第11話
「おい!孤児院のデブ!お前まだ冒険者やってんのかよ?」
「本当!孤児のくせに、よくそれだけブクブク太れるよな?!あり得ねーギャハハ〜〜!」
冒険者ギルドに納品をしに来たら、知らない人達になんか言われた。多分、僕のこと。
僕のことはともかく、もし孤児院の子ども達が同じ様に言われたら………みんなが太ってしまったのは僕のせいだから。
……あ。もしかして、この人たちはそれを責めているのかな?
やっぱりシスター・エマが言った通り、僕がやり過ぎだったんだ。でもこの人たちは、シスター・エマに諭されてから、僕がお肉を持って行く回数を減らした事を知らないはず。
よし!それをちゃんと伝えないと!
「僕、みんなにお腹いっぱいご飯を食べて貰いたくて、狩ったお肉を孤児院に持って行ってたけど、シスター・エマに注意されてからは、ちゃんと月1回に戻しました!だからもう大丈夫です!それより………お兄さん達は痩せてるけど、お腹減ってるの?お酒ばっかり飲むと身体に悪いって、シスター・エマが言ってたよ?ギルドのご飯も美味しいけど、テレンスさん(マリーの勤める料理店の店主)のお店のご飯も美味しいから良かったら食べてみてね!」
ふふ!これで誤解も解けるし、マリー姉さんのお店がお客さんでいっぱいになって繁盛したらいいな!
そう思ってケビン兄達の方へ振り返ると、何だか変な笑顔で僕を見ていた。??どうしたんだろう。
「あはははっ!ナツキはそれで良いんだよ!それよりナツキ。悪いけどこれ割ってくれない?さっき森で拾ったんだけど、美味しい木の実が中に詰まってるから、是非ナツキに食べて貰おうと思ってたんだ!」
良かった〜トーマス兄からオッケーを貰えた!それより美味しい木の実?!何でもっと早く言ってくれないんだよ!
トーマス兄から渡されたハードマカダミアって実を2つ手に持って、両手で握りしめる。
すると、パキッと乾いた音が鳴って殻が半分に割れた。その中には、綺麗な白い木の実がギッシリ詰まってる!
「うわ〜〜〜!!!美味しそうな木の実だよ!トーマス兄、これ僕が食べて良いの?!」
「ああ、いいよ。気に入ったら今度森に入った時に沢山採って来よう!」
嬉しいな〜!木の実か〜これなら孤児院のみんなで食べても野菜と一緒で太らないよね?
僕は調理兼用の手持ちナイフで、木の実を殻からくり抜き、薄皮を剥いでその実をマジマジと見た。
匂いは特にない。ナイフには、実を割った時に付いた油が光っている。そしてパパが持ってたゴルフのボールみたいに大っきい!
流石に大きくて口に入らないから、もう半分に割って………いただきます!
「………トーマス兄…………………。」
「ん?どうだ?美味いだろ?」
「すっっっっっごく美味しいよ!ねえ、今から森に採りに行こうよ!」
「えーーー?!明日にしよう〜。それに今から行ったんじゃ中途半端になるよ?どうせなら、明日朝からちゃんと時間を取って行こう?」
「分かった!明日、僕、頑張って採るよ!絶対行こうね!!」
流石、トーマス兄だ!僕も良く見ていたつもりだったけど、こんなに美味しい木の実を見落とすなんて!!!
でも、僕はまだ新米冒険者なんだ。これからケビン兄やトーマス兄みたいに、俺はなる!
《サイド 冒険者ギルド・食堂内》
「おい、さっきの見たか?」
「………見た。」
「あのデブガキ、ハードマカダミアを素手で割ってたぞ?!」
「だから!俺も見てたよ!!」
ナツキに絡んだ2人の冒険者は、顔色を悪くしてさっきの出来事を話し合っていた。
ハードマカダミア。
専用の殻割り万力器でないと割れない様な、とても硬い殻の木の実だ。
それを素手で割ったヤツなんか見たことが無い。
2人は、ナツキのぽっちゃりした容姿から、侮った態度で絡んいたのだった。
雑魚だと思ってたのに、素手でハードマカダミアを割る程の怪力の持ち主だったなんて!
そんな戦々恐々の2人にさらなる追い打ちがもたらされた。
「おい、お前等。今度ナツキをバカにする様なら俺も相手になるからな?」
「そうよ〜。あたしも相手になってあげるわ。ナツキちゃんは、ただのぽっちゃりさんじゃないんだから。動けるぽっちゃりさんなのよ!」
ケビンとトーマスの師匠。元孤児院出身の冒険者夫婦レジンとアルマが2人に釘を刺して来たのだ。
体格もさることながら、冒険者等級の高いレジン達に見下され、ナツキに絡んだ二人組はますます顔色を悪くし、慌てて食堂から逃げて行った。
「ねえ、レジン。明日は私達もナツキちゃん達と同行しない?最近ダンジョンに潜ってばかりだもの。たまには息抜きも必要よ?」
「そうさな。……よし!ならあいつ等の宿に行って声掛けて来るとするか!」
そうして、長身夫婦はギルドの食堂を出て、3人が根城にしている宿屋へ向かうのだった。
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