9話 社畜美人と大学に行く②
その次の日。僕と佐藤さんは並んで大学への道を歩いていた。僕の大学まで距離はそこまで無いが、学校が丘の上にあることもあって実際にはその倍程度を歩いているような気持ちになった。
その頃は秋も深まっていて、夏のようなじっとりとした暑さはなかった。だけど佐藤さんは丘を登りなれてなくて、大学に着く頃には肩を上下に揺らしながら歩いていた。
「はぁ……こ、こんなに歩くの……?」
「実際そんなに歩いてませんよ」僕も僕で、運動を普段あまりしていないので丘を登るだけで精一杯だった。
大学に着いた頃には他に学生はぽつりぽつりとしかおらず、時間を確認しても講義まで1時間もあった。いつもはこんな時間には絶対来ないので、僕は佐藤さんに大学を案内することにした。
メインストリートという大通があって、そこから少し抜けると広場がある。そこには中央に大きな噴水がある以外は見渡す限り芝生が生い茂っていて、お昼時には大学生のカップルや友達同士で芝生に座る光景を見ることができる。
「ここ、心地いいねぇ」芝生ノエリアを見た佐藤さんは、早速芝生に寝転がった。促されて僕も芝生に寝転がってみると、秋特有の少し冷たい風が僕の頬を撫でた。
「大学生いいなぁ……毎日こんなこと出来るんだ」
隣で寝転んでいる佐藤さんは、大きく息を吐きながら言った。確かに毎日朝から晩までさ働く社会人にとって、この時間は羨ましいものなのかもしれない。
「ほとんどの大学生は、この時間の貴重さに気がつきませんけどね」
「本当ねー。私も大学生の時、この時間が一生続くと思ってたもん。楽観的だった」
僕は今日だけでも佐藤さんを大学生に戻そうと頑張ることにした。
講義が始まるまで、大学内で1番見晴らしのいい教室や、改装される前の古びた教室……1人でいる時によく行く場所をピックアップした。もっと大学生らしい場所に連れていった方が良かったのではないかと考えたりもしたが、佐藤さんは満足そうに笑っていたので余計なことは考えないようにした。
1時間弱のキャンパスツアーを終え、僕たちは講義の教室へと歩き出した。その頃にはもう学生たちがわらわらと湧いていた。僕も佐藤さんも、その学生たちの集団をかき分けながら歩いた。
「今が1番大学生っぽいかも」
違いないと思う。
「あれ、三船じゃん」
人波の中、僕は一番会いたくない人に出会うのだった。
「中元……」
それは大学で唯一の友人だった。
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