第7話

 あれから数年。なっちゃんは10歳の誕生日を迎えた。


 異世界に1人で飛ばされてから、孤児院での生活を経て、寂しがり屋で甘えん坊な『なっちゃん』は、後から入って来た子供達の優しくて力持のおにいちゃんに育っていた。



 もう彼を『なっちゃん』と呼ぶ人はいない。



 その呼び名は、パパとママとじいじとばあば、それに王宮で面倒を見てくれたおねえちゃんしか知らない。


 ケビンおにいちゃんとトーマスおにいちゃんは既に孤児院から巣立ち、2人で冒険者をやっている。マリーおねえちゃんは食堂で調理のお仕事を頑張っていた。特に味見には余念が無いと、店のオーナーがため息交じりに語っていたとか。


 この前はケビンおにいちゃん達が狩った、大きな鳥を丸ごと孤児院に持って来てくれた。なっちゃんも含め、孤児院の子供達が歓喜したのは言うまでも無い。


 その時2人はなっちゃんに『一緒に冒険者をしないか?』と声を掛けて来た。


 既に王宮で『無能』と判定されていたなっちゃんは、5歳の時の能力判定は受けていない。


 2人はその理由を知らなかったから、なっちゃんが5歳の判定をしないと聞いてシスター・エマに詰め寄った程だ。


 だがシスター・エマは、王宮のおねえちゃんとの約束を守って何も答えなかった。



 ただ一言だけ『これはナツキの為なのよ』と2人にそっと伝えた。それを聞いたケビンおにいちゃん達は、なっちゃんの判定の事についてそれ以上話す事はしなくなった。



 その為、とくに仕事先も決まっていなかったなっちゃんは、おにいちゃん達に師事し冒険者としてやって行こうと決心した。


 孤児院を出る前日、シスター・エマに今までの感謝を伝え、出来たら王宮のおねえちゃんにも伝えて欲しいと言伝ことづてを託した。


 そして、おねえちゃんと約束した事をしっかり守って、誰にも見られない様に使い続けていた『スキル』で用意した袋をシスター・エマに手渡す。


 その手に乗った袋の重さに、シスター・エマは驚いてなっちゃんを見た。


 なっちゃんから渡されたその袋には、王宮を出された時に貰ったお金の『コピー』が沢山入っていた。


 なっちゃんのスキルで作ったその貨幣は、コピー元の貨幣と材質・装飾、全て何ら変わりはなかった。


 使い込まれた内に出来た無数の『キズ』までもしっかりと模倣されていたのだ。


 使用に問題が無いことは、商業ギルドでも確認済。


 孤児院でお使いを頼まれる度に、試しに1枚スキルで作った銀貨を忍ばせ使ってみたが、咎められる事は無かった。


 日本の紙幣や硬貨の様に通し番号が入っている訳でも無いし、偽造判定の魔道具は、なっちゃんの作った貨幣を問題なしとスルーした。



「ナツキ、これはあなたが使いなさい。孤児院は大丈夫だから……ね?」

「シスター・エマ、僕はこんなに要らないよ。あとはケビンおにいちゃん達と一緒に稼ぐから大丈夫!それにね『コレ』を作るのは今回だけって決めていたんだ!昔ね、僕のおじいちゃんが『宵越しの金は持たねえ!』って言ってたの。ご飯が食べられなくなったら困るけど、お金は沢山持ってても使わなとダメなんだって。だから、僕は必要な分だけあれば十分なんだ!新しいく入って来た子供達にも沢山食べさせてあげてよ!」

「………ナツキ………あなたって子は……」



 なっちゃんの言葉を聞いてシスター・エマはその瞳に涙を湛えた。


 まだ10歳の子供だと言うのに、ケビンやトーマス、マリーにナツキも、なんと優しく育ってくれたことか……。


 笑顔のまま手を振って孤児院から巣立って行くナツキの姿を見ながら、シスター・エマは『彼の者に幸あらんことを』と神に祈った。





氏名 ムラタ ナツキ

性別 男

年齢 10歳

スキル ■■■(コピー)、■■(鑑定)、精神耐性、飢餓耐性、忍耐UP、耐久UP、調理、嗅覚UP、味覚鋭敏、棒術


装備 守護の御守(物理無効)、通園バック(容量無制限・時間経過なし・所有者限定)






□ □ □ □ □



※伏せ字箇所は、適正年齢前に付き初回判定時に表示が正しくされなかった項目とする

※以後のスキルは、転移後に備わったものとする

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