒロインが。
もしこれで完膚なきまでにこの男達を倒せば、改めて実力差を見せつけることができる。
聖女であるエミリアの時は、あまり思った反応ではなかった。
もしかしたら、アリスも同じなのでは? そんな疑問が、正直「英雄様っ!」と呼ばれていた時心の中にはあった。
(だが、それも多勢に無勢の中で勝てば……改めてッ!)
飛び膝蹴りを食らった男は吹き飛ばされてしまう。
いきなりのことに、残っていた男達は面食らった表情になったが、すぐさま我に返り―――
「て、てめ……ッ! お前、クズのイクスじゃねぇか! 何しやがる!?」
「ははッ! いちいち問答しなきゃ理解すらできねぇのか!? 喧嘩売られたら、やることなんて一つだろうが!」
イクスの拳が男の顔に突き刺さる。
やられると、そう思ったのか……もう一人の男は隙だらけな大きなモーションで拳を振りかぶった。
しかし、イクスは男の顔を掴んでそのまま膝を叩き込む。
「ばッ!?」
「どうした、
イクスのテンションは高くなっていく。
もしかしたら、今日思ったような展開にならなかった鬱憤が溜まっていたからなのかもしれない。
だが、そう分かっていてもイクスの暴力は止まることはなかった。
何せ、
(女の子を囲んで殴ろうとしてたんだ! 万が一教師に捕まっても、いくらでも言い訳ができるってもんよ!)
さらに、こういう他人を見下して自分勝手に行動する輩は、下から与えられた屈辱には耐えられない。
いくらボコボコにやられてしまったとしても、己のプライドや面子のせいで
それがクズで無能だと蔑んでいたイクスであればなおさらだ。
だからこそ、思う存分に戦える。
(あ、でもなんで勝手に体が動いたんだ……?)
もう少し考えてから動いてもよかったはずなのに───
(ハッ! ま、まさか俺はヒロインをまた心配して……ッ!?)
なんてことを思ってしまい、イクスはショックを受けたような顔をした。
自分の破滅フラグをじゃんじゃか立ててくるような人間に? マジで?
「この、俺が……!?」
甘い考えすぎだろ。
イクスは自分の頬を両手で叩く。
「あ、危ないっ!」
ふと、背後から高い声音が聞こえてくる。
すると、初めに蹴り飛ばした男の手から雷が現れているのが視界に入った。
「ぜ、絶対に許せねぇ……ッ!」
イクスは説教を受けていたために聞いていなかったが、校内で授業以外での魔法の使用は禁止されている。
それは単純に喧嘩が過激になってしまうから、危ないからという理由があるのだが、どうやら頭に血が上った男は考えていないようだ。
「死ねやクズがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
遠慮なく、躊躇もなく。
細い雷の一閃がイクスに向かって放たれる。
しかし、イクスは獰猛に笑って―――
「まぁ、もう気にしても仕方ないッ!」
「ちょ、やめッ!?」
掴んでいたもう一人の男を盾にした。
「んな!? お前、何やって!?」
「はっはーッ! 手にあるものを最大限活用して戦うのが、戦闘のマナーだろうが! どの場面で育ちのよさなんか見せてんだよ!」
白目を剥いて口から何やら煙を出している男を、イクスは適当に放り投げていく。
「いいか、これはご丁寧に客席で誰かが見守って拍手してくれる戦闘じゃねぇんだ」
もう一人の、魔法を放ってはいなかった男が背後から拳を振りかざす。
だが、イクスは振り返ることなく裏拳を的確に顎に当て、脆い意識を確実に奪った。
―――一対一。
残った最後の一人の腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。
イクスは「魔法を撃ってきた威勢はどこ行ったんだよ?」と、蔑むように笑みを浮かべてゆっくりと近づく。
「お前らが多勢に無勢で女の子を虐めてきた時点で、野郎に気遣いなんかあるわけねぇだろ」
「だ、だけどお前には関係な———」
「なかったとしても、だ」
イクスは足を顔面目掛けて振り抜く。
「こっちにはちゃんとした理由があるんだよ」
♦♦♦
『こっちにはちゃんとした理由があるんだよ』
アリスは一部始終を特等席で見ていた。
先程まで怖かった男達が、たった一人の少年に倒されていくという光景を。
何も思わないわけがない。
確かに、圧倒的で「やりすぎなんじゃ?」と思わないこともない。
しかし、元より言いがかりで暴力を振るおうとした相手だ、慮るようなことも心配するようなことはない。
それより―――
(も、もしかして……私のため?)
ちゃんとした理由。
憶測でしかないが、自分が虐められているから駆けつけてくれたのか?
ふと、そう思ってしまった。
でも、すぐさまその考えを頭の隅へ追いやる。
(ううん、彼は誰であっても助けようとしたはず)
だって、自分の時もそうだったから。
あの時、自分が死にそうだった時……誰か分からぬまま、彼は助けてくれた。
きっと、今回もそういう類いなのだろう。
(あぁ……かっこいいよ)
バクバクと、心臓が激しく高鳴っているのが分かる。
顔も熱でもあるのかと思ってしまうぐらい火照っていて、誰かに見られでもしたら心配されるのでは? なんて思ってしまうほど。
(私だからってわけじゃないのは分かってるけど……)
目が離せない。
ピンチに颯爽と駆け付けてくれる、イクスの背中に。
そう、その背中はまるで―――
「
その漏れてしまった呟きは、果たしてイクスに聞こえていたのだろうか?
イクスは振り返り、アリスを見て小さく首を傾げるのであった。
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